舞台の女神さま!
作者石橋崇行
ジャンル恋愛
舞台の女神さま!
「キャーッ 梓さんよ」
「まるで宝塚歌劇団の人みたいだ」
正直恥ずかしい。舞台上では恥など感じないボクは現実世界へ戻るとシャイだ。
「なんだか芸能人みたいだ……」
皆と変わらないJKなのに尊敬のまなざしで見ないでほしい…… ボクはぎこちない笑みを浮かべながら足早に教室へと向かう途中で事件は起きた。
「ま、松本さん。話があるんだけど良いかな?」
「え、えっと…… すみません急いでいるので」
この日もいつものようにある男子生徒に声をかけられた。でもボクはどうしても男性と至近距離で話すのが苦手なんだよな……
隣のクラスの男子生徒が頬を薄く赤らせながら僕を見つめてくる。
ボクがいつものように軽く会釈をして引きつった表情と視線を斜め下に向けながら足早に教室へ向かおうとした時だ。
「待ってくれ! ボクは本気で君のことが好きなんだ! だから僕の気持ちを聞いてほしい」
男子生徒はボクの右手首をギュッと掴むと僕の身体が敏感に反応して痙攣に近い震えに襲われた。
「は、放してください!」
校舎に響き渡るほどの声を発してボクは手を振りほどき、身体の震えを抑えながら足早にその場を走り去った。
周りの視線なんて気にする余裕なんてなかった。ボクは意識を保たせることでいっぱいだ。
乱れた呼吸と嗚咽交じりの咳をしながら一直線にトイレへ駆け込んで何度も備え付けの石鹼で握られた手首を入念に洗い続けた。
「ゴホゴホ…… う、ううう…… ばい菌が移る…… 怖いよ 」
ボクは小学校の頃、クラスの男子から言われた「バイキン」「うんこ」という単語が蘇る。壮絶ないじめを受けたことで触ることもできない極度の男性恐怖症に悩まされていた。想像を絶する精神と肉体に負担が来る拒絶反応。正直辛すぎる……
「今まで男子からいじめを受けないように強い女子を演じているのに……」
だから振る舞いも演じて自分の事も「ボク」と呼ぶようにしていたんだ。
何とかゆっくりと呼吸を整えながら水道でうがいをした。だが掴まれた手はまだ若干震えが止まらない。
「でも、部室に戻らないとみんなに迷惑をかけてしまう」
ボクは何とか右手をさすりながら部室へ戻ろうとした時だった。