
マンハッタンの雨は、何も洗い流してはくれなかった。ただ、こびりついた汚れをぬるつかせるだけだ。
セリーナ・ヴァンスは黄色いタクシーから降りた。その踵は、すぐに灰色のみぞれの水たまりに沈み込む。安物の革靴を通して水が染み込み、靴下を濡らし、肌を凍えさせた。彼女は身じろぎもしなかった。寒さには慣れていた。
胸に抱えたベルベットのケーキ箱を、まるで盾のようにきつく握りしめる。特注品だった。レッドベルベット。ジュリアンのお気に入り。少なくとも、彼が彼女の夫になる前の、かつての彼が好きだったものだ。
彼女はアッパー・イースト・サイドにある会員制プライベートクラブ『オブシディアン』の、威圧的な黒いファサードを見上げた。その建物は、彼女のような人間を締め出すために設計された要塞のように見えた。
コートの前を合わせる。サイズが一つ大きすぎるそれは、この二年で増えた体重を隠すために買ったものだった。代謝異常が彼女の体を、柔らかい肉とむくみの牢獄に変えてしまった。かつてはただ地味なだけだった顔も、今ではむくみ、顎のラインに沿ってできた頑固な発疹は、ドラッグストアのファンデーションをどれだけ重ねても隠しきれなかった。
「お名前は?」ドアマンは彼女の顔を見なかった。その視線は、彼女の靴に向けられていた。
「スターリング夫人です」とセリーナは言った。声がわずかに震える。その名前を使うときはいつもそうだ。まるで盗んでいるような気分になる。
ドアマンは一瞬動きを止めた。リストに目を落とし、それから彼女を見る。唇の端が歪んだ。それは微細な動き、彼女が記録することにかけては専門家になったマイクロアグレッションだった。彼は彼女が誰なのか知っている。誰もが知っていた。ヴァンス家の失敗作。恥さらし。
「スターリング様はVIPスイートにおられます」とドアマンは平坦な口調で言った。「誰にも邪魔をしないようにとのご指示です」
「今日は私たちの記念日なんです」セリーナは言った。その言葉は湿った空気の中に、哀れで、ちっぽけに響いた。「私…お届け物が」
彼女は箱を少し持ち上げてみせた。
ドアマンはため息をつき、冷たい空気の中に白い息の塊を吐き出した。彼はベルベットのロープを外した。だが、彼女のためにドアを開けようとはしなかった。
セリーナは重いオーク材の扉を押し開けた。雨音は消え、代わりにジャズの低い響きと、年季の入った革製品や高級葉巻の香りが満ちていた。薄暗い廊下を歩く。濡れたコートから、豪華なペルシャ絨毯のランナーに雫が落ちた。ぽた、ぽた、ぽた。自分が場違いであることの証拠が、点々と続いていく。
廊下の突き当たりに着いた。VIPスイートのドアは、がっしりとしたマホガニー製だった。ノックしようと手を上げたが、その指の関節は木材から数インチ手前で止まった。
笑い声。大きく、がさつな、男たちの笑い声。
「おいおい、ジュールズ」と、ある声が響いた。ジュリアンの大学時代の友人、オリバーだ。「まさか今夜、あの生き物のところに帰るなんて言わないよな。まだ夜中にもなってないぜ」
セリーナは凍りついた。心臓が肋骨に打ち付けるように、痛々しく不規則なリズムを刻む。
「顔だけは出さないと」ジュリアンの声が騒音を切り裂いた。冷たく、突き放した声。弁護士と話すときに使う声だった。「三周年の記念日だ。信託財産の支払いを有効に保つためには、重要な記念日には夫婦の住居に物理的に滞在することが契約で定められている」
「金のためなら何でもするんだな」オリバーが笑った。「見たぜ、彼女。昔のセリーナを食っちまったみたいだな。それにあの肌…うつるのか?」
セリーナは喉の奥から吐き気がこみ上げてくるのを感じた。ぎゅっと目を閉じる。
「彼女がどんな見た目だろうと関係ない」とジュリアンは言った。その声に含まれる無関心は、嘲笑よりもひどかった。「彼女は一枚の紙切れの上の署名だ。それ以上でもそれ以下でもない。この街で俺が尊敬する女性はエレナだけだ。彼女は自分の立場をわきまえている。分不相応なものを要求したりしない」
「エレナに乾杯!」と誰かが言った。グラスの触れ合う音がした。
セリーナはケーキの箱に目を落とした。指は白くなり、ボール紙がたわみ始めるほど強く握りしめていた。
このために三日もかけて計画したのだ。パン屋は気後れがして、自分で焼いた。ささやかなことを覚えていると示せば、もしかしたら、ほんの少しでも、彼が嫌悪以外の目で自分を見てくれるかもしれないと思った。
だが、彼は彼女を見てすらいなかった。彼にとって、彼女は妻ではない。人間ですらない。祖父の遺言状の一条項にすぎなかった。
鋭い、物理的な痛みが胸を貫いた。失恋なんて詩的なものだ。これは切断だった。麻酔なしで手足を切り落とされるような感覚。
彼女は屈んだ。膝がぽきりと鳴る。ドアの外の床に、そっとケーキの箱を置いた。
ノックはしなかった。
立ち上がる。最後にもう一度ドアを見た。泣かなかった。涙は胸の奥深く、固く凍りついて動かなかった。
彼女は振り返った。その動きはロボットのようだった。左足。右足。
廊下を戻る。ドアマンが彼女を見ていた。唇ににやにやとした笑みを浮かべて。追い出されるのを、ひと騒動起きるのを期待していたのだ。
セリーナは瞬きもせずに彼の横を通り過ぎた。重い扉を押し開け、再び雨の中へと足を踏み出す。
冷たい水が顔を打ち、恥辱の熱と混じり合った。タクシーは拾わなかった。歩いた。足の感覚がなくなるまで歩いた。オブシディアン・クラブが遠くに黒い染みとして見えるまで歩き続けた。
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