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第8章彼女を殴り殺せ(パート1)
文字数:3092    |    更新日時:10/04/2021

ハーパーは、妹のフェリシアがただ婚約をーーそれも、自分が裏でいろいろ手を回してやっと潰せた婚約ーー台無しにしたことを謝りに親切で自分を訪ねたり、食べ物を持って来ると考えるほど純粋ではなかった。 食べ物を持って来ると考えるほど純粋ではなかった。

ただ思いのほか、フェリシアが持ってきた食べ物に毒は入っていなかった。 その証拠として、現にそれらを食べた後もハーパーは普通に過ごしていた。 「フェリシアは一体なんのためにここに来たの? 用もないのにここに来るような彼女ではなかったわ」 と、妹が何を企んでいるのか理解できず、ハーパーは不安になった。

「フェリシア、一体どういう…」 ハーパーが話し始めたちょうどその時、フェリシアの口の端から血が滴り始め、その顔も真っ青になった。 そう、まさに毒でも盛られたように!

銀の箸を使って食物に毒は盛られていないことは確認していたはずなのに、 フェリシアは一体どこから毒を…?

「だ…誰か!!」 フェリシアの侍女が部屋から飛び出しながら叫び、 「フェ… フェリシア様はハーパー様にど…毒を盛られたんです!! 旦那様!!奥様!!大変です!!」 ショックで言葉すらままならなかったようだ。

メイドが飛び出して行くのを見て、ハーパーの顔が怒りにゆがみ、 そしてやっとフェリシアの意図が見えてきたーー毒を盛られたのはすべて彼女のマッチポンプだったのだ! テーブルに血を吐くフェリシアの姿を見て、 自分を陥れるためなら毒薬すら自ら飲んでしまうとは思わなかったハーパーの冷たい目にはただ嫌悪感だけが押し寄せていた。

「なんて恐ろしい女だ! 私を陥れるために自ら毒を飲むなんて 信じられない!」 ハーパーはそう言い、歯ぎしりしながら胆汁が喉元に上がるのを感じた。 一族を危機に引きずり込んだ一件で、父チャールズから邪険に突っ放された今、 もし嫉妬から妹を殺そうとしたというフェリシアの仕込んだ芝居を信じたら、今度こそチャールズは決して彼女を許さず、勘当するだろう。

まもなく到着した医者がフェリシアに解毒薬を与え、 チャールズとスーの二人も医者が退室すると急いで部屋に入った。 母のスーはまっすぐフェリシアに向かい、彼女をしっかりと抱きしめると、 無性にすすり泣き出した。

「この外道が!」 そういいながらチャールズはハーパーを睨みつけると、その顔めがけて平手打ちをかました。 そのあまりにもの激しさでハーパーは飛ばされて床に倒れこみ、 そして額がテーブルの角にぶつかって深く切れれたせいで、 たくさん噴出し、滴り落ちた血は襟もとを赤く染めた。 しかしそんな娘をまるで気にも留めなかったかのように更に追い打ちを言い放った。 「こんな血も涙もない極悪非道に育てた覚えはない!」

「私は毒など入れていません!」 と傷口を覆いながらハーパーはチャールズの方を見ると、 激怒で震えた父親に、自分の言葉を聞き入れてくれるなどまったくなかった。 その瞬間、そこにいるのはまるで血のつながった親ではなく、 自分を生で食い殺そうとして、憤怒に満ちた表情を向けてきた不倶戴天の敵のようだったの。

「嘘を言え! よくもこんなことを… どうやらお前を甘えやかしすぎたようだ。 お前ら!この女を放り出して殴り殺せ!」

チャールズは、時間が経つごとに憎しみを強めていくように吐き出した。 「どうして私にこんなことを… 私も同じ娘だというのに…」 すっかり敵扱いで自分を殺そうとした 父親を見て、ハーパーは言葉を失い、ひどく心を痛ませた。

