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歴史と伝統が連綿と続くアーク王国。その王家の血筋は神代にまでさかのぼるとされており、現代に残る人族の国の中で最も高貴だと言われていました。そんな王家が収める王都は世界中の人や物が集まると言われており、その人々はそれぞれの波乱万丈な人生を歩んでいるのでした。
しかし、お話が始まるのはそんなアーク王国の一番北の端の村。アッコと呼ばれるところから始まります。アッコの周りは近くの山から川が流れている以外は全部が全部森で、その森を北に抜ければ永遠に続くと言われる大平原しかありませんでした。
そんな最果ての村で、アッコの人々は狩りや木を切って生計を立てていました。獣を狩れば、皮は服に骨は装飾品や武器に、肉は大切に食べて。木を切ればそれを簡単な船にして、一帯を統治するミュゼルシュ伯爵が住む領都まで川下り。
波乱万丈とは程遠い、王都の人間からすれば平坦で牧歌的な生活を送っていました。
そして、物語はとある年の、雪降る日から始まります。
アッコに降る雪はどこまでも白く、そしていつも突然でした。曇り空から雪が降り始めたかと思うと、急に目の前が真っ白になるほどにふぶき始めるのです。そんなこの地域特有の雪に、その日偶々村に来ていた商人は大慌てで一番近くの屋根がとても尖がった家に転がり込みます。
「すみません。雪が落ち着くまでここにかくまってもらえませんか?」
悲鳴にも似た懇願の声に、家の奥から現れたのは、真っ黒な髪を肩口までで切りそろえた少女でした。瞳は灰色で、肌は雪のように白く、年のころは五歳ほどでしょうか、まだ男の子と性差が出ていないようでした。
「お父さん!商人さんが雪に巻かれたみたい」
少女がそう家の奥に声をかけると、出てきたのは筋骨隆々としたひげを生やした大男でした。少女の父親は、首を傾げながら娘と焦った表情の商人とを見比べます。
「ヤーカ。商人さんがなんだって?」
「雪に巻かれて帰れないみたい」
ヤーカと呼ばれた少女は、家の戸を開いて、外のホワイトアウトしている景色を見せます。すると、大男は得心がいったと商人へと目を合わせます。
「なるほどこれは災難でしたね。うちでいいなら泊めましょう」
家主の許しがもらえたことに商人はほっと胸をなでおろし、外にあった馬車から次々と荷物を家へと運び込んでいきます。大男とヤーカはそれを手伝いますが、一つだけ商人の資産で手放さなければいけないものがありました。
「馬は諦めた方が良いでしょう。この村には飼い葉がないので」
馬車を引く馬です。北の過酷な環境でも耐えられるような、体毛がしっかりと生えて足腰が実に太い馬でしたが、アッコの雪には耐えられないと大男は言います。
「雪は、どれくらい続くでしょうか?」
商人は馬が諦めきれないと、そう言いますが、大男は首を振って「雪は止んでも、積もった物は春まで残る」と言いました。飼い葉がないので家には置いておけず、かといって野放しにするのはただ財産を手放すだけで。
商人は肩を落として、馬を失うばかりか、春までこの家に厄介になる可能性に大きなため息をつきました。
「そうですか。では、家賃代わりに、馬を潰しましょう」
その言葉に大男は頷くと、ヤーカにナイフを持ってこさせます。そして、ひざ下まで積もり始めた雪に体が埋もれないようにせわしなく動く馬の前に、大男とナイフを持ったヤーカが立ちます。
未だに吹雪は続いていて、そんな中で大男はヤーカの後ろに回るとナイフを彼女の手の上から握ります。
「いいか?ヤーカ、生き物はこうやって殺すんだ」
そう言って、大男はヤーカの手を誘導しながら馬を刺します。すると、ナイフと肉の間から鮮血が一気に噴き出して、真っ白な雪を水へと溶かしながら赤色に染めていきました。
突然のことに馬は大きく嘶き、暴れ始めます。大男は小柄なヤーカが踏みつぶされないように彼女のことを抱き上げ、一歩下がります。
「わかったか?」
大男は視線を下げて、ヤーカのことを見ます。大男は彼女のことを狩人として育てるつもりはありませんでしたが、狩人の村の人間としてこれは必要なことだと思っていました。
ヤーカもそれはわかっていて、雪の上でのたうち回る馬のことをじっと見つめていました。
「うん」
そして、小さく頷きました。
商人がヤーカの家に泊まる時の顛末はそんなもので。アッコの厳しい冬を商人は家の中でじっとすることで過ごしていました。しかし、働くもの食うべからず、働かないならそれ相応の物を差し出すということで、商人はいくつかの生活必需品を家に収めることにしました。
そして、生活必需品とは別に、商人は10人いたヤーカの家の一人一人にお気持ちとしてプレゼントをすることにしました。ですが、ヤーカ以外の9人はやはり生活に必要な弓や剣、布をもらい受けるのでした。