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五年間、自身のキャリアを犠牲にして、私は夫を支え続けてきた。
しかし、彼が別の女と五歳の隠し子を育てている事実を、一通の招待状が暴き出した。
私の誕生日パーティーに乱入した隠し子を庇い、夫は私を冷酷に突き飛ばした。
その衝撃で、私の腹に宿っていた彼の子は、永遠に失われてしまった。
「君なしの人生なんて考えられない」
あのプロポーズも、私に子供を諦めさせたのも、全ては別の家族を守るための嘘だったのだ。
私の五年間の献身と、失われた小さな命は、一体何だったのか。
絶望の淵で完全に心が死んだ私は、静かに離婚届を用意した。
この偽りの結婚生活を終わらせ、私は自分の人生を取り戻す。
第1章
―― 原田凛々紗 ――
夫である高岡千秋の裏切りは、一枚の招待状から始まった。
それは彼と愛人・石川結菜が隠し子・萌々子の誕生日を祝うパーティーの案内だった。五年間にわたり彼を深く愛し、支え続けてきた私の世界は、その瞬間に音を立てて崩れ去った。
数日前、見知らぬ差出人からのメッセージが届いた。都心の一角にある高級レジデンスの屋上庭園で開催されるプライベートパーティーへの招待状。添付された画像には、楽しそうに笑う千秋と、見慣れない女性、そして幼い女の子が写っていた。差出人のアドレスは千秋の会社のドメインに酷似している。誰が、なんのために送ったのか。その疑念が頭をよぎったが、画像の中の光景がすべてをかき消した。すぐにそのメッセージは削除されたが、私の目にはすでに内容が焼き付いていた。
招待状に記された「高岡萌々子の誕生日を祝う会」という言葉。そして、そこに添えられた「家族の温もりをあなたと共に」という手書きのメッセージが、私の心を掴んだ。震える手で、私は招待状に書かれた名前をなぞる。「高岡萌々子」。千秋の名字。そして、幼い女の子。ただの偶然では済まされない不穏な響きがあった。頭の奥で警鐘が鳴り響く。長年の夫婦生活で培われたはずの信頼が、一瞬にして揺らぎ始めた。
私は直感的に、これがただ事ではないと悟った。過去にも、千秋の出張や深夜の帰宅が増え、小さな違和感が積み重なっていた。しかし、彼はいつも優しく、私の問いかけには「仕事が忙しいだけだ」と笑って答える。私は彼の言葉を信じていた。私たちの愛を信じていた。だが、この招待状は、その全てが欺瞞であった可能性を示唆している。真実を知りたい。この足で、私の知る世界が崩れ去るかもしれないという恐怖を押しのけて、私はパーティーの会場へ向かうことを決意した。
パーティーの会場である屋上庭園に到着すると、私は人目を避けて木陰に身を隠した。そこから見えた光景が、私の呼吸を止める。
千秋が、招待状に写っていた女性と女の子を抱きしめ、満面の笑みを浮かべていた。その女性こそ、石川結菜。そして、その女の子こそ、高岡萌々子だった。千秋は萌々子の頭を優しく撫で、結菜は千秋の腕に寄り添っている。彼らはまるで絵に描いたような、幸せな家族の姿だった。私の夫が、別の場所で、別の家族を築いていた。その事実に、全身が凍りつく。
結菜の声が風に乗って聞こえてきた。
「千秋さん、萌々子ももう5歳になるわね。そろそろ、私たちも本当の家族になれるかしら?」
千秋は結菜の髪を撫でながら答える。
「もちろんだよ、結菜。もう少しだけ待ってくれ。凛々紗とのことは、ちゃんと解決するから」
その言葉は、私の耳に直接突き刺さった。心臓が握りつぶされるような痛み。私はその場に立ち尽くし、目の前の光景が現実として視界に焼き付いていく。千秋が、別の女性との間に子供を設け、その女性と家庭を築くことを望んでいる。その事実が、私を打ち砕いた。
萌々子の顔を見る。千秋の面影がはっきりと見て取れた。私の夫が、私に隠れて別の女性と子供を作り、五年間も私を欺き続けていた。その冷酷な事実に吐き気が込み上げる。招待客の中には、千秋の会社の同僚や、私たちの共通の知人の顔も見えた。彼らは皆、千秋と結菜、萌々子の「幸せな家族」を温かい目で見守っている。だが、数人が困惑した表情で顔を見合わせているのも、私は見逃さなかった。それでも、私だけが、この欺瞞の舞台の外に立っている。その孤独感が、さらに私を追い詰めた。
逃げ出したいのに、足が鉛のように重く動かない。怒り、悲しみ、絶望、そして裏切られた屈辱。様々な感情が渦巻き、精神を蝕んでいく。この五年間、私が千秋のために捧げてきた全てが、無意味に変わった。私の人生は、彼の嘘の上に成り立っていたのだ。
私は人目を避けるように、その場を後にした。夕暮れの街は、あまりにも冷たく映る。まるで、今の私の心そのものだ。
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