結婚記念日だった。ふと思い立って、夫の古いスマートフォンで思い出のビデオを作ろうとした。
電源を入れると、メモ帳が自動的にポップアップした。最新メモのタイトルは「ベビーダイアリー」。
「今日は僕たちの小さな芽が生後一ヶ月になる日だ。ママのつわりがひどくなっているみたいで、胸が痛む。 パパは可愛いワンピースをたくさん買っておいたから、生まれてきたら着ようね」
差出人は、夫の周翰。 しかし、私は妊娠などしていない。
職場にいる夫に電話をかけた。「あなたの古いスマホのメモ、どういうこと?」
電話の向こうで、彼が息を呑むのが分かった。すぐに、何でもないことのように軽く笑う。「ああ、あれか。友達のだよ。奥さんが妊娠したんだけど、書く場所がないからって俺のスマホにメモしたんだ」
私は笑って「そう」とだけ答え、電話を切った。そして、アルバムの「最近削除した項目」を開き、一枚の削除されたエコー写真を復元した。
そこに記された「許さん」という名前を指でなぞり、私は微笑みながら、そのまま姑に電話をかけた。
........
「お義母さん、周翰に外の子供ができたみたいです」
電話の向こうで、姑の甲高い声が裏返った。「なんですって!?」
エコー写真を握りしめる指先は氷のように冷えていたが、私の声は自分でも驚くほど穏やかだった。「写真によると、もうすぐ妊娠三ヶ月。男の子だそうです」
姑は黙り込んだ。
それは衝撃による沈黙ではない。共犯の陰謀が暴かれる寸前の、死のような静寂だった。
三十秒は経っただろうか。彼女は再び口を開いたが、その声の調子は百八十度変わっていた。まるで施しを与えるかのように、私をなだめようとする口ぶりだ。
「小雅、まずは落ち着いて」
「男なんて、所詮は下半身で考える生き物よ。たまに過ちを犯すのも仕方ないじゃない」
「それに、あなたと周翰が結婚して三年、お腹に何の音沙汰もないんだもの。彼だけを責めるのは酷でしょう」
「私たち周家は三代続く一人っ子なの。彼の代で血を絶やすわけにはいかないのよ」
「知ってる?周翰はよその子を見るたびに、家に帰ってきては一人で泣いているのよ」
白を黒と言いくるめる彼女の言葉に、私は怒りを通り越して笑いさえ込み上げてきた。
「つまり、お義母さんのお考えでは、私が子供を産めないから、彼は外の女に代理で産ませて当然、ということですか?」
「そんな言い方しなくてもいいじゃない」
姑は何でもないことのように言い流したが、その声には隠しきれない喜びの色が滲んでいた。
「もう三ヶ月近いのなら、それは私たち周家の初孫よ。大事にしないと」
「安心して。あなたが物分り良く、騒ぎ立てさえしなければ、子供が生まれたら周翰はちゃんとあなたの元へ帰ってくるわ」
「周家の奥様という地位は、永遠にあなたのものよ」
「その子は私たちが引き取って、あなたが育てればいい。どうせあの女はただの道具なんだから」