神になる
作者崔 彰寛
ジャンルファンタジー
神になる
ゼンは冷たい水を被りながら、乳白色の不純物が地面に当たって流れて行くのを眺めていた。
骨精錬の境地に達していた彼の筋肉には、もう不純物は残っていなかったので、 洗い流されていた乳白色の不純物は骨からのものに違いなかった。
目を閉じて、すべての不純物を洗い流し、爽快な気分を味わった。
ダレンはゼンに滅多打ちにされてからというもの、地下室の独房には現れなくなった。 そして、この監督不行き届きの状況は、ゼンがより自由に振舞えることを意味した。
毎晩、ゼンは鉄製の寝床を地下室の壁に立てかけ、打ち延ばし綿を何重にも巻いて枠組みを包み、簡易的に練習用の木人椿を作った。
寝床の枠組みを地下室の石壁の近くに置いたので、拳からの衝撃の大半は厚い壁によって吸収された。 ゼンは、細心の注意を払って枠組みを綿で包み、拳が鉄の杭に当たる音を最小限に抑えた上、 幽閉されている地下室は、本館から遠く離れた場所にあったので、ゼンが密かに練習している音は誰にも聞かれていない。
まず、数百年の間ルオ家に受け継がれてきた「シタン拳」を使って練習を始めた。 今となっては、シタン拳は知る人ぞ知る形になっていて、ほんの一握りの人々だけがその奥義を知っていた。 ルオ家の遠縁の親戚でさえ、この排他的な技を学ぶことは許されなかった。
ゼンは練習できることが嬉しくて、思わず顔をほころばせた。 骨精錬の境地に達して以来、シタン拳の複雑な手法も以前ほど難しくなくなっていた。 2年にもわたるブランクで腕が鈍くなったんじゃないかと懸念していたが、 手に入れた力のおかげで、軽く遊ぶも、めちゃくちゃに破壊するも、自由自在だった。
「シタン拳!」
「バンバンバンバンバンバンバン!」
静かな地下室に7つのこもった音が響き渡った。
シタン発勁はシタン拳の最も奥深い部分である。 シタン拳での一撃で、何回もダメージを与えることが可能だが、 その負傷の数は「シタン発勁」の威力の程度により決まる。
先ほどの7つのこもった音は、あの一撃で7回ダメージを与えたことを示していたが、 ゼンはこの結果に満足していなかった。
かつて骨精錬の境地に達したゼンの父はシタン拳を使用したとき、ダメージを8回も与えることができたと言っていた。 しかし、ゼンは父親と同じ骨精錬の境地にありながら、ダメージを7回しか与えられていない。 それは、シタン発勁についての彼の理解が不十分な証拠で、 もっと努力をしなくてはいけないことは明白だった。
一撃一撃が打ち延ばし綿に当たり、くぐもった音が地下室に響いた。
ゼンの破壊力と耐久力は、骨精錬の境地に達して以降、著しく成長していた。
対するペリンはすでに骨精錬の境地の頂点に足を踏み入れていたので、 その一撃は、ほぼ500キロに相当する衝撃を与えられるだろう。
しかし、ゼンはちょうど骨精錬の境地に達したばかりだから、 その拳威は約350から400キロが精々だろう。
このままの力ではペリンと戦っても勝ち目はない。
ゼンはどうしても実力を認められて星雲宗に入りたかった。
煉獄の山に追放された妹のことを考えると、心が石のように重く感じた。
ヤンはいつも従順で礼儀正しい子だった。 彼女が問題を起こすなど有り得ないことで、 何らかの陰謀に巻き込まれ、陥れられたに違いない。 そんなヤンを守る唯一の方法として、 ゼンは、できるだけ早く星雲宗に弟子入りしなければならなかった。
「バンバンバン!」 ゼンが打ち出す一撃は、少しずつだが強くなっていった。
星雲宗は、帝都に本部を置いた帝国最大の宗派であり、毎年、 帝国全体から多くの弟子を受け入れていた。
星雲宗は莫大な資産や人材を有しており、最も経験豊富な達人たちが弟子たちの指導に当たっていたから、 武道を修める帝都の若者たちは皆、星雲宗に及第することを望んでいた。
ただし、星雲宗に及第するための前提条件は非常に厳格だった。
そこにいる弟子たちは皆、例外的に認められた妹のヤンのように、非常に優れた才能を持っていた。
言うまでもなく、星雲宗の大半の弟子たちの強さは際立っていて、 あらゆる面で他宗の者たちよりも優れていた。 骨精錬の境地に到達するというゼンの偉業すらも、そこでは通用しないだろう。
「僕は今、精錬されていて、 身体の段階は日々刻々と変化している。 だが、より早く機能を向上させるために、さらに努力を重ねなくては!」
そう考ると、居ても立っても居られず、ゼンは歯を食いしばって、渾身の力を込めて寝床の枠組みを殴った。
ゼンは幼い頃から究極の武道を完成させたいと願っていて、 武道を追求した彼は、誠実で気配りの行き届いた青年へと成長していき、 着実に力をつけていった。 生前、あの厳しかった父ですら彼の忍耐力をよく褒めてくれた。
しかし、父が亡くなり、ルオ家からの追放を受けて以来、奴隷としての生活は彼の成長を失速させていた。 練習する機会がほとんど無かっただけでなく、精神的にも大きな打撃を受けていたからだ。
しかし今、ゼンは自信を取り戻し、 今こそ自分が巻き返しを図るのにふさわしい時であったと、 その心は既に、新しい目標に向かって走り出していた。
ゼンは時間を惜しみ、一晩中眠らずに練習した。
寝床の枠組みに放った打撃の数は、もう随分前にどこまで数えたか分からなくなっていた。 殴りすぎて、打ち延ばし綿が石の壁に深く入り込んでしまっていて、 それを少しずつそっと引き剥がしていく作業には骨が折れた。
日中、ゼンは引き続き武器精錬に積極的だった。
可能な限り練習するため、用心棒たちが地下室に来なくなったにもかかわらず、毎日武道館に通い詰めていた。
そして不自然な行動で人々に疑念を抱かれる危険を顧みず、 絶えずにルオ家の子供たちに声を掛けてサンドバッグになる事を志願した。
何といっても、彼は今やどの奴隷よりも頻繁にそして激しく殴打されていたにもかかわらず 目立った怪我はしていなかったから、 これでは何かがおかしいと疑われても仕方がない。
それでもゼンは、計画を追行し続けた。 起こるか起こらないかも分からないことに悩む時間が勿体なかったからだ。 身体をできるだけ早く精錬するためには、盛大に殴られる必要がある。 それが、短期間で強さを高める唯一の方法であった。
ついに一部の子供たちは、ゼンの振る舞いが奇妙だと感じはじめていた。 また、彼がコテンパンに殴られている姿を見て眉をひそめる者もいた。 それにもかかわらず、ゼンは普通の奴隷とは真逆でいつも陽気な表情をしていて、 まるで自分が他の人を打ち負かしているように、ルオ家の子供たちと同じくらい自信に溢れていたのだ!