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結婚5周年の記念日、私は夫の隠しUSBメモリを見つけてしまった。
パスワードは、私たちの結婚記念日でも、私の誕生日でもなかった。
夫の初恋の人の誕生日だった。
中身は、別の女に捧げられたデジタル上の聖域。
私と出会う前に彼が生きた人生の、几帳面な記録。
自分の名前を検索してみた。
結果はゼロ。
5年間の結婚生活で、私はただの「空席」を埋める存在でしかなかったのだ。
そして夫は、その女を連れ戻した。
私たちの会社に彼女を雇い入れ、私が2年間魂を注ぎ込んできた、私の情熱そのものであるプロジェクトを、彼女に与えた。
会社の記念パーティーで、夫は彼女を新しいリーダーとして公に発表した。
彼女がわざとらしく事故を演じ、夫が即座に彼女の元へ駆け寄り、私を睨みつけた時、私はようやく真実を悟った。
彼は私をないがしろにしただけではなかった。
別の女への公然の愛情表現を、私が黙って耐えることを期待していたのだ。
私が壊れるとでも思ったのだろう。
大間違いだった。
私は手つかずのシャンパングラスを手に取り、同僚たちの目の前で彼の元へまっすぐ歩み寄り、その中身を彼の頭にぶちまけた。
第1章
高橋 佳奈 POV:
結婚5周年の記念日に偶然見つけてしまった、夫の秘密の人生へのパスワード。
それは、彼の初恋の人の誕生日だった。
0814。
8月14日。
五十嵐いずみ。
そのUSBメモリを見つけたのは全くの偶然だった。
夫の机の引き出しの奥、ペンを探していた時に見つけた、艶のある黒いスティック。
ラベルもなく、何の変哲もない。
でも、古い名刺の束の下に隠されているその様に、私の胃は冷たく締め付けられた。
ノートパソコンに差し込むと、すぐにパスワードの入力画面が現れた。
一瞬、閉じてしまおうかと思った。
罪悪感の波が押し寄せる。
これは、彰人さんのプライベートな領域だ。
でも、5年間の静かな痛み、ドタキャンされたデート、いつも心ここにあらずの夫を待ち続けた孤独な夜が、一つの鋭い決意へと変わった。
私たちの結婚記念日を試した。
アクセス拒否。
彼の誕生日を試した。
アクセス拒否。
私の誕生日を試した。
アクセス拒否。
指がキーボードの上で止まり、頭が真っ白になる。
その時、記憶の亡霊が蘇った。
何年も前に参加した、彼の大学の同窓会。
酔っ払った友人の一人が、ろれつの回らない口で彰人さんの背中を叩き、私のワンピースにビールをこぼした。
「信じられるかよ、こいつ?」
彼は大声で言った。
「何年も経つのに、まだイズミちゃんの誕生日覚えてんだぜ!8月14日だろ、なあ?」
彰人さんは答えなかった。
ただ、顎を固く引き締め、その瞳は暗く沈んでいた。
震える手で打ち込む。
0。8。1。4。
Enter。
ロックが解除された。
息が止まった。
フォルダ名は、ただ一言、「記録」。
中には何千ものファイルがあった。
写真、動画、スキャンされた手紙、古いSNSの投稿のスクリーンショットまで。
まさに、デジタルの聖域。
それは、あるラブストーリーの几帳面な記録だった。
太陽が降り注ぐビーチで笑い合う、彰人さんと鮮やかな赤茶色の髪の女の子。
今よりずっと若く、信じられないほど幸せそうに、彼女に一輪の完璧な薔薇を渡す彰人さん。
狭い学生寮の部屋で踊る二人の動画。
まるで決して離さないとでも言うように、彼は彼女の腕をしっかりと抱きしめていた。
彼女の名前が至る所にあった。
いずみ。
イズミ。
愛しい人。
小さなキッチンで一緒に料理をする写真もあった。
鼻に小麦粉がついている。
彼は…楽しそうだった。
私が一度も見たことのない、純粋で、屈託のない喜びの表情。
私たちの最新式のキッチンをただの飾りとしか思っていない高橋彰人という男が、かつて一人の女の子のために手打ちパスタを作っていたなんて。
クリックするたびに、私の心はどんどん沈んでいく。
彼が彼女に宛てた、スキャンされた手書きのメモを見つけた。
『イズミのためなら、雲の上にお城だって建ててみせる』
若気の至りの、馬鹿げた約束。
でも、そこに込められた誠実さが、私の腹を殴りつけた。
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