玉座についたヒーロー
作者上沼 鏡子
ジャンル冒険
玉座についたヒーロー
もちろん、そのように振舞ったのはロッキーだけではなく、 他の29人の若者も、ある種の珍しい宝物を見たような面持ちだった。 そんなゴージャスな女性の姿に彼らが浮足立ったと同時に、彼らの顔にも恐怖の色が見え隠れしていた。 明らかに彼らは彼女が何者かを知っていたからだ。 気絶するほどの美しさだが、とてもパワフルで、生真面目にも見えたので、 怒らせたらとんでもないことになる、と恐れていた彼らは、長時間彼女を見つめるようなことはしなかった。
ただ唯一の例外だったロッキーは、 彼女にとても興味をもったので、その2つの目で彼女の姿を気まぐれにスキャンしていた。
その女性もすでにロッキーに気づいていて、 長く細い眉をひそめ、睨みつけた。 「なぜ今遅れたの? 私の命令が聞こえなかったの?」 彼女は近寄り難いほどの大声で叫ぶと、 他の若者たちはひるんだ。
「僕が遅刻した?」 ロッキーは断固とした態度で返答し、堂々とその女性の目を真っ直ぐ見た。 彼女が何者か知らなかったので、まったく恐れていなかったからだ。
だが、その女性が近づくにつれて、彼女から放出されるパワーで全方向から包囲されるような感覚を覚えた。
「あなたのチームメイトを見て」と女性はロッキーの後ろにいる他の若者たち指差しながら言った。
ようやくロッキーは自分だけが遅れていることに気づいた。 彼の後ろには、よく訓練された兵士のように、他の29人の若者と彼らのウォービーストたちが整然と並んで立っていたのを見たからだ。
「ミア教官、彼に怒っても無意味だよ。 他のよく訓練された若者とは異なり、彼は贅沢な生活におぼれていた王子だったので、 訓練など受けたことはなく、目標を持ち一生懸命働く必要などなかったのだ。 今は平民に降格されているが、まだ自分は王子だと思っているのか、 まだ怠け者でノロマで、常に規則と権威を無視しているのだよ。 だからこれからは、もっと厳しい訓練を受けてほしいと思っているんだよ」司祭長は馬車から降りるとそう言った。
「伝書鳩からメッセージを受け取りましたが、 それによると、彼が聖ドラゴンビーズと結合した王子バジルですか?」 ミアは驚いた表情でロッキーの方を向いたが、 すぐにその表情は落ち着きを取り戻した。
「その通り、 彼だ」 司祭長はうなずいた。
「では、なぜ彼のスピリチュアルパワーは、それほどまでに弱いのですか? 」
「それは言うまでもない。 常に世の中には幸運な役立たず者がいるものだよ」 司祭長は冷笑しながらロッキーを見て、 それがロッキーを意味することを示した。
「これはあなたのウォービースト?」 ミアはロッキーの腕の中の小さなビーストをちらっと見て、少し眉をひそめた。
「はい、何か問題でも?」 ロッキーは小さなビーストを上げて、彼女の前で優しく振った。
「なぜそんなに何の役にも立たないウォービーストを選んだの? 1ツ星のウォービーストになる可能性すら無いのに」とミアはダイレクトに尋ねた。
「どうして何の役にも立たないなんて断言できるんですか? 僕のビーストは普通に見えるけど、その本当の力は誰にもわからないはず! あなたは他のやつらとは違うタイプと思ってましたが、 どうやら間違っていたようです」とロッキーは失望した声で言った。 彼女への良いイメージは消えかけていた。
「あなたは…」ミアは突然、何だか耐えられない気持ちになったが、 ロッキーに失礼な態度で非難され、彼女は傷つき、なぜか恥ずかしさを感じた。
その瞬間、ロッキーのビーストは二度うなり声をあげると、彼の腕の中で頭を回転させ、無邪気な両目で彼女を見た。
するとミアはすぐにこの小さな生物には何か特別なものがあることに気づき、 ロッキーが正しかったことを認めざるを得なくなった。 このビーストのパワーは決して過小評価してはいけなかったのだ。 すぐに彼女の目は明るさを取り戻し、正常な状態に戻った。
「僕なんかどう?」 ロッキーは彼女を見ながら尋ねた。
「まず列に並びなさい」とミアは厳しく答え、 目を細め、ロッキーをチームメイトの中に加わらせると、 司祭長のところへ歩いて行った。
司祭長の悪意のある言葉にかなり苛立っていたロッキーは彼を冷たく睨みつけ、頭の中で司祭長の先祖全員を呪った。 その後、彼は29人の若者の列に加わった。