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7年間愛した彼, 智史との婚約披露パーティー. 私たちの愛の軌跡をまとめた映像が流れるはずだった.
しかし, スクリーンに映し出されたのは, 彼と彼の秘書, そして見知らぬ子供が寄り添う, まるで本当の家族のような映像だった.
私のお腹には彼の子供が宿っていたのに, 彼は私に隠れて秘書とその息子に全てを与えていた. 私とお揃いのブレスレット, 彼がデザインした産後ケアセンター, そして「奥様」という地位まで.
絶望のあまり子供を諦めた私を, 彼は病院で突き飛ばし, 大出血する私に「芝居をするな」と罵倒した. その瞬間, 私の愛は完全に消え失せた.
「貴方は, 私にとって虚無です」
そう告げて私は全てを捨て, 海外へと旅立った. これは, 裏切りの果てに, 私が本当の自分を取り戻すまでの物語.
第1章
婚約披露パーティーで流れるはずだった二人の愛の映像は, 智史と見知らぬ女が子供を抱く親密な映像に差し替えられていた. 私の心臓は, まるで氷の塊を飲み込んだかのように冷たくなった.
私たちは七年間付き合っていた. 智史, 夏目智史は, 私の人生のすべてだった. 彼の才能, 彼の笑顔, 彼が私に向けてくれた優しい眼差し. それらすべてが, 私をこの七年間支えてきた.
今日は彼の建築事務所の創立十周年と, 私たち二人の婚約発表を兼ねた, 大切なパーティーだった. 会場は最高の場所を選んだ. 智史がデザインを手がけた, 都心でも一際目を引く, あの有名な「クリスタルパレス」だ.
私と智史は, この日のために, 半年も前から準備をしてきた. 智史は忙しい合間を縫って, 私の漆器職人の仕事場にも足を運んでくれた. 彼は私の作品について熱心に語り, 私が作るものに心から敬意を払ってくれた.
私たちが選んだ婚約指輪は, 智史がデザインし, 私が螺鈿細工を施した, 世界に一つだけのものだった. 私たちの愛の証. 私はそれを薬指にはめ, 智史の腕にそっと手を添えていた.
会場には, 建築業界の重鎮たち, 智史のクライアント, そして私の家族や友人たちが集まっていた. 皆が私たちを祝福し, その笑顔は会場のシャンデリアの光に劣らず輝いていた.
司会者がマイクを握り, 智史の功績を称え, そして私たちの愛の物語を語り始めた. 彼は, 智史がいかに私を大切にし, 私たちの未来を真剣に考えているかを熱弁した.
「夏目先生は, 蓮美さんのためならどんな苦労も惜しまない, 真のロマンチストです! 」
その言葉が響いた瞬間, 会場の照明がゆっくりと落ち, 巨大なスクリーンに映像が映し出された. 本来ならば, 私たち二人の思い出のアルバムが流れるはずだった.
しかし, そこに映し出されたのは, 智史と, 見知らぬ女性, そして幼い男の子が, まるで本物の家族のように寄り添い, 楽しそうに笑い合う姿だった.
一瞬, 何が起こっているのか理解できなかった. 会場全体が, ざわめきから一転, 不気味な静寂に包まれた. 私の心臓は, ドクン, と大きく一度脈打った後, まるで止まってしまったかのように感じた.
スクリーンの中の智史は, 私が見たこともないほど優しい顔で, その女性の髪を撫で, 子供の頭を愛おしそうに抱きしめていた. それは, 智史が私に見せた, どの表情よりも, もっと深く, 親密なものだった.
隣に立つ智史の顔が, みるみるうちに青ざめていくのが分かった. しかし, もう遅い. 映像は止まらない.
そして, 私の視線はある一点に釘付けになった. スクリーンの中の女性が, 智史の腕に抱かれた子供のジャケットを直す仕草をした時, 彼女の手首に光るものが見えた.
それは, 智史が私にお揃いで買ってくれた, あのペアブレスレットだった. 私が毎日身につけ, 私たちの愛の象徴だと信じていた, あのブレスレット.
彼女は, 智史の秘書である, 松沢貴江だった.
