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第5章婚約解消(パート1)
文字数:2676    |    更新日時:10/04/2021

皇居から出てくると、ハーパーはギラギラと照りつけてくる太陽に目を細め、 少しぼやけている視界と同じように、その頭もまだぼんやりと朦朧していて、 ぼーっとそこに立っていると、まるで自分が災害の生存者になったかのように感じた。 生まれ変わってから現在までのあいだというもの、何度も人生の生と死の狭間に置かれていたことを思い出し、彼女は うつむいて、自分がどうやってこのつらい人生をくぐりり抜けて来たのかを考えると、深いため息をついた。

誰もいない宮殿のドアの前に立ちつくし、ハーパーは苦笑いした。 誰も迎えに来ないのは仕方ないのである。何せ祖母を除いたらチュー家に彼女の生死を気に留めてくれるものもいなければ、 その祖母ですら彼女に愛想を尽し、仏陀様を拝みに出かけたきり帰ってこなかったのだから。

後で出てきたときマシュー親王が、ハーパーが顔を手で覆っているのを見て、泣いているのかと思って近寄ってみると、 彼女は泣いているわけではなく、ただ手でまばゆいばかりの日差しを遮っているだけだと気づいた。

「殿下、命を救ってくれてありがとうございます」 そう言いながらハーパーはひざまずき、自分に見向きもしなかったマシューに感謝の意を表するも、 ただバカみたいに宮殿の前にひざまずいたままの姿で放置され、彼に無言で立ち去られた。

しばらく言葉を失ったが愚痴は言わず、 彼女はただそそくさと立ち上がり、服についた軽く埃を払い、 心を沈ませたまま、家に向かって歩き始めた。 チュー家の邸宅は皇居と少し離れていたが、今の自分にとっては大したことではなかった。

と言う彼女の考えは、どうやら甘かったようだ。皇居からチュー家の邸宅まで徒歩2時間近くもかかると、ハーパーは思ってもみなかったのだ。 長時間歩いたせいで足が棒になりそうだった彼女が 家に着くと、そこにあるのは当然優しい掛け声とは程遠い、父親の厳しい目つきと、 人の不幸を餌食にしているように面白がって自分を見ていた執事のスー・ワンと他のチュー家のものから向けられた、嘲るような表情。

「お父さん!」

「この親不孝娘が!」 テーブルの上の茶碗に手を伸ばすと、チャールズは荒れ狂ってそれをハーパーに向けた。 軽く身をかわしたおかげで、茶碗はただ耳を掠めて通っただけで済んだが、その茶碗にある熱いお茶は彼女の体にぶちまけられた。 体に焼けるような痛みを感じながらも、彼女は一音も発せず、 ただただその父親を見つめていた。

「よくもそんな一族全体を巻き込むような賭けしてくれたな! 相手が誰なのかわかってるのか? あの平気で人を殺せる マシュー親王なんだぞ!」 とチャールズが言ったように、マシューはその血に飢えているような残忍非道さで知られていたのだ。 彼は、ハーパーが保身のためにチュー家全員を道連れにするような 危険極まりない賭け事をするとは思ってもみなかった。

「お父さん、私はただあなたの評判に傷をつけないだけです。 もし私が将軍の子を殺害したという罪名を被らされたら、いずれ将軍の怒りはお父さんに向けることになるでしょう。 そんな陛下の寵愛を一身に集めた将軍に目の敵にされて、 もし私が無実を証明しなかったら、きっとあなたも巻き込まれていたはずです」

「減らず口を叩くな!」 チャールズは逆上して机に拳を叩きつけながら怒鳴り散らした。 何しろハーパーが殺人の罪を問われた時から彼はすでに一線を画し、 生かすも殺すも御気の向くままと言ってためらいなくマクスウェル将軍に彼女を差し渡したから、 目の敵にされるもくそもなかろうに。 「お前のわがままにはいつも目をつむってきたがまさかこれほどになると思わなかったよ。 そのわがままのためなら我々一族の命すら顧みないような 冷血女は私の娘じゃない!」

