三年間、私は黒い日記帳に、ゆっくりと死んでいく結婚生活を記録し続けた。
それは「離婚までの100点プラン」。
夫である蓮が、初恋の相手、愛梨を私より優先するたびに、ポイントを引いていく。
点数がゼロになったら、私は家を出る。
最後のポイントが消えたのは、彼が交通事故で血を流す私を置き去りにした夜だった。
私たちは、あれほど祈った子供を授かり、妊娠八週目だった。
救急治療室で、看護師たちが必死に彼に電話をかけていた。
彼は、私が死にかけているこの病院のスター外科医なのだ。
「神宮寺先生、身元不明の女性です。O型Rhマイナス、大量出血しています。妊娠中で、母子ともに危険な状態です。緊急の輸血許可をお願いします」
スピーカーから聞こえてきた彼の声は、冷たく、苛立っていた。
「無理だ。俺の最優先は白石さんだ。その患者にはできる限りのことをしてやれ。でも、今はこちらから何も回せない」
彼は電話を切った。
元カノが簡単な処置の後に万全の態勢でいられるようにするためだけに、自分の子供を見殺しにしたのだ。
第1章
神宮寺蓮は、そのノートを見つけるなんて思ってもみなかった。
共有クローゼットの奥で、父から贈られたお気に入りのプラチナのカフスボタンを探していた時のことだ。
指先が、詩織の冬用ブーツの後ろに隠された靴箱の中にある、革張りの日記帳に触れた。
彼女のものではない。彼女の日記帳はいつもカラフルで、建築のスケッチで埋め尽くされている。
これは、地味な黒一色だった。
彼には珍しく、好奇心が湧いた。
彼はそれを開いた。
最初のページには、詩織の丁寧で正確な字でタイトルが書かれていた。
『離婚までの100点プラン』
蓮は眉をひそめた。
下に書かれたルールを読む。
開始点数:100点。
この結婚が間違いだったと証明される行動一つにつき、点数を減点する。
点数がゼロになった時、私は離婚を申請する。例外はない。
彼は短く、乾いた笑いを漏らした。
ゲームだ。妻がやっている、くだらない遊びに違いない。
彼はページをめくった。
それぞれの日付には、彼の「罪状」とされるものが几帳面に記録されていた。
-1点:彼はまた結婚記念日を忘れた。愛梨と夕食を共にしていた。
-2点:愛梨の犬が病気になったからと、私たちの旅行をキャンセルした。彼は週末を彼女のアパートで過ごした。
-1点:彼は間違えて私を「愛梨」と呼んだ。
-3点:私がずっと探していたヴィンテージワインの最後の1本を、愛梨の誕生日にプレゼントするために買った。
リストは、ページからページへと続いていた。
彼の怠慢を詳細に、痛々しく記録した年代記。
蓮は罪悪感ではなく、苛立ちを覚えた。
彼はそれを自分の失敗の記録としてではなく、詩織が彼の友人である白石愛梨に執着している証だと考えた。
愛梨は彼の初恋の相手で、何年も前に彼女が去った時、彼を打ちのめした女性だった。
詩織はそれを知っていた。
彼は失恋の反動で詩織と結婚した。
良家出身で、都合のいい、安定した選択肢。
彼がキャリアに集中し、正直に言えば、傷ついた心を癒している間、神宮寺家を管理できる人物。
彼はノートを閉じ、苛立ちは冷たい無関心へと変わった。
彼はそれを箱に放り投げた。
馬鹿げた、子供じみたリスト。
何の意味もない。
彼はカフスボタンを見つけ、クローゼットのドアを閉めた。
ノートのことはすでに彼の心から消えかけていた。
もっと考えるべき重要なことがある。
ブリーフケースには、愛梨への特注のネックレスが入っている。
彼女のアートギャラリーがグランドオープンするのだ。彼はそこにいなければならない。
彼はリビングに入った。
詩織はソファに座り、大きなパッドにスケッチをしていた。集中して眉をひそめている。
彼が入ってくると、彼女は顔を上げた。その瞳には、彼がとうの昔に気づかなくなった、希望の光が宿っていた。
「早かったのね」彼女の声は柔らかかった。
「またすぐに出かけないといけないんだ」彼はネクタイを緩めながら答えた。「愛梨のギャラリーのオープニングだ」
彼女の瞳の光が消えた。
「ああ。そうだったわね」
彼はコーヒーテーブルの上にあるノート、彼女のスケッチブックの一つに目をやった。
開かれたページをちらりと見る。
それは、柔らかい光に満ちた、詳細な子供部屋の絵だった。
ベビーベッド、小さな星のモビール、ロッキングチェア。
彼は胸に奇妙な痛みを感じた。
今まで感じたことのない、名状しがたい感情だった。
彼らは一年以上、子供を授かろうと努力していた。
「クライアントのか?」彼は平坦な声で尋ねた。
詩織は素早くスケッチブックを閉じた。
「ただのアイデアよ」
彼はそれ以上追及しなかった。
どうでもよかった。
彼の心は愛梨にあった。
彼は時計を見た。
そろそろ出なければ。
誰よりも早くそこに着き、彼女がネックレスを見た時の顔が見たかった。
彼はそこに立っていた。二人の間には静かな壁があった。
その時、彼の電話が鳴った。
親友の誠からだった。
「蓮!ニュースをつけろ!今すぐ!」誠の声は必死だった。
蓮はリモコンを掴み、テレビをつけた。
ライブのニュース速報が画面に映し出された。
ビルが炎に包まれている。
濃い黒煙が夜空に立ち上っていた。
レポーターの声は緊迫していた。
「消防隊が、グランドオープンのわずか1時間前に大規模な火災が発生した、ダウンタウンの新しい白石ギャラリーの現場に到着しています…」
蓮の血の気が引いた。
愛梨。
世界がその一言に収束した。
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