
都会で持て余された獣人が田舎に送られてくる、と友人から知らせが入った。
最後の豚を片付けてから向かうと、そこには誰も見向きもしない一匹のミニブタが残されているだけだった。
全身傷だらけの彼は、怯えきった目で私を見つめている。
「君も独りぼっちなのかい?なら、私と行こう」
不憫に思い、その小さな体を抱きかかえて屠殺場へと歩き出す。
ふと、腕の中が濡れる感覚。はっと我に返ると、私の体は半ばまで水に浸かっていた。
そうだ、忘れていた。彼はとうの昔に、都会の獣人に噛み殺されたのだった。
【1】
腕の中は、空っぽだった。
岸辺から許大香が必死に私の名前を呼んでいる。私が馬鹿な真似をしないかと案じているのだろう。
私の獣人は、もうこの世にいない。
契りを交わすはずだったミニブタの彼は、配達の途中で都会の令嬢が連れていた獣人に、生きたまま噛み殺されたのだ。
村に運び込まれた白玉珠の体は、見るも無残に引き裂かれていた。
私に最後の視線を投げかけると、ごぷりと血を吐き、そのまま動かなくなった。
私は夜が明けるまで、ただ座り続けていた。
どうせ誰かの残り物だったのだ。私に選ぶ権利なんてありはしなかった。
だから、心を寄せるべきではなかった。
なのに、涙は後から後から溢れてくる。
冷たくなった彼の体に、指一本触れることさえできなかった。
埋葬の時も、怖くて見に行けなかった。
「白玉珠……私と一緒になりたいって、追いかけてきたのは君の方だろう。なんで黙っていなくなるんだ」
「どうして、君が先に約束を破るんだよ」
私の声が彼に届くはずもない。
その夜、私は早々に眠りにつき、そして、長い長い夢を見た。
【2】
「妻主様、あなたと契りを結べるなら、これ以上の幸せはありません。いつか必ず、あなたを僕に惚れさせてみせます」
その声が、今も耳の奥で響いている。
獣神の樹は、年に一度、獣人となる実をつける。
実が熟すと、年頃になった女たちがそれを貰い受けるのだ。
一度契りを交わせば、獣人は女なしでは生きられない。
しかし、優れた獣人は皆、都会の者たちに選ばれてしまう。田舎に残されるのは、家畜の類ばかりだ。
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