九十九回目の別れ

九十九回目の別れ

砺波 俊克

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小山 樹(こやま いつき)が九十九回目に私の心を壊したのが、最後だった。 私たちは港北高校のゴールデンカップルで、二人で青学に行く未来が完璧に描かれていたはずだった。でも高校三年生の時、彼は転校生の莉緒(りお)に恋をした。私たちの恋物語は、彼の裏切りと、私の「別れる」という空っぽの脅しが繰り返される、病んで疲れ果てるだけのダンスに成り下がった。 卒業パーティーで、莉緒は「うっかり」私をプールに引きずり込んだ。樹は一瞬の躊躇もなく飛び込んだ。もがく私の横を通り過ぎ、莉緒の腕を掴んで、安全な場所へと引き上げた。 友達の歓声に応えながら彼女をプールサイドに上げた後、樹は私を一瞥した。体は震え、マスカラが黒い川のように頬を伝っていた。 「お前の人生は、もう俺の問題じゃない」 その声は、私が溺れている水と同じくらい冷たかった。 その夜、私の中の何かが、ついに砕け散った。家に帰り、ノートパソコンを開き、入学許可を確定するボタンをクリックした。 彼と一緒の青学じゃない。日本を横断する、ニューヨーク大学(NYU)へ。

第1章

小山 樹(こやま いつき)が九十九回目に私の心を壊したのが、最後だった。

私たちは港北高校のゴールデンカップルで、二人で青学に行く未来が完璧に描かれていたはずだった。でも高校三年生の時、彼は転校生の莉緒(りお)に恋をした。私たちの恋物語は、彼の裏切りと、私の「別れる」という空っぽの脅しが繰り返される、病んで疲れ果てるだけのダンスに成り下がった。

卒業パーティーで、莉緒は「うっかり」私をプールに引きずり込んだ。樹は一瞬の躊躇もなく飛び込んだ。もがく私の横を通り過ぎ、莉緒の腕を掴んで、安全な場所へと引き上げた。

友達の歓声に応えながら彼女をプールサイドに上げた後、樹は私を一瞥した。体は震え、マスカラが黒い川のように頬を伝っていた。

「お前の人生は、もう俺の問題じゃない」

その声は、私が溺れている水と同じくらい冷たかった。

その夜、私の中の何かが、ついに砕け散った。家に帰り、ノートパソコンを開き、入学許可を確定するボタンをクリックした。

彼と一緒の青学じゃない。日本を横断する、ニューヨーク大学(NYU)へ。

第1章

藤崎 恵梨香(ふじさき えりか)の視点:

小山 樹が九十九回目に私の心を壊したのが、最後だった。

私たちは港北高校のゴールデンカップルになるはずだった。藤崎 恵梨香と小山 樹。いい響きだと思わない?学校の神話の中で、私たちの名前は一緒に編み込まれているようなものだった。彼の実家の裏庭で秘密基地を作っていた子供の頃から、いつもセットで語られてきた。私たちは幼なじみで、アメフト部のエースとダンス部のエース。歩く高校生カップルの見本みたいな、絵に描いたような存在。私たちの未来は、きれいに引かれた地図のようだった。卒業、夏の夜のビーチでの焚き火、そして、青学の隣同士の部屋。完璧な計画。完璧な人生。

樹は、誰もがその周りを回る太陽だった。ただハンサムなだけじゃない。あの、少し崩れた笑顔と、晴れた日の湘南の海みたいな色の瞳。それだけじゃない。世界は自分のためにあって、ただタイミングを待っているだけだと言わんばかりの、傲慢すれすれの自信に満ちた身のこなし。彼は私たちの小さな世界の王様で、私は、喜んでそのお妃様だった。

私たちの歴史は、共有された瞬間のタペストリーだった。初めて歩いた日、初めて話した言葉、初めて彼が大きな試合に勝った後、体育館の裏で交わした初めてのキス。彼の眉の上にある傷が、七歳の時に自転車から落ちてできたものだと私は知っていたし、私が緊張すると口ずさむメロディーが、おばあちゃんが歌ってくれた子守唄だと彼は知っていた。私たちは絡み合っていた。その根は深く絡みすぎて、引き離すなんて、木を大地から引きちぎるようなものだと感じていた。

