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本来なら、今日は結婚の誓いを新たにする日だった。夫、天宮玲の都知事選に向けた、重要なPRイベントになるはずだった。
でも、薬で朦朧とした意識の中、私が目覚めたとき、彼は祭壇に愛人と立っていた。
彼女は、私のウェディングドレスを着ていた。
隠されたバルコニーから、私は見ていた。彼が私にくれた指輪を、街のエリートたちの前で、彼女の指にはめていくのを。
彼を問い詰めると、愛人が妊娠したこと、彼女が「精神的に不安定」で式が必要だったから私に薬を盛ったのだと言われた。私を役立たずの専業主婦と呼び、笑いながら、彼と「信子」の赤ん坊を一緒に育てればいいじゃないかと提案してきた。
私の人生の七年間、私の戦略、私の犠牲が、彼の帝国を築き上げた。それを、たった一杯のシャンパンで消し去ろうとしたのだ。
でも、離婚を成立させるために家庭裁判所で会ったとき、彼は交通事故で記憶喪失になったフリをして現れた。「結婚式の日」に僕を捨てないでくれと、泣きながら懇願してきた。
彼はゲームをしたいらしい。ならば今度は私が、このゲームのルールを決める番だ。
第1章
シャンパングラスが、手のひらで冷たかった。ブライズルームに充満する、むせ返るような香水の甘さとは対照的に。今日は、結婚の誓いを新たにする日のはずだった。夫、天宮玲が何年も前から約束してくれた、壮大なセレモニー。彼の都知事選キャンペーンの、目玉となるPRイベント。
でも、何かがおかしい。頭が重く、思考がまとまらない。視界の端がぼやけていく。飲んだシャンパンは一杯だけ。一時間前に、玲自身が手渡してくれたものだ。
「緊張をほぐすためだよ、愛しの亜希子」
彼はそう言った。その笑顔は、彼の政治的野心と同じくらい、磨き上げられていて完璧だった。
ビロードのソファから体を起こそうとするが、足元がおぼつかない。何か月もかけてデザインした、手作りのレースのウェディングドレスが、自分の肌の上で異物のように感じられる。よろめきながら姿見に近づいた瞬間、全身の血の気が引いた。
鏡に映っていたのは、私ではなかった。
そこにいたのは、藤堂美咲。勝ち誇ったような笑みを浮かべ、私のドレスを着ていた。
夫の、愛人。
息が喉に詰まる。下のグランドホールから音楽が響き、司会者が式を始める声が聞こえてくる。恐ろしい真実が津波のように押し寄せ、吐き気に襲われた。彼は私に薬を盛ったのだ。そして、祭壇の上で私をすり替えた。
私はスイートルームから転がるように飛び出した。動きは鈍く、必死だった。廊下を抜け、小さな通用口を通り抜けると、メインホールを見下ろせるバルコニーに出た。眼下では、私が選んだ白いバラの天蓋の下で、玲が美咲に満面の笑みを向けている。彼が彼女の指に指輪をはめる。それは、めまいがし始める直前に、この部屋で彼が私に贈ってくれたものと全く同じだった。招待客たち、つまりこの街の政治エリートたちが、盛大な拍手を送っている。
これは公開処刑だ。そして、笑いものにされているのは、私だった。
鋭く、熱い怒りが、朦朧とした意識を焼き尽くしていく。私は待った。式が終わり、マスコミが写真を撮り終え、ゲストがカクテルを飲み始めるまで。豪華な会場の静かな一角、書斎で彼を見つけた。美咲も一緒だった。彼女は彼の首に腕を回し、二人はまだ祝杯のキスを交わしていた。
私が入っていくと、二人は離れた。その顔に驚きや罪悪感の色はない。ただ、独りよがりな満足感だけが浮かんでいた。
「玲、これは一体どういうこと?」
私の声は、かすれたささやき声になった。
彼は鼻で笑った。人を小馬鹿にした、醜い音だった。彼はカフスを直し、その目は冷たく、私が知っているどんな感情も映していなかった。
「亜希子、事を荒立てるな。みっともない」
「事を荒立てるなですって?」
私は壊れたように、ヒステリックに笑った。
「あなたは私に薬を盛って、街中の人の前で愛人と結婚したのよ。それで私にみっともないって言うの?」
「必要だったんだ」
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