「お父さん、いくらフェリシアばかり贔屓してきたとはいえ、こんなの…こんなのあんまりよ! こっちの話も聞いてくれないで! そんなに私に死んでほしいわけ? 同じ娘なのに!」 そう目を赤くしながら怒鳴ってきたハーパーを見て、 チャールズはしばらくパニックで心臓が激しく波打ち、唖然としたが、 その顔はまたすぐ、先ほど娘を殴った時と同じ獰猛さを取り戻した。

「お前のような残酷な女は、私の娘などではない! この前自分一人の命欲しさに一族全員の命を危険にさらしただけでは飽き足らず、今度はその嫉妬深さで実の妹すら手にかけるとは なんて恐ろしい女だ! 二度と私の娘を名乗るな! 今度こそ正義のため、 家族のため、 お前のような極悪非道を成敗してくれる!」

なんでお父さんはそんなに私の死を望むだろう… 幾ら元ハーパーがそのわがままさ加減で昔から皆の恨みを買っていたとしても、愛していた実の娘に弁解のチャンスすら与えてくれないほど、 憎まなければならない筋合いなどどこにもないわ! と、父の言葉に唖然としたハーパーは思った。

「ひどすぎるよ!お父さん!」 と、すでに怪我をして、反論する気力もない彼女は ただ額からどんどん流れてくる血を放置したまま、 父親の方を見つめながら怒鳴りつけた。 しかしその視線の向こうにいる、自分と血のつながっていながらも悪意に満ちた顔しか向けてこない親は、まるで人間の皮を被った復讐心に燃える獣のように感じた。

ハーパーの憎しみに満ちた目を見て、チャールズも内心ショックを受けたが、やはり平然な顔して 「ひどいのは家族の命すらどうでもいいお前の方だ!」と唸った。

「私がひどい女なら、 お父さんは何? 実の娘すら手にかけようとする、もっとひどい父親じゃない!」 ハーパーは苦笑いをしながら、必死に立ち上がろうとしていた。 「一国の宰相として、一家の長として、妾に目を眩まされ、実の娘をいじめられても何一つ動じやしなかった上、 しまいには私をなんども殺そうとする始末。 幾ら凶暴なトラでさえ我が子は食わぬというのに、お父さんは…お父さんはまさに獣以下の 人でなしじゃない! 私はあなたの娘であって、敵などではないわ!」

その言葉を聞いて、チャールズの怒りは怒りは瞬時に沸点に達し、 「この私に向かって怒鳴りつけるとは何たる無礼! 情けは無用だ!今すぐ この大逆無道の不孝女を殴り殺せ!!」 と家来に命じると、 少し立ち止まり、またハーパーの方を向いた。 「そんな悪質な女でさえなければ、命だけは助けてやったものを! お前を生かす限り、我が家に平和が訪れる日は永遠に来ないだろう!」

スーの飼い犬である一家の家来たちはもちろん、ハーパーへのスー様の嫌悪は百も承知なわけで、 チャールズの命令を聞くやいなや、すぐ彼女をベンチに縛り付け、 憐れみの片鱗をも示すことなく、棒を振り上げて彼女を殴り始めた。

「やめて!」 ハーパーの傍に残ってくれた三人の侍女、アナベル、エンヤとエルシーは一斉に叫びながら、家来たちを止めるために彼らに向かって駆けつけた。 残念ながら、メイドは強くなかったので警備員によって取り押さえられた。 自分のために泣いてくれる侍女と父親の冷たい顔を見て、 ハーパーよ、これがあんたの心から愛してきた家族、 今まで尊敬してきた男なの? こんな有様を見て、まだあきらめきれてないの? 馬鹿にもほどがあるわ! と、ハーパーは思わず自虐的になり、心の中で自分を嘲笑っていた。

必死に死刑から逃げられた先に、自分を待っていたのは家族による裏切りだと思うと、 いくら気の強く他人に弱さを見せないハーパーでも、涙を流れずにはいられなかった。 そして今の涙は自分のものではなく、世界で何よりも家族を愛していた元ハーパーのものだということを、 現ハーパーだけが知っていたからこそ、 そんな涙と悲しみを拭きとり、家族からも裏切られた今、自分に残された最後の、たった一度しかない命だけは守り切って見せると彼女は決意した。

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