そして、高校三年生の時、その完璧な地図は破られた。

彼女の名前は、佐々木 莉緒。子鹿のような大きな瞳と、どんな場面でもそれらしい物語を持っている転校生。壊れかけの人形のような、どこか儚げな美しさがあって、周りの人に「守ってあげたい」と思わせるタイプだった。

教頭の田中先生が、樹を職員室に呼び出した。「小山、お前はこの学校のリーダーだ」先生は真剣な声で言った。「佐々木さんは転校してきたばかりで、慣れるのに苦労している。彼女を案内して、学校に馴染めるように手伝ってやってくれ」

その日の午後、樹は私のベッドに倒れ込み、枕に顔をうずめながら文句を言った。「また雑用かよ。やることいっぱいあんだってのに」

「優しくしてあげなよ」私は彼の髪に指を通しながら言った。「すぐに終わるでしょ」

私はなんて、世間知らずだったんだろう。

最初は些細なことだった。莉緒が図書館への道で「迷子になった」から、私たちの勉強会に彼は来なかった。莉緒が「助けを求めてきた」彼がとっくにマスターした数学の問題のせいで、ランチの約束に遅れてきた。

最初のうち、彼の謝罪は誠実で、「義務」に対する苛立ちが滲んでいた。彼は私を抱きしめ、おでこにキスをして囁いた。「ごめん、恵梨香。あいつ、マジで…手がかかるんだ」

でも、その「手がかかる」存在は、すぐに彼の最優先事項になった。謝罪は短くなり、やがて面倒くさそうな肩すくめに変わった。彼のスマホが彼女の名前で震え、彼は電話に出るために席を立つ。冷めていく料理と一緒に、私を一人残して。

最初に別れを切り出した時、私の声は震え、手は汗で滑った。「もう無理だよ、樹。あなたを誰かと共有してるみたい」

彼は青ざめた。その夜、彼は私のお気に入りのカサブランカの花束を持って窓の外に現れた。その瞳には、私たちが十五歳で、彼が混雑したショッピングモールで私を見失ったと思った時以来のパニックが浮かんでいた。彼はもうしないと誓った。私だけだと。

私は彼を信じた。

二回目は、彼が私たちの記念日ディナーをすっぽかして、莉緒を「家族の緊急事態」に送り届けた後だった。結局それは、友達の家に忘れた財布を取りに行くだけのことだったけど。私の脅しは、より固いものになった。「私たち、終わりよ、樹」

今度の彼の謝罪は、長くて心のこもったメッセージだった。約束と、私たちの過去の思い出で埋め尽くされていた。彼は青学での夢を、ビーチのそばで借りるはずだったアパートのことを私に思い出させた。

私は折れた。

十回目、二十回目、五十回目になる頃には、それは病んで疲れ果てるだけのダンスになっていた。かつては本物の痛みから生まれた私の脅しは、空っぽの懇願になった。そして樹は学んだ。私の脅しが空虚なものだと。私がいつもそこにいると。私が彼なしの世界を想像できないと。

彼の傲慢さは確固たるものになった。私の痛みは不都合なものになり、私の涙は子供じみた癇癪になった。「恵梨香、落ち着けよ」彼はテーブルの下で莉緒にメッセージを送りながら、退屈そうな声で言った。「どうせどこにも行かないくせに」

彼は正しかった。私はどこにも行かなかった。今夜までは。

九十八回目の心の傷は一週間前にやってきて、口の中に苦い後味を残していた。でも、この九十九回目は違った。私の最後の希望のかけらを、公衆の面前で処刑するようなものだった。

それは、佐藤 拓也の家での卒業パーティーだった。広大な裏庭と、頭上のイルミネーションを反射してきらめく青いプールがある、よくあるパーティー。莉緒は、ありえないほど短いドレスを着て樹の腕にしがみつき、彼が言った何かに少し大げさに笑っていた。

