神になる
作者崔 彰寛
ジャンルファンタジー
神になる
ルオ家の子供たちは、ゼンが2年間サンドバッグであったという事実を得心して、遂に彼の行動に疑念を抱くのを止めた。 2年間の奴隷生活の末、まだ健在であることを考えると、彼は相当強い生命力の持ち主に違いない、と結論付けたのだ。 幸いなことに、子供たちにとっては、過酷な状況下でサンドバッグがどのように生き残るかなどは重要な案件ではなかった。 結局のところ、彼らの課題は人々を殴る練習をすることで、 殴る対象を研究することでは無く、 仮にゼンが何か特別な防御策を知っていたとしても、それについて学ぼうとはしなかった。
そうしてる間にも、ゼンの不純物はどんどん洗い流されていき、 入浴するたびに地面を流れる水は、牛乳と同じくらい濃厚だった。
すぐに、ゼンの計画は実を結び、 身体から毎日除去される不純物の量は、他の精錬に励む人の何ヶ月もかかってやっと除去される不純物と同量だった。 それは、自分の一日の鍛錬が、他の人の何ヶ月もの鍛錬と同じ効果をもたらしていることを意味する。 この奇跡のような効率の良さに、ゼンは満足感を覚えた。
やる気に満ち溢れたゼンは、クタクタになるまで奮闘し続けた。 日中はサンドバッグを買って出、夜は自主練習に費やし、 一秒たりとも無駄にはしなかった。
ゼンの身体の改善と武道の知識は彼の精神を養い、 ほとんど眠っていなかったにもかかわらず、その目は澄んでいて明るかった。
彼が活力にあふれ、安定した精神を保てていたいたもう一つの理由は、神秘的な「九つの竜の炉」の存在だった。 精製炉は魂を浄化し続けていて、 その度にゼンは同じ苦しみも味わった。 そして魂が千回もバラバラに壊されているような痛みに襲われるたび、崩れるように倒れ、もがきながらひたすら死を願った。
それでも、発作が消失し、我に返って苦しみを乗り越えたことに気付いたとき、彼の精神は飛躍的に成長していた。 身体だけではなく、魂も精錬の過程にあったのだ!
人体のすべての部位の中でも、魂は浄化するのが最も困難な場所である。 肉体の鍛えなら、誰でも自分の身体を動かすことができ、 武道の心得のない者さえも、素人なりの鍛錬はできるだろう。
しかし、魂は身体の奥深くに隠されていて、 それは目に見えず、触れることもできない。 何しろ魂の宿る場所は仏教でいう儚い彼岸の地と同じような、凡人には泳ぎ着くのが困難な場所なのだ。
聞くところによれば、青雲宗には、魂の精錬やその他の古典など、 人間の魂に影響を与える方法についての本がいくつかあるようだ。
魂の不思議な領域に到達する方法が分からなかったゼンは、 代わりに、毎日身体を精錬することに焦点を置いた。
時間はあっという間に過ぎて行き、 ゼンがグレイとダレンを倒してから20日が経った。
「バーン!」
ゼンの一撃が厚い石の壁に当たった。
その威力に、ゼンの開いた口が塞がらなかった。 何せ七割ほどの力しか出していなかったにも関わらず、 繰り出された協力な一撃は地下室の石の壁を砕いたのだから、 もし力いっぱい叩けば、壁はおろかこの地下室だって崩壊していたかもしれない。
猛特訓を始めてからほぼ一ヶ月が経ち、腕はかなり上げた!と、 壁の心配をしながらも、自然にゼンの顔はほころんだ。
一か月前はまだ骨精錬の境地に達したばかりのゼンが この短い練習期間を経て、まるでもう骨精錬の境地の頂点に達したように感じていた。 彼が放った打撃の威力も、その骨の浄化や精錬具合を物語っていた。 今ならばおよそ500キロの強打を打つことができる。 500キロ! つまりその一撃が古代の鼎と同等の重さを持つということだ!
戦士にとって、打撃の重さが500キロ、つまり鼎力になれるか否かは重大な分岐点であり、 鼎力に達して初めて、正式な戦士として認められるのだ。
そして、たった一ヶ月足らずでそれを達成したゼンの 進歩と上達の迅速加減は、ルオ家では先例のないものだった。 帝国全体をくまなく探しても、彼ほどの実力者を見つけるのは難しいだろう。
なぜなら、いくら不屈の努力で鍛錬し、身体から不純物を取り除いて精製しても、一日に排出できる不純物の量はごくわずかで、ゼンの成長は、普通の人にとって何十年にもわたる修練を繰り返して初めて成し遂げられる偉業だからだ。
だが、殴られることにより精錬する能力を持ったゼンの上達は、通常より千倍速かった。
そして今日、武道館で、彼は何かが変わったことに気付いた。
子供たちはゼンをサンドバッグとして使うことを嫌がったが、ゼンの主張に根負けすると、次々と打撃を食らわせてきた。 だが、まるで、子供たちの力が衰えたかのようで、 ゼンはまったく痛みを感じない。
危うく、もっと思い切り打ってくれとすら言いかけた。 しばらくの間静かに見守っていたが、やがて子供たちが別にわざと力を抑えていないことに気付いた。 つまり彼らは手加減などせず、終始全力で攻撃していたのだ。 それでは、なぜゼンは子供たちの力を感じなくなったのだろう?
それだけでなく、殴打によって生成される暖かい流れもはるかに少なくなっていた。
以前は1回の攻撃で親指一本を温められるほどの温かい流れが発生していたが、今では小指温められる程度の温かい流れしか出ておらず、 温かい流れが減れば、おのずと精錬の効率も低下するのではと不安になった。
その夜、地下室に戻ったゼンは、流れていく不純物を注意深くじっと見た。 身体から排出される不純物の量は、約半分に減少しており、彼は不安が的中してしまったことを悟った。
何が悪かったのか分からず、 急に心配になった。
身体が硬くなってきたのだろうか?
あの精錬理論によると、彼の強さは今や下級玄器に相当するものだった。
継続的で奥深い精製を経て、玄器は徐々に強度を増していく。 ただし、武器の強度がある程度高くなってくると、一般的な強度の精錬では、効果が表れにくくなってしまうらしい。
武道館の子供たちのほとんどは、肌精錬の境地どまりで、 あの生まれながらの怪力使い、メルビンが持っている神力ですら肉精錬の境地ぐらいの強さしかなかった。
数百キロに相当する力がゼンの身体を打っていたが、 もはや彼の体には効果が小さ過ぎ、十分な結果を望めなかった。 良い結果を出し続けたいのであれば、精錬の効果を上げられるもっと強力な相手を見つける必要があるようだ。
長老たちに自分の精錬を手伝うように頼むことは不可能であったし、 他にもっと力のある人を見つける方法など思いもつかなかった。
ルオ家武道会の日はもう目の前だった。 その日は皆、真剣に勝負を仕掛けてくるだろう。その中でも特に、 ゼンが受けるであろう打撃はより強力なはずだ。 だが、その日を生き延びれば、晴れて自由を手にし、ルオ家を去ることができる。
今や、子供たちの殴打による痛みはほとんど感じていなかったので、ルオ家武道会の日に痛手を負う心配はしていなかった。
ゼンは地下室の薄暗いランプの前に座り、 計画を練っていた。不屈の精神を宿した目は、薄明るい光の中で輝きを放っていた。
家族が無実の罪に問われてから2年の時が経ち、 その間彼はずっと従順な奴隷であり続けた。 しかし、父親が殺されたときに感じた痛みと憎しみを忘れたわけではない。 ただ立ち向かう強さを持ち合わせていなかったので、泣き寝入りし、恥を捨てて生きていくしかなかったのだ。 そしてやっと今、幸運にも迅速に次の境地に達することを可能にする魔法の精錬理論を見つけたのだ。 何としてもこの機会をものにしなくては!