神になる
作者崔 彰寛
ジャンルファンタジー
神になる
ゼン兄だと…
ゼンは長い間、「ゼン兄」と呼ばれることはなかった。
アンドリューが幼いころ、ゼンのことを「ゼン兄」と呼んで家中を追いかけていた。
誰かにいじめられればアンドリューはゼンの助けを真っ先に求めたのだった。
「ゼン兄」という言葉を耳にしたとき、ゼンは甘い思い出で満たされた子供のころの記憶に浸らずにはいられなかった。 なんと美しい時間だったのか!
大人になってルオ一族の中で抗争が起こり、父と叔父が敵対するとは夢にも思えず、 この二年間は本当に悲劇的だった。
ゼンはうなずいて彼への呼び方を変えた。 「いざ勝負だ!アンジ!」
「おやおや、貴様は奴隷としての身分を受け入れていないと聞いて ありえないとは思っていたが、 試しに『ゼン兄』と呼んでみればすぐ『アンジ』と呼んでくるとは… あの噂は本当だったようだ。 貴様、まだ俺と同じ特権を持っていると本当に思っているのか? 笑わせるな! それも今日で終わりにしてやる! この、俺の手でな!」 そう言うとアンドリューはニヤリと笑うと、突然攻撃的な雰囲気をまとった。
アンドリューからの侮辱を耳にするとゼンの心の中では怒りの波が膨れ上がった。 心の中に残っていた家族の愛情は消え去り、 表情は冷ややかに無情さをたたえた。
全身を紫の光で包むと アンドリューは何気なく前に足を踏み出しゼンへと攻撃を仕掛けた。
「バン!」
アンドリューが蓄えたエネルギーがゼンの胸を打ち、 あまりに強さにゼンはバランスを崩し 立て直すために数歩よろめいた。 魔法薬のおかげでアンドリューが骨精錬の境地に達しているのは明らかだった。
体が強くなりすぎたせいで、ルオの子供たちが自分を打っても骨の精錬に必要な温かい流れが生み出されなかったのだから、 過去数日間ゼンは自分の精錬速度の遅さにがっかりしていた。 しかしその失望と失意も、今日を以て終わりになるようだ。なぜならアンドリューの強い攻撃は再びゼンの体に暖かい流れの生成を呼び起こしたのである。
体から不純物を取り除く機会を歓迎してゼンはその唇に小さな笑みを浮かべた。
体を流れる温かい流れ、穢れが取り除かれ核が癒される感覚、なんてすばらしいんだ!
ゼンがひそかに喜びに浸っていたころ、回復する時間を与えたくなかったアンドリューは 全力を込めて次の攻撃を仕掛けた。
発勁を何発もゼンの胸にぶつけると、彼が反応する前に その体に更なる爆発的な力をお見舞いした。
続いてアンドリューは肘鉄に横蹴りからの正面蹴りという合わせ技をゼンに浴びせた。
ありとあらゆる種類の容赦ない攻撃がゼンに向けられた。
骨の間に満ちている、 まるで水門が開かれたかのような激しさを持つ 温かい流れによって、少しずつゼンは骨の不純物が絞り出され洗い流されていくのを感じることができた。
「いいぞ! 殺せ、アンドリュー様!」 まるで自分がゼンを打ち負かしているかのように興奮しているグレイ・フワンが 闘技場の外から叫んだ。
ルオ家の子供たちの中にもアンドリューを応援しているものもいたが、 多くはじっと立ってゼンのために静かに祈っていた。
なぜならほかの分家からやってきた子供たちの多くが、 心の奥底ではゼンの父親がルオ一族の長をしていた頃のことを恋しく思っていたからだ。 公平を重んじ思いやりがあるゼンの父親のおかげで、誰もが平等に訓練する機会を楽しむことができた。 取るに足らない分家出身の者であっても誰もが他との実力の差を作るチャンスが与えられ、 全ての者がその生まれではなく才能によって出世することができたのだった。
しかし第二と第三の分家がルオ一族の支配権を握ってからはすべてが変わってしまった。 これら二つの分家出身の者が優遇されすべての資源を乗っ取ったため、ほかのルオ一族の人間は苦労を強いられた。
元後継ぎであるゼンは、叔父に生かされた元宗家の生き残りであり、 元のルオ家を懐かしむ者たちの最後の望みであった。 子供たちには、もし彼が死ねば、明主を迎える機会も、公正さも全部このルオ家から永遠に失われてしまうことがわかっていたのだ。
一方でゼンはひたすらアンドリューの暴行を受け続けていた。
アンドリューの父親であるケン・ルオはそのバトルを見て顔をしかめていた。 魔法薬を飲んだアンドリューが骨精錬の境地に達していたことは 彼にもよくわかっていた。 その力はとてつもないほどに増大し、 その拳の強さは恐らくすでに500キロ、つまり鼎力に達し、 あのヘーラクレースともほとんど同格なはず。
ルオ一族の若い世代の中では自分の息子が二番目に強いのだという自信が彼にはあった。 アンドリューを打ち負かすことができるのはペリンだけであろう。
アンドリューが何十というパンチをゼンに浴びせていたのをケンは見ていた。 しかし!容赦なく強力な攻撃を受け続け、 不利には見えていたが、ゼンは全く負傷していなかった。
どうしてゼンはいまだに負かされていないのだろう?
武道の分野では、攻撃が最大の防御であるという言葉がある。
なぜこの理論が広く受け入れられているかというと、攻撃のほうが守るよりもはるかに簡単であるからで、 最強の武道家であっても敵からの絶え間ない熾烈な攻撃に耐えることはできないだろう。
ケンほど強くても、アンドリューからのそのような暴力的な攻撃には耐えられるはずがなかった。 だから金剛罩と九陽神功のような強靭な肉体を鍛える方法が重宝されていたのである。
そのような激しい強打を食らってもいまだに立つことができていたことから見ると…
ゼンは体を精錬する特別な方法を身に着けたのだろうか? それとも、彼の父や長兄がその方法を発見し、ほかの一族の者には秘密にして死ぬ前にゼンに教えたのだろうか?
ゼンがこの二年間、武道館で無差別に打たれ続けてもなお生きているということを考えると、彼が他の者が知らない何かを知っているに違いないと、 ゼンの秘密を見抜くとケンは瞳を光らせた。
この時、自分の絶え間ない強打に効果がないのを目にして、アンドリューは焦っていた。 そのパンチはますます激しくなり、ありとあらゆる悪質な攻撃をゼンの体に仕掛けた。
「シタン発勁!」
「バン、バン、バン、バン、バン、バン!」 先ほど死んだ奴隷と同じように六回破裂音が響き渡り、ゼンの体で六倍の力が爆発した。
その技の破壊力でゼンが打倒されるだろうと思っていたが、 驚いたことに向こうはいまだに目の前にしっかりと倒れずに立っていたのだ。 その目がますます輝きを増すのを見て、 アンドリューはひどく不安を覚えたのだった。
なんておかしなやつなんだ! どうしてこんな激しい攻撃に耐えられるんだ?
ゼンの狡猾な笑みを見てアンドリューはさらに慌てだした。 骨精錬の境地にも達して、強い力を手に入れた自分は ゼンよりもはるかに強いはずだった。 一発の強打で簡単に打ち負かすはずだったのに、 どうしてしくじったのだろう?
どうしてゼンは微笑んでいられるのだ? 自分の無能さ嘲笑しているのだろうか?
アンドリューが感じていたパニックはその表情によって憤慨へと変わり、 その目は怒りに燃え上がったのだった。