彼は、芝生の向こうから彼らを見ている私に気づき、視線を合わせた。その瞳に謝罪の色はなかった。罪悪感も。ただ、冷たく挑戦的な視線があるだけだった。

その後、彼女はプールの端で「うっかり」つまずき、倒れると同時に私を巻き添えにした。冷たい水は衝撃的で、ドレスはすぐに重くなり、私を下に引きずり込んだ。私はもがき、滑りやすいタイルに足場を見つけようとした。莉緒はドラマチックに手足をばたつかせ、助けを求めて叫んでいた。

樹は一瞬の躊躇もなく飛び込んだ。でも、彼は私の横を通り過ぎた。彼は莉緒の腕を掴み、プールの端まで引き寄せた。ほんの数メートル先で苦しんでいる私を無視して。

彼が彼女を助け出すと、友人たちが歓声を上げた。彼は振り返って私を一瞥した。髪は顔に張り付き、体は震えていた。

「お前の人生は、もう俺の問題じゃない」

その声は、私が溺れている水と同じくらい冷たかった。

私はなんとか自力で這い上がった。服からは水が滴り、マスカラが黒い川となって頬を伝っていた。私がそこに、ずぶ濡れで屈辱にまみれて立っている間、彼は自分のスタジャンを、全く問題なさそうな莉緒の肩にかけていた。

私は彼らをまっすぐ通り過ぎた。クラスメイトたちの、哀れみと嘲笑の視線を通り過ぎた。一言も発しなかった。

「私たち、終わり」家に帰る途中、誰もいない道に向かって囁いた。その言葉は灰のような味がした。

もちろん、彼は信じていなかった。いつものうんざりするダンスの、新たな一幕だと思っただろう。一日か二日もすれば、私が泣きながら戻ってくると期待していたはずだ。

彼は私を追いかけてさえこなかった。一度だけ振り返ると、彼は笑っていた。その腕はまだ、しっかりと莉緒を抱いていた。

私の中の何か、何年も握りしめてきた、脆くて擦り切れたものが、ついに砕けて塵になった。それは大きな爆発ではなかった。静かで、最後のひび割れだった。

九十九回目。

百回目はない。

家に帰ると、服はまだ湿っていて、玄関の大理石の床に水の跡を残した。私はまっすぐノートパソコンに向かった。指は、まるで他人のもののように、迷いなく動いた。青学の学生ポータルを開く。胸の中で、心臓が鈍く、一定のリズムを刻んでいた。そして、別のタブを開いた。NYU。

指がキーボードの上を飛んだ。出願状況のページに移動すると、合格通知が画面上で輝いていた。そこにはボタンがあった。「NYUへの入学を確定する」

両親が最近、会社の都合でニューヨークへ転勤することが決まっていた。彼らがずっと悩んでいたその異動が、突然、宇宙からのサインのように感じられた。彼らは私に青学に行って、近くにいてほしかった。でも、選択はいつも私に任せると言ってくれていた。

私はボタンをクリックした。

確認ページが現れた。「NYU 202X年度生へようこそ」

私は画面を見つめた。突然こみ上げてきた涙で、文字が滲んだ。でも、それは失恋の涙ではなかった。恐ろしく、そして爽快な、自由の涙だった。

それから、私は彼を消し始めた。スマホから、パソコンから、クラウドストレージから、彼の写真を削除した。SNSで何年分もの写真のタグを外した。壁に飾ってあった額縁の写真を取り外した。もう知らない少年の、そしてもう存在しない少女の、笑顔の写真を。

彼がくれたものをすべて集めた。いつも着ていたスタジャン、高校一年生の時のミックステープ、初めてのプロムのドライフラワーのコサージュ、私たちのイシャルが刻まれた小さな銀のロケット。一つ一つの品を、死んだ記憶の小さな亡霊たちを、段ボール箱に詰めていった。

箱は、あるべき重さよりも重く感じた。私の子供時代のすべてが、そこには詰まっていた。

最後の品は、私たちが十歳の時に彼がカーニバルで取ってくれた、小さな、くたびれたテディベアだった。一瞬、それを手に取った。擦り切れた毛皮が頬に柔らかかった。心が揺らぎそうになった。

でも、プールサイドでの彼の冷たい目を思い出した。「お前の人生は、もう俺の問題じゃない」

私はテディベアを箱に落とし、テープで封をした。

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