殺人犯と結婚した俺はいかれていない

「彼女が子供を持てないことを理由に、離婚を考えるのはどうだろう?」

有栖川朱音はドアの外に立ち、全身が冷たくなった。 まさか、普段はとても親切な義母がこんなことを言うとは思わなかった。

彼女が子供を持てない?

彼女と宋佑辰はビジネスのための結婚だった。 結婚の一ヶ月前、宋佑辰は交通事故で足をひどく負傷し、危うく切断されるところだった。 皆が彼女に結婚をやめるように勧めたが、彼女は約束を守るべきだと考え、迷わず結婚した。

結婚して一年以上、宋佑辰はずっと治療とリハビリを続けており、二人は関係を持ったことがなかった。 それなのに、今になって彼女に子供を持てないという責任を押し付けようとしているのか?

「沈氏は大きな問題を抱えている。 会社内部で十数億の赤字が出て、沈天明がそれを処理しようとして事故で亡くなった。 この責任は有栖川朱音に降りかかるだろう。 早く離婚しなければ、我々宋家に影響が出るに違いない。

」 「我々が有栖川朱音を迎えたのは、宋家と沈家が互いに支え合い、より高く遠くへ進むためであって、彼らに足を引っ張られるためではない。

」 「佑辰、君はどう思う?」

有栖川朱音は歯を食いしばり、全身が震えていた。 宋佑辰はきっと拒否してくれるはずだ。 彼女は宋家でこの一年以上、彼に尽くしてきたのだから。

「急ぐことはない。 」

有栖川朱音がそう考えていると、宋佑辰の重い声が聞こえてきた。 彼女はまだ息をつくことができず、彼の続く言葉を聞いた。 「沈家は問題を抱えているが、沈天明は有栖川朱音にまだ多くのものを残している。

」 「まずは彼女を助けるふりをして、手に入れられるものをすべてお金に換えさせる。 お金を手に入れたら、その時に離婚する。 」

宋佑辰!なんて冷酷なんだ。

有栖川朱音の頭は真っ白になり、ぼんやりと後ろに一歩下がったが、後ろに階段があることを忘れていた。 彼女は足を踏み外し、地面に倒れた。

「誰だ?」

有栖川朱音は慌てて立ち上がり、振り返って走り出した。

「有栖川朱音だ。 彼女は全て聞いてしまった。 逃がしてはならない。 」

夜は暗く、雨はますます激しく降っていた。

雨の降る夜、普段は車で賑わう通りには一台の車も見えなかった。

有栖川朱音の頭は真っ白で、雨が視界をぼやけさせ、今どこにいるのかもわからず、ただ無意識に足を動かして走っていた。

突然、前方からライトが彼女に向かって射してきた。 ライトがあまりにも眩しく、有栖川朱音は立ち止まり、手で目を覆った。

その車は突然加速し、有栖川朱音に向かって突進してきた。

「ドン」という音とともに、有栖川朱音は5、6メートル飛ばされ、全身が粉々にされたように痛み、声を出すことすらできなかった。

車は止まり、誰かが降りてきて、彼女の状況を確認した。

「宋さん、まだ死んでいません。 もう一度ぶつけますか?」

続いて聞こえてきたのは、宋佑辰の冷たい声だった。 「ぶつけろ。 」