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第6章婚約解消(パート2)
文字数:2692    |    更新日時: 10/04/2021

「お父さん、なんで勝手にそんなことを!」 チュー家に戻ると父に怒られるだろうとは覚悟していたが、姉であるヘイリー・チューに帝国の医師の地位を盗られるとは思ってもみなかったのでハーパーは驚きが隠せなかった 。 おんなじ娘なのに なぜお父さんはヘイリーの肩ばかり持つだろう。

「私が間違ったことしたとでもいうのか?」 チャールズは冷たい様子で続けた。 「ことの発端はすべてお前の行き過ぎた行いにあるんだ! ほかの誰のせいでもない。 自分の部屋でゆっくり反省してきたまえ! 私の許可なしに部屋から出ることは許さん!」

「お父さん...」

「失せろ!」

「ご主人様、ハンセン・ジュン様がお見えです」 使用人が急いで入ってきた。

「早くお通ししたまえ」 かなり驚いた様子で、チャールズは急いで使用人に彼を招待するようにと命じ、 しかしまだ床にひざまずいているハーパーをちらっと見ると、またイラ立ちを感じた。 その後すぐ、錦織のローブを着た男が入ってきた。

「ごきげんよう、チャールズ殿」

「お座りください、殿下」 チャールズはハンセン・ジュンに着席するよう身振りで示した。 「わざわざ御身自らのお越しとは、一体何事でしょうか」

ハンセン・ジュンは召使いの女が出すお茶に手を伸ばすと、ゆっくりと一口飲み、 床にひざまずいている哀れなハーパーに目を向けた。 その体についている茶葉は更にその哀れさを増していた。

内輪揉めを見られて少し気まずさを覚えたチャールズが言葉を発する前に、フェリシアは「殿下、何か御用でしょうか」と口を開いた。

それがハーパーの聞きたいことでもあった。 色々ありすぎて一時ハンセン・ジュンが自分の婚約者でることも忘れるところだったが、 一応ハンセンと婚約を結んでいたので、お父さんも外出を禁止できなくなるだろうと思い、一安心したばかりの彼女は ハンセンが次に言ったことに驚愕させられ、わずかに残されていた小さな希望の光もかき消された。 そして同時に彼女は気づいた、すべてはスー・ワンが自分を馬鹿にするために用意した演目なのだと!

「婚約解消を言い渡しに来た」

その言葉で、ハーパーは無力感で少しめまいがした。 彼が好きなわけではなかったが、まさか苦境にいる自分を捨てるような情なし野郎とは思わなかった。

「殿下、どうか考え直していただけないでしょうか!」 もしも婚約者を失ったら、この陰気くさい屋敷で人生を棒に振ることになると怯えていたハーパーは 速やかにハンセンに声をかけた。

「ただ言ってないだけで私はずっと前から婚約を解消するつもりでいた。 そして今このような非道を働いた君を、尚更妻として迎えるわけがなかろう。 だからこうして婚約を解消するためにわざわざここに出向いたのさ」 まるで取るに足らないようなどうでもいいことを言っているように、 ハンセン・ジュンはハーパーに興味なさげな顔で答えた。 しかし自分のどうでもいい一言がハーパーの死活問題にかかわることを、彼には知らないのだろう。

「殿下、婚約は...」 婚約の解消はつまり、皇族とのつながりを絶たれることを意味すると百も承知の チャールズは取り乱して、一時どうするべきかわからなかった。

「ご心配なく、 取り消すのは、ハーパーとの婚約だけだ。 あんな極悪人に妻になってもらっちゃあ困るのでな、それで彼女との婚約を解消し、代わりにフェリシア嬢を嫁にきてもらおうと考えいるのだが…」 と言いながら彼は優しい愛に満ちていたまなざしで横に静かに立つフェリシアを見つめていた。

するとフェリシアの顔は、リンゴのように赤くなり、 恥ずかしそうに頭を下げた。 この二人がとっくにデキていることは、 ハーパーの体の元の所有者ほど間抜けでもない限り、簡単に見抜けるはずだから、 このつまらない芝居もおそらくこいつらの仕掛けだろうとハーパー(現)は思った。

「もちろん問題ありません!」 チャールズはためらうことなく同意した。 ハンセン・ジュンがまだ娘と婚約してくれる限り、相手がハーパーであれフェリシアであれどっちでもいいのだ。 それに、彼もちょうどフェリシアの方がハンセンにお似合いだと考えていたどころだったのだ。 それからうとましそうにハーパーを見ると、「お互いに愛し合ってるからきっといい夫婦になれるでしょう。 私もこんないい縁談を断るほど、無粋な男ではないのでな、 ハーパー、殿下からいただいた婚約の証を妹に渡したまえ」

少し冷笑をかますと ハーパーは何のためらいもなく婚約の証を取り出し、ゴミを捨てるかのように、喜んで床に投げつけた。 そして眉をひそめながら不満そうに睨みつけてくるハンセンを、彼女は見向きもせず、ただ 「お父さんといいハンセンといい、やはり男はみんな信用できないんだ!」 と怒り狂いながら自分にそう言い聞かせた。

「姉さん!なんてことを! もし壊したらどうするのよ!」 フェリシアは急いで翡翠のペンダントを拾い上げ、ハンセン・ジュンの手の中にそっと置いた。

向こうはその柔らかい手を握り、彼女に翡翠のペンダントを渡した。 「フェリシア、これが私たちの婚約の証」

「殿下、そちらが持っている対となるものもお返しいただきたい。それは母が残してくれた唯一の形見だったので」と催促するハーパーの声は氷のように冷たかった。 向こうがそんな薄情っぷりを見せた以上、こっちもしがみつく必要がないし、 大体あんな男に縋りつくほど私は落ちこぼれてないわ、と彼女は心の底でそう決意した。

しかしその言葉を聞いたハンセンに母親から渡された翡翠のペンダントを強く床に投げつけられ、粉々に砕いたところを目の当たりにした ハーパーは少し怒りの様子を見せかけたが、やはりそれをどうにかうまく隠すことができた。 何せ彼女はすでに理解していたのだ、みんなの狙いが自分を挑発することにあり、 こんな誰一人として味方のいないチュー家で もし反撃でもしようものなら、かえって自分を追い払う口実を与えてしまうに違いない、と。

そんな心持で、彼女は粉々になった翡翠のペンダントを潔く拾い上げると、ハンカチで丁寧に包み、 「お父さん、先に失礼します」とボソっとつぶやいた。

「とっとと下がるがよい」まるで実の娘とは程遠い、宿敵と対峙しているような軽蔑的な言いぐさで、チャールズはハーパーを追い払った。 一方、昔からハーパーの横暴な振る舞いに気に食わなかったハンセンは、 今彼女が他人に屈し、苦しみに耐えて唇を出血させちゃうほど噛んでいる姿を見ると、 勝ち誇った笑顔を見せ、大喜びした。

「じゃあ私もこの辺で」

「お気をつけて、殿下」

チャールズは立ち上がり、去っていくハンセンの姿を見送った。

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