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今夜、波津市は豪雨に見舞われていた。高崎星織はずぶ濡れの姿で「夢幻クラブ」に辿り着いた。
傘もささずに駆けたため制服は雨の重みで張り付いているが、抱えたケーキ箱だけは一滴の染みもない。
ボックス席の扉の前で、高崎星織は手を伸ばしてゆっくりと押し開けた。
「幸汐、君が姿を消したこの三年、徹は一分たりとも君を探すのを止めなかった。 ようやく戻ってきたな!」
その言葉に、高崎星織の足は瞬間的に止まった。
「幸汐?
まさか…徹の元恋人、滝沢幸汐のこと?」
「…徹が結婚したって聞いたんだけど?」優しい女声が響いた。
「はあっ!幸汐、あの女のことなんか気にするなよ。 あの時、榊原の老爺がお前を人質に徹を脅したんだ。『結婚しなきゃあの女を始末する』ってな」 「だから徹が結婚したのは、お前を守るためだったんだぜ」
「…そうなの?」滝沢幸汐は疑いを含んだ目を細めた。
「当たり前だろ!でなきゃ、徹がどうしてブサイクでデブの上に非嫡出子の高崎星織なんか選ぶんだよ? 「ただの嫌がらせだ!榊原の老爺をイラつかせるためにな!」
扉の外で聞いていた高崎星織の顔が、見る見る青ざめていった。
あの日、徹に「俺と結婚するか?」と聞かれた時、彼女は嬉しさのあまり一晩中眠れなかった。棚からぼた餅が降ってきたと思ったのだ。
だが真実は―彼女が醜く太っていて、しかも非嫡出子だったから。娶ることで老爺への復讐になる、ただそれだけだった…
「はっ…はははっ!」
高崎星織は泣き笑いをこらえながら、よろりと体を揺らした。
必死にドアノブを握りしめ、かろうじて姿勢を保つ。
「そろそろ5時間だぜ。高崎は絶対来ないだろうなあ? 蜜菓堂なんて東郊にあるし、往復だけで3時間はかかる。あの店は毎日行列ができてるんだぜ?あの女、そんな馬鹿じゃないよ」
「徹が頼めば東郊どころか、绫野市だって彼女は飛んでいくさ」 「徹にぞっこんだってこと、周知の事実じゃねえか!」 「はははっ!」
嘲笑と蔑みの混じった言葉を浴びせられながら、高崎星織は無表情で深く息を吸った。ぐっとドアノブを握りしめ、扉を押し開けた。
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