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……まさか、この中に妖怪でも隠れているとでも言いたいのだろうか。
私は口の端を吊り上げ、軽く鼻で笑った。
この恋愛相談配信者の名前は玄月。すっと通った鼻筋に薄い唇、凛々しい眉と星のように鋭い瞳を持つ男だ。 二十歳そこそこの若さでありながら、その物言いは常に核心を突き、一切の無駄がない。
端正な顔立ちと、愛想のない仏頂面とのギャップが意外にもネットユーザーの心を掴み、彼の配信は常に一万人以上の視聴者を集めているという。 その人気は凄まじく、イケメン好きの親友までもが彼のファンになっていたほどだ。彼女が毎日飽きもせず語っていた「玄月様」が、まさかこの男だったとは。
恋愛相談を専門とする配信者が、ひょんなことから悪霊に取り憑かれた少女を救った一件で、ファンたちはようやく悟った。いつも不機嫌そうな顔をしていた玄月が、実は道家の弟子であったことに。
突拍子もないようで、どこか腑に落ちる設定。
イケメン、恋愛カウンセラー、そして道士。なんとも斬新な組み合わせは、
たちまち何万人もの新たなファンを惹きつけ、彼の配信は月間ランキングでトップ3に食い込むほどの熱狂ぶりを見せた。
親友によれば、最近の玄月様は「恋愛相談+四柱推命」という新企画を打ち出し、
その人気はさらに天井知らずになっているらしい。
そんなわけで、私がスマホを何気なくスワイプしているだけで、彼の配信に辿り着いたのも偶然ではなかったのだろう。
しかし、配信が始まった途端、私の翡翠のペンダントに問題があると指摘するなんて。
あまりに……無責任じゃないだろうか。
だが、コメント欄は私の抱いた疑念などお構いなしに、興奮した書き込みで溢れかえっていた。
【マジか!今回もまた、配信者様と鬼とのバトルを最前列で見られるってこと!? あああ、興奮してきた!】
【わかる、もう鳥肌立ってる!早く悪霊退治して!そういうの大好き!】
【なんでこの配信者って、いつも妖怪とか悪霊とか、そういう胡散臭い話にばっかり出くわすわけ?どうせヤラセでしょ!前の悪霊退治配信で味をしめて、ファンが数百万も増えたのにまだ足りないわけ!】
【↑同感。どう見てもヤラセ。ただの恋愛相談配信者が、いつの間にとんでもない方向に舵切ってるし。悪霊退治とか笑わせるな! 適当な視聴者捕まえて、あなたには霊が憑いてますって言ってるだけじゃないの?】
【でも、この前の配信で本当に女の子の命を救ったんだよ。私たち、みんなこの目で見たんだから!】
【ライブ配信なんて、特殊効果も画像加工もやりたい放題でしょ。私にはヤラセにしか見えないね!】
……
次々と流れる懐疑的なコメントを前にしても、玄月の表情は微動だにしない。
【信じるなら、まずはリンクから申し込みを】
視線を左下の黄色いカートに移すと、わずか一ヶ月で個人鑑定の料金が三倍に跳ね上がっていた。
インフルエンサーとは、かくも儲かる商売なのか。
もちろん、彼の言う妖怪だの悪霊だのという話を信じたわけではない。ただ、ちょうど気分が滅入っていたこともあり、彼の語る与太話で気晴らしでもしようと思ったのだ。一体どこまで話を盛るのか、見届けてやろうじゃないか。
料金を支払い、言われるがままに生年月日を伝えると、玄月は無表情のまま引き出しから亀の甲羅を取り出し、もう片方の手でしきりに指を折って何かを計算し始めた。
わずかな沈黙の後、彼の指の動きが止まる。
【四柱推命によれば、あなたは財を蓄える運命にあるが、結婚運には恵まれない。あなたの星に、縁談の相はない】
そもそも、私は神仏の類をあまり信じていない。ましてや、画面越しでは、どんな特殊効果やAI技術が使われているか分かったものではない。目に見えるものが真実とは限らないのだ。
彼の化けの皮を剥がしてやろうと、私はわざとらしく口元を覆って驚いてみせた。
【えっ!? でも、私、三日後には彼と結婚するんです。招待状ももう発送してしまいました】
何を隠そう、運動嫌いの私がジムで汗を流しているのも、そのためだった。
私の言葉を皮切りに、コメント欄が再び勢いよく流れ始める。
【あはは、ボロが出たな。前の悪霊退治も、仲間と組んで再生数を稼ぐためのヤラセだったんじゃないの!】
【↑支持する。あの配信の後から、こいつのチャンネルはうなぎ登りで大儲けしてる。仕組まれたヤラセに決まってる!】
【で、でも、前回のは全部見たけど、すごくリアルだった!偽物だなんて思えない!あの日、怖くて電気を消して眠れなかったんだから!私は配信者様を信じる】
【そうだよ!私も信じる。だって、あの悪霊は本物だったもん。AIの特殊効果じゃ、あんなの絶対に作れない】
玄月はコメント欄に一瞥をくれただけで、意にも介さず話を続けた。
【その狐のペンダントは、彼からの贈り物だろう?】
【ええ】
【あなたたちは付き合ってから今まで、一度もペットを飼ったことがないはずだ。 犬や猫の類を】
それは、確かに彼の言う通りだった。
私は再び頷く。
【私は犬も猫も大好きなんですけど、彼が好きじゃないみたいで。それで、飼ったことはありません】
付き合い始めたばかりの頃、一度だけ捨て猫を拾って帰ったことがある。 生後二ヶ月ほどの、痩せて小さな子猫だった。段ボール箱に入れてやると、安心したように丸くなった。
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