「お父さん!」 ハーパーはにわかに自分の耳を信じられなかった。 彼女はただ生き残りたいだけなのに! あんな賭けしたのも百パーセント勝てる自信があってのことで、でないと一族全員の命を賭けにするわけないでしょう! 他人のマクスウェル将軍やマシュー親王に許された今、逆に一番親しい家族からこんな風に攻められるなんて、 彼女は悲しみを感じずにいられなかった。

「ハーパー、傲慢もわがままも結構ですが、 関係ない人まで巻き込んではいけませんわ」とスー・ワンはハーパーをじっと見つめながら、悲しみを装っていたが、 しかしその内面では悦びに包まれていた。 「さすがの私でも今回ばかりは あなたの味方にはなれませんわ」

「そのとおり。 姉さん、あのような残酷なことをしておきながら、まだ父さんが許してくれると思ってるわけ?」 フェリシアも割り込んで彼女への罵倒に加勢してきた。 その優れた医術をもって初の女性宮廷医師になったハーパーを、 チャールズは誇りに思うどころか、逆に憎んでまでいたのだ。

「どうか信じてください!自分の命欲しさに皆まで犠牲にするつもりなど決してありません。 私はマシュー親王に無実を証明する機会を与えてほしかっただけです。 お父さん...」 と、ハーパーは必死に説明した。

「黙れ! 私はお前のお父さんではない! お前のような不孝な娘を持った覚えはない!」 と言いながら蹴りかかってきたチャールズに バランスを崩され地面に倒れたハーパーは、 冷たい視線を向けてきた父親を見上げると、急に胸に鈍い痛みを感じ、自分に言い聞かせた。 「ハーパー、この人たちの畜生面が見えてる? これがあなたの家族よ!」

「お父さん、私はただ…」 ハーパーは不満げにつぶやいた。

「もう十分だ! そのヘタクソな言い訳にはもううんざりだ」 チャールズはついにトサカにきた。 「これからは、自分の部屋から一歩も出るんじゃないぞ!」

「お父さん、それってどういう…」 ハーパーは困惑しながら尋ねた。

「そのまんまの意味だ!これからは一生、自分の部屋で過ごしたまえ!永遠に出るんじゃないぞ!」 チャールズは沈痛な面持ちで命じた。 ハーパーを再び世に出すと、きっとまたとんでもないことをやらかすに違いない! 今度はマクスウェル将軍とマシュー親王、 次もまたどっかの将軍やら親王やらを怒らせたらこっちの身が持たないのだ!

「お父さん、私はまだ宮廷医師という職務がありますので、 ずっと家にいるわけにはいかないんです」

「それについては心配ご無用よ。 マクスウェル将軍を怒らせた姉さんのために、父さんはとっくに辞表を陛下に送り、宮廷医師の任を外していただいたの。 そしてその空いた席を、ヘイリーが引き継ぐ予定よ。 姉さんは自分の部屋で反省でもしたほうがいいわ。 もう父さんを怒らせないであげて」とフェリシアは誇らしげな顔でそう告げながら、 ハーパー、あなたはもう何年もの間ずっと横暴だった。けれど、これからはみんなから嫌われるという運命に呪われているのよ! 彼女は幸せそうにそう思ったのだ。

