3年目の恋愛の末、江藤志年は私を裏切り、財閥の令嬢・結城安奈と結婚した。
彼は言った。「知衣、俺は私生児だから、彼女と結婚することで父に認められ、家に戻れるんだ」
心の中で苦笑した。彼は欲望を正当化するための言い訳を並べているだけだ。
私はきっぱり別れることを選んだ。だが、江藤志年は私を金で囲われた鳥籠に閉じ込め、陽の当たらない生活を強いた。
「こんな贅沢な暮らしは、お前が一生かかっても手に入れられないものだ。何が不満なんだ?」
その後、彼は結城安奈を喜ばせるために、私を17階の屋上から飛び降りるよう強いた。
彼らは私が無力な女だと決めつけていた。だが、彼らが知らなかったのは、私こそがこの街の首富のただ一人の後継者だということだ。
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「深澤知衣、ぼーっとしてないで、早く料理を運べ!」
マネージャーの急かす声が耳元で響いたが、深澤知衣はまるで聞こえないかのように、舞台上で指輪を交換する新郎新婦をじっと見つめていた。
結婚式場は喜びに満ちていた。本来なら彼女も拍手して祝福すべきだった。だが、どうしてもそれができない。
なぜなら、舞台上の新郎は、彼女が3年間愛し続けた恋人――江藤志年だったからだ。
そして新婦は、大学時代からの宿敵、結城安奈だった。
指輪の交換が終わると、江藤志年は結城安奈のベールをそっと持ち上げ、皆の視線の中で情熱的に、誠実にキスをした。
「生死に関わらず、一生安奈だけを愛することを誓います」
マイクを握り、片手で結城安奈の手を引き寄せた彼の眼差しには、溶けてしまいそうなほどの愛情が宿っていた。
深澤知衣はその情熱的な姿を眺め、ただただ皮肉だと感じた。
昨夜まで彼女と親密に過ごしていた男が、今日、突然別の女の永遠の伴侶になったのだ。
彼女は飛び出して彼の偽りを暴くべきだったのかもしれない。
あるいは、涙を流しながら会場をめちゃくちゃにし、なぜ自分を裏切ったのかと問い詰めるべきだったのかもしれない。
だが、足は鉛のように重く、彼女はその場に縛り付けられ、心臓が刻一刻と痛みを発するのを感じるだけだった。
祝杯を上げ、ゲストと談笑していた江藤志年は、ふと何かを感じたように、料理の受け渡し口の方を見上げた。
光とグラスの輝きの中で、二人の視線が交錯した。彼女の瞳は失望と涙に満ち、彼の目は驚きと動揺に揺れていた。
彼は思わず彼女の方へ歩き出そうとしたが、結城安奈に腕を掴まれ、引き留められた。
「志年、どこ行くの? 父があなたと話したいって。ちょうど余剰資金があるのよ。ずっと起業したかったんでしょう?」
一方は無力な深澤知衣。もう一方は長年追い求めてきた出世のチャンス。
数秒の迷いの後、江藤志年は決断した。
彼は何事もなかったかのように微笑み、優しく言った。「いや、君がお腹を空かせてるかと思ってケーキを取ろうとしただけだ。義父さんが話したいなら、そっちを優先しよう」
言葉を終えると、彼は親密に結城安奈の肩を抱き、二人でメインテーブルへと歩いて行った。
深澤知衣は目の前の現実を受け入れていたが、それでも彼の選択に心を刺されずにはいられなかった。
かつて彼女に揺るぎない愛を誓った男は、今、完全に変わってしまった……