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ロスラン大陸では武道の能力が最も重要視されており、 生来の才能が豊かな人物ほど、より多くの尊敬を集めていた。
技術レベルによって人々は天、地、黒、黄と等級分けされ、 更に等級ごとに各自の能力がレベル1からレベル9にランク付けされていた。 中でも天の才能を持つ者は、何百年もの修行を重ね伝説の武道の達人となるという言い伝えがあったのだ。
しかし、ほとんどの人々は黄のレベル1にも届いていなかった。
この話は、ドリアス国のヴァルマーから始まる。
「おい、例の噂聞いたか? チュー氏族の酋長が殺されたらしいぜ! びっくりだろ!」
「ああ! 一瞬耳を疑ったよ! 世界にはまだまだ強いやつがいるもんだな。 なんでも、剣で一撃だったらしいぜ。 信じられるか? 何百人という武道家が目指して修行をしている霊界一の人間が いとも簡単に殺されるなんて」
「犯人は財産と武術に関する貴重な本には手をつけていないらしい。 それをもらうために、残された一族はきっと激しい競争を繰り広げるだろうな」
…
「お願いだ! 殺さないでくれ!」
ダレン・チューは薪小屋の中で 全身に汗をびっしょりとかきながら、 悪夢より目を覚ました。
彼は、ヴァルマーの武道氏族の中でも最上位と言われているチュー氏族の酋長、 ギャビン・チューの七男坊だ。
3日前にギャビン酋長が黒ずくめの覆面をした男に殺されたというニュースが流れると、 伝説の武道家の無念の死に、国民はショックを隠せなかった。
その後すぐにチュー氏族内で遺産争いが勃発し、同一族は混乱状態に陥っていた。
争いの刃はまず、酋長の七男であるダレンに向けられた。 特に秀でた才能も無いダレンは一族の恥だと 全員が同意していたのだ。 チュー氏族ほど大きな一族であれば、立場の弱い人間から始末するのが一番手っ取り早いのを誰も知っているからだ。
なので、ダレンは彼らに何度も相続放棄すると訴えたが、誰ひとりとして彼を解放する事はなかった。
「俺は、まだ生きているのか?」
遺産争いが始まりすぐの頃、6番目の兄が目の前に現れ、何かにつけてダレンに嫌がらせをするようになっていた。 兄にどんなに酷い事をされても彼は怒らなかったのだが、それが更にいじめを助長し、 どんどんダレンは追い詰められていった。
挙句の果てに、武道の才能がないただの親不孝者だとダレンを非難し、 彼を始末する口実まででっち上げる始末だった。
その瞬間、火の玉が空から落ちてきてダレンの頭に直撃した。
それを見た兄は彼の死を確信し、攻撃をやめたが、 ダレンはかろうじて逃げ切っていたのだった。
「ちくしょう!」
ダレンは一連の出来事を思い出し、地面を拳で殴りつけた。
「嘘だろう!」
怒りの渦中、頭に火の玉の衝撃が蘇ってくると、 自分は意識を失い、目の前の世界が闇に包まれたことを思い出した。 「なぜまだ生きているんだ?」 彼は自分が生きていた事が不思議で仕方なかった。
額を撫でると、火の玉に当たった場所がかさぶたになっているのが分かった。 あんな物がぶつかってきたというのに、痛みさえ感じなかったのが驚きだ。
「なんだこれは! 痛くもかゆくもないじゃないか! あの火の玉は一体何だったんだ?」
ダレンが頭を悩ませていると、ドアの外で犬の鳴き声が聞こえ、 次には、人の話し声がしてきた。
「ねえ、ベルさん。 やっぱり、あなたは 亡骸を守るため、ここにいらっしゃるのですね」
「あいつとあなたとの間にはさぞかしたくさんの思い出があるだろうから、離れがたいのは分かる。 だがしかし、エヴァン様が 全財産を引き渡すようにおっしゃっているのだから、 さっさと渡せ。 さもないと、大切な兄貴の体が腹をすかした犬の 餌になっちまうぞ。 早くしろ! やつの身体をバラバラにされたくなかったらな!」
わずか13歳のベル・チューは、狂暴そうな犬を見て青ざめた。 彼女は兄の遺体が安置されている薪小屋の外に立たされていたのだが、 この犬達が凶暴な犬種を改良して生まれたものだと知っており、思わず身震いした。 ダレンの死はベルにとってとてもつらいものであり、 彼女は今、その遺体さえ失いそうになっているのだ。
「私の兄は死んだのです! なぜ 放っておいてくれないのですか?」 ベルは絶望を感じ、 彼女の頬を涙がつたい始めた。 チュー氏族内の権力争いが激しくなる中で、 ダレンの死が彼女の孤独感に拍車をかけていた。 「お願い! お願いです! 兄を放っておいてください! 私達に構うだけ無駄です! 私は嘘など言いません、 信じてください」とベルはすすり泣いた。
ベルにとって、ダレンはたった一人の家族であった。 彼らの母親はベルを出産してすぐに亡くなり、 それ以来、ダレンとベルはチュー氏族からのけ者扱いをされていた。
しかし、彼らはどんなにつらい目に遭っても、父親にその事実を伝えようとはしなかった。もし助けを求めるなどすれば、他の兄弟からより酷くいじめられるのが目に見えていたからだ。
他の兄弟達はそれぞれ母方の家系の権力や宗派を利用し、チュー氏族の中でも強い影響力を持っていたのだが、 ダレンにはそのようなものは一切無かった。
「クソ野郎!」 外の様子を伺っていたダレンは、会話を聞いてそのあまりの酷さに激怒し、叫ばずにはいられなかった。
ギャビンの六男であるエヴァン・チューは、ダレンの異母兄弟だった。 エヴァンの母親は、ヴァルマーの地に住むユエ一族の娘であり、 家柄的に地位が高いわけではないが、ダレンの母方の家系よりは良いとされていた。
この場合、彼が他の兄弟達を敵に回す事は権力争いの上でも不利になるのは間違いなく、 だからこそエヴァンはダレンを標的にしていたのだった。 相続人が少なければ少ないほど、エヴァンはより多くの財産を得る事が出来るのだ。