朝から降っていた雨は、午後の授業が終わっても止む気配はなかった。
ホームルームが終わってから、僕は、バス停を目指し、革製のカバンを傘代わりに使って、走り始めた。
何人か同じようなことをする生徒もいたが、やはり、相合傘をしているリア充共が、雨の日には湧くようだ……
爆発してしまえばいいのに……
そんな不純なことを考えている間に、裏門近くのバス停にたどり着いた。
バス停に着くと、僕よりも早く、バス停に着いている人がいた。スカートの色からして、3年生だ。
僕は、バス停の中に入り、タオルを取り出した。
『あの先輩、ビシヨビショだし、めちゃくちゃ可愛い。
シャツが透けて、目のやり場に困るな。』
と思いながら、
「あの、よかったら、タオルお貸ししますよ?」
と、尋ねた。すると、
「ありがとう、でも、あなたのものだから、あなたが使ってください。」
「もう一枚あるので、大丈夫です。」
「で、でも……」
「下着、丸見えですよ?」
「え!?そ、そういうのは、早く言ってよ〜……、じゃあ、遠慮なくかりますね。」
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
綺麗な声で、僕にお礼を言った。
僕は、バス停のベンチに座った。タオルを首にかけ、ポケットに入れていた、スマートフォンを取り出して、友達からのメールを返信していたら、
「ねぇ、君、名前なんって言うの?」
「ふぇ!?」
声の聞こえた方を見ると、彼女の顔があった。
「だから〜」
「あ、その、えっと、あ〜!!」
「ねぇ、ちゃんと聞いてるの?」
「ちょ、近くないですかああああ!!!!」
無意識的に距離をとってしまった。
「これくらい普通だよ。で、君の名前は?タオルのお礼がしたいからさ、教えてくれる?」
「は、はい。僕の名前は、冴河 裕太《さがわ ゆうた》です。でも、あなたも名乗るべきなんじゃないですか?」
「私のことは、好きなように呼んで。それでいいでしょ?」
上目遣いは、ずるい。こういう時の女子は、強いなー。
「わかりました、では、先輩と呼ぶことにします。」
「君の学年聞いてなかったね、何年生?」
「2年生です、先輩は、3年生ですよね?」
「まあ、なんでそんなことまで知ってるの?まさか、あなたストーカー?」
「ストーカーじゃないですよ。スカートの色見ればわかりますよ。」
「そうかな〜?大抵の生徒は分からないと思うけど……」
「ま、まあ、元々生徒会に所属していましたしっ、今も少し手伝いで生徒会の仕事をしていますから、そんなの当然ですよっ」
「本当かな〜?」
「嘘じゃないですよ!!別に同じ学校なんですから、スカートの色で学年が分かれているくらい常識でしょ!!」
少し焦り気味に言ってしまった。傍から見たら、俺、めちゃくちゃ怪しいな。
「ふふっ、君、とても面白いね。学校同じ人で、私に話しかける人あんまりいないから、新鮮なのかな?」
「勘弁してくださいよ……」
そこからは、ごく普通の他愛ないくだらない話をバスを待っている間、ずっとしていた。
「ところで先輩、名前、聞いていませんでしたね?」
「あ、バス来た。じゃあ、私、行くね。あと、名前は、·····雨沢 雪乃《あまさわ ゆきの》、今日は、楽しかったよ。裕太くん」
不意打ちのように、彼女は、僕の右の頬に、キスをした。
一瞬、フリーズして、手を振る先輩に、手を振り返せなかった。
「なんだったんだ、今の。」
僕は、右の頬を、触りながら、つぶやいた。
ヤバイ、頭の中が沸騰しそうなくらい熱い!!
ダメだ、思考回路が焼け切れてしまう……
「クソっ……」
俺は、雨が降っている道路に飛び出した。
「雪乃先輩っ!!あなたの事を愛します!!」
俺は、梅雨の雨の中で叫んだ。
もう、この思いは止まらない!!
私は今、うつむいている。
その理由は、あまりしゃべったことのない人に、あんなことをして、少しの羞恥心が帰ってきているからである。
「……なんで私あんなことしたんだろう。」
思い出すだけで、私は、頭の中で、何もかもが、沸騰するような感覚がした。
あぁぁぁぁぁっ‼
なんで私あんなことしてしまったんだろうっ‼
恥ずかしいっ‼
ダメダメ、私は、クールで綺麗な女性のイメージを崩さないようにしなきゃ。
「でも……」
私は指で唇に触れた。
あの感覚はまだ消えていない。
いや、この感覚は一生忘れないと思う。
「……私の、ファースト、キス」
私はボソッとつぶやいた。
熱いっ‼
空間ではなく、私の頭の中が熱いっ‼
夏が近づいてきているのに、私の頭は、夏の気温よりも熱いような気がしますっ‼
「……なんで私はこのようなことで動揺しているのでしょう。」
そう、私は人をからかうような人間であって、人に照れさせられる人間ではないのである。
「ダメだ、別のこと考えよう。」
私は、切り替えのできる女なのである。
そういえば、最初に彼に会ったのって去年だったっけ……
「うぉっ‼」
「きゃっ⁉」
去年の4月14日
あの日、私は、クラスで集めたプリントを理科準備室に運んでいた。
私は運悪く、階段から足を滑らせてしまった。
プリントもあたり一面に散らかしてしまった。
どうやら、後ろには、人がいたようで、その人にぶつかったが、倒れることはなかった。
「……大丈夫ですか?」
彼は、私の態勢を元に戻し、プリントを集め始めた。
その当時の私は、まだ眼鏡を付けていた時期で、今よりもはっきり顔を相手に見せるような人間ではなかった。
そのため、今日、彼に会った時、彼は私にあったことがあることすら知らなかった。
「はい……、大丈夫です。それより、プリントは、私が集めるので、結構ですよ……」
「いえ、俺、人を助けるのって結構好きなんです。」
この時は、まだ、一人称が『俺』だったんだよね。
「……ところで、君、名前何っていうの?」
「あ、俺は、1年の冴河裕太です。ところで、そちらは?」
「私は、2年生だよ。でも、名前は教えてあげられない。」
「俺には聞いたのにっスか……」
「それが先輩の特権ですっ‼」
「ケチだな~」
「もうっ‼そんなことより、私、早くこのプリントもって行かないとっ‼」
「この量を一人で運んでたんスね、俺も手伝います。」
「えっ、でも、これ以上迷惑かけられないよ。」