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1 第1章時空旅行~タイムトラベル~2 第2章生と死の瞬間3 第3章名誉挽回4 第4章ジェイドの死5 第5章婚約解消(パート1)6 第6章婚約解消(パート2)7 第7章どうか許して8 第8章彼女を殴り殺せ(パート1)9 第9章彼女を殴り殺せ(パート2)10 第10章実家へ行く11 第11章不運な日(パート1)12 第12章不運な日(パート2)13 第13章彼女には裏の動機があるかもしれない(パート1)14 第14章彼女には裏の動機があるかもしれない(パート2)15 第15章帰郷16 第16章仮面の男17 第17章腹に一物(パート1)18 第18章腹に一物(パート2)19 第19章目には目を(パート1)20 第20章目には目を(パート2)21 第21章専用キッチン(パート1)22 第22章専用キッチン(パート2)23 第23章あなたを私の側室としよう24 第24章お金を稼ぐ25 第25章Capítulo私は貧しい家族を持っていました26 第26章Capítulo殺人事件(パート1)27 第27章Capítulo殺人事件(パート2)28 第28章Capítulo正面からの打撃(パート1)29 第29章Capítulo正面からの打撃(パート2)30 第30章CapítuloHaileyが帰ってきた31 第31章Capítulo底流(パート1)32 第32章Capítulo底流(パート2)33 第33章Capítuloハーパーが誘拐された(パート1)34 第34章Capítuloハーパーが誘拐された(パート2)35 第35章Capítulo医療費をお支払いください36 第36章Capítulo私は妊娠しています(パート1)37 第37章Capítulo私は妊娠しています(パート2)38 第38章Capítulo助けを求めて39 第39章Capítulo邪悪な計画(パート1)40 第40章Capítulo邪悪な計画(パート2)41 第41章Capítuloが同盟を結んだ42 第42章Capítuloハーパーはそれらを毒殺しました43 第43章CapítuloVenomousSlander(パート1)44 第44章CapítuloVenomousSlander(パート2)45 第45章Capítulo罰46 第46章Capítulo協力47 第47章Capítulo自尊心48 第48章Capítulo毒はどこから来たのか(パート1)49 第49章Capítulo毒はどこから来たのか(パート2)50 第50章Capítuloはこの薬を彼女のウェディングドレスにつけました51 第51章Capítuloイボンヌに起こった何か(パート1)52 第52章Capítuloイボンヌに起こった何か(パート2)53 第53章Capítulo残酷な男(パート1)54 第54章Capítulo残酷な男(パート2)55 第55章Capítuloは自分のペタルで巻き上げられました(パート1)56 第56章Capítuloは自分のペタルで巻き上げられました(パート2)57 第57章Capítuloが証言録取されている(パート1)58 第58章Capítuloが証言録取されている(パート2)59 第59章Capítuloすべてが予定されている(パート1)60 第60章Capítuloすべてが予定されている(パート2)61 第61章CapítuloTheFire(パート1)62 第62章CapítuloTheFire(パート2)63 第63章Capítuloそれを褒め言葉として64 第64章Capítuloが帰国65 第65章Capítuloブ一族からの招待(パート1)66 第66章CapítuloBu一族からの招待(パート2)67 第67章Capítuloフェリシアの計画68 第68章CapítuloBu一族の意図(パート1)69 第69章CapítuloBu一族の意図(パート2)70 第70章CapítuloはBu一族と結婚します71 第71章Capítulo彼女を死なせたい72 第72章Capítuloマクスウェルとハーパーの対立(パート1)73 第73章Capítuloマクスウェルとハーパーの対立(パート2)74 第74章Capítulo攻撃者の背後にいる敵(パート1)75 第75章Capítulo攻撃者の背後にいる敵(パート2)76 第76章Capítuloレディ・ハーパーはとても不誠実ですか? (パート1) 77 第77章Capítuloレディ・ハーパーはとても不誠実ですか? (パート2) 78 第78章Capítuloチュー氏族の邸宅の混沌(パート1)79 第79章Capítuloチュー氏族の邸宅の混沌(パート2)80 第80章悪魔だったCapítulo(パート1)81 第81章悪魔だったCapítulo(パート2)82 第82章Capítuloメイビスは彼女を疑った(パート1)83 第83章Capítuloメイビスは彼女を疑った(パート2)84 第84章CapítuloEnyaIsGone(パート1)85 第85章CapítuloEnyaIsGone(パート2)86 第86章Capítuloクロスオーバーからハーパー(パート1)87 第87章Capítuloクロスオーバーからハーパー(パート2)88 第88章CapítuloCarrieInTrouble(パート1)89 第89章CapítuloCarrieInTrouble(パート2)90 第90章Capítuloキャリーの死(パート1)91 第91章Capítuloキャリーの死(パート2)92 第92章Capítuloハーパーのハンセンに対処する計画(パート1)93 第93章Capítuloハーパーのハンセンに対処する計画(パート2)94 第94章Capítulo待ち伏せ(パート1)95 第95章Capítulo待ち伏せ(パート2)96 第96章Capítuloマシューのリクエスト(パート1)97 第97章Capítuloマシューのリクエスト(パート2)98 第98章CapítuloStartWithYou(パート1)99 第99章CapítuloStartWithYou(パート2)100 第100章Capítulo証拠(パート1)