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レイチェル・オーウェントは、とことん最悪の人生を歩むらしい。
「レイチェル」
婚約者が自分の名を呼ぶ。
それはどんなシチュエーションなのだろう。どんな声で呼んでもらえるのだろうといつも夢を膨らませていたけれど、現実なんてこんなものだ。あれほど好きだった相手からの呼びかけは、レイチェルにとっては全く嬉しくないものだった。
それが悲しくて、レイチェルは眉を下げる。
「なんでしょうか? コーディ様」
それでも笑顔で顔を上げると、鼻を歪めて嫌そうな顔をしている婚約者がいた。
その隣にはいつもの女がいる。それにもいい加減慣れてしまった。
「今日こそ正式に婚約を解消する。いいな?」
コーディが隣で不安そうにしている女の肩を引き寄せる。
彼が次に言うことは予想がつく。だから、レイチェルはその女を睨みつけた。
「俺は、ステラと婚約するから」
レイチェルの表情にコーディは片眉を上げたが、素っ気なく言い放った。
血が沸騰したように体が熱くなって、レイチェルは拳を握る。
覚悟はしていたことだ。だけど、実際に言われるとやはりだめだった。
どうして。そんなどうしようもない問いが脳裏に浮かんで、歯を食いしばる。
悲しみと虚しさが込み上げ──行き場のないそれは、怒りとして爆発した。
「貴女、ちょっと来なさい!」
ステラの手を乱暴に握る。そのまま力任せに引っ張ると、彼女は短く悲鳴をあげた。
その悲鳴を聞くと少しだけすっきりして、でもそれ以上にイライラする。絶対そんな玉じゃないはずなのだ。ステラ・ケミストという女は、こんなにか弱い女じゃない。
こんな女がいるはずない。綺麗で、優しくて、人を恨まない女なんていないはずなのだ。だって、そうでなくちゃ、レイチェルが惨めだ。
かわいこぶるな。偽善者め。そう怒鳴りつけてやろうとして、レイチェルは口を開く。だが、そこでコーディが邪魔をした。
「レイチェル、やめろ!」
間に入ろうとするコーディを避け、下から睨めつける。
やはり、コーディのいる前ではろくに話が出来ない。レイチェルはステラを引っ張ると、彼の前では使おうと思わなかった魔法を使った。
レイチェルとステラの足元に魔法陣が浮かび上がり、コーディが僅かに目を開く。
「コーディ様は手を出さないでください。わたくし逹、二人でお話してきます」
強く言い放つと、返事も聞かず、転移魔法で人影のない場所へと移動する。
その瞬間、俯いたステラの口角が上がったことには、レイチェルは気が付かなかった。
*
学園の隣にある森は、いつも人気がなくて鬱蒼としている。今日も誰もおらず、それどころか、動物の気配すらしなかった。
だからステラに文句を言う場所は、大抵ここだ。
着いた途端、手を離すと、レイチェルはステラの頬を打つ。
「人の婚約者を取っておいて、よくそんな平気な顔が出来るわね」
ステラは、けして平気な顔をしているわけではない。だが、レイチェルにとっては、どんな顔をしていても、婚約者のいる男性と恋仲になることはとうてい許されることではなかった。
他の人もそうなはずなのに、ステラがやると、そのルールはまるっきり無かったことになる。数々の正論も、ステラの前では役に立たなかった。
レイチェルだけがいつも正気で、だから仲間外れだ。
「この売女」
吐き捨てるように罵る。ステラは、真っ赤になった頬を庇うように両手を添えると、瞳を潤ませた。
「そんな……私は誓って、コーディさまだけです」
それがだめだと言っているのが、どうして分からないのだろうか。
イラついて後頭部を掻きむしる。この女はいつもレイチェルの神経を逆撫でにした。
同じくらいの魔力を持つのに、魔女だと蔑まれたレイチェルの目の前で、聖女だと崇められているのも。
レイチェルを見ると嫌な顔をするコーディが、ステラには頬を染めているのも。
全部全部、腹が立つ。
「みんなにいい顔してチヤホヤされるのは、お姫様みたいで、さぞかし気分が良いのでしょうね」
なにが違うのだろう。彼女と自分のなにが。
レイチェルにはそう変わらないように思える。見た目もスペックもそう変わらない。それなのに、ステラとレイチェルとではなにもかもが違った。
友達も家族も、周りの反応も。
それでも、コーディだけがレイチェルの味方であったはずなのに、とうとうコーディにまで捨てられて、彼女は一人になった。
「わたくしは、貴女のようになりたかったわ」
今まで腹の底に溜めて我慢していた言葉が、唇に乗る。驚いたように目を開くその顔が気に入らない。
目頭が熱くなって、レイチェルは目を