貴江は, 私が智史に出会った頃から, 彼の秘書を務めていた. いつも完璧な秘書で, 智史のスケジュールを管理し, 私にも常に丁寧で礼儀正しかった. まさか, 彼女が.
会場のざわめきが, 再び大きくなる. 今度は, 祝福の声ではなく, 困惑と好奇心, そして嘲りの声が混じり合っていた.
智史が慌ててスクリーンを止めようと, 壇上から駆け出した. しかし, 映像は止まらない. いや, 止めることができないように, 誰かが意図的に仕組んだかのようだった.
貴江が私の元に駆け寄ってきた. 彼女の顔には, 困惑と, ほんの少しの恐怖が浮かんでいた.
「蓮美さん, 違います! これは誤解です! 松沢さんの息子さんのためのチャリティーイベントの, 慈善活動の映像です! 」
貴江は必死にそう訴えたが, その声は震え, 説得力に欠けていた. チャリティー? 智史が私に見せたことのない, あの親密な笑顔が?
「智史さん, これは一体どういうことですか? 」
私が尋ねると, 智史は一度も私と目を合わせようとせず, 焦った声で言った.
「蓮美, 今は落ち着いてくれ. このことは後で説明する. とにかく, 今は場を収めなければならない」
彼の声には, 私への配慮も, 私への愛情も感じられなかった. あるのは, ただ, この状況を乗り切ろうとする, 冷たい理性だけだった.
会場の熱気は, 瞬く間に冷え切っていた. まるで, 炎が消え去った後の残り火のように, 冷たく, そして重苦しい空気が漂っている. 出席者たちの視線が, 私と智史の間を行き来する. 彼らの目には, 同情, 好奇心, そして, 中には明らかな軽蔑の色さえ見て取れた.
私の胸には, まるで冷たい石が詰め込まれたかのような重苦しさがあった. 七年間の信頼が, まるで砂の城のように崩れ去っていくのを感じた. しかし, 私はなぜか, 感情を表に出すことができなかった. 涙も怒りも, 私の内側で凍り付いてしまったかのようだった.
智史は, 私の隣で, まるで彫像のように固まっていた. 彼は会場のざわめきや, 人々が彼に向けている嘲りの視線に, 気づいていないようだった. いや, 気づいていても, それを受け入れる準備ができていないかのようだった.
私は, ゆっくりと智史の手を振り払った. 彼の体温が, 私の指先から離れていくのを感じた.
「おめでとうございます, 智史さん」
私の声は, 驚くほど冷静で, そして乾いていた. まるで, 他人の出来事を語るかのように.
「貴方の新しい家族の誕生を, 心からお祝い申し上げます」
私の言葉に, 会場はさらに静まり返った. 司会者も, 貴江も, そして智史も, 目を丸くして私を見つめていた. 誰もが, 私がこんな言葉を口にするとは思っていなかったのだろう.
「蓮美, 何を言っているんだ? 」
智史の声には, 困惑と, かすかな怒りが混じっていた.
私は, 智史の顔をまっすぐに見据えた. 彼の瞳の奥には, 恐怖が揺れていた.
「私には, 貴方のような人を夫にする資格はありません」
私は, 薬指から婚約指輪をそっと外した. 智史がデザインし, 私が螺鈿細工を施した, あの世界に一つだけの指輪. それは, 私の掌の上で冷たく輝いていた.
「この指輪は, 貴方の愛の証. でも, 貴方の愛は, 私だけのものではなかったようですね」
私は指輪を貴江の方へと向けた.
「貴江さん, 貴方なら, この指輪を智史さんから受け取るにふさわしいでしょう. きっと, 貴方の方が, 智史さんの愛を独り占めできるはずです」
貴江は, 顔色を変え, 一歩後ずさった. 彼女の目には, 明らかな動揺が浮かんでいた.
智史が, 私の腕を掴もうと手を伸ばしたが, 私はそれを素早くかわした.
「蓮美! 」
彼の声には, 焦りと, そして, 私を失うことへの微かな恐怖が混じっていた. しかし, もう遅い.
「貴方こそ, 何を言っているんですか! 」
智史が, 私の言葉を遮るように声を荒げた. 彼の顔は怒りで歪んでいた.
「こんな場所で, 私に恥をかかせるつもりか! 私たちは婚約しているんだぞ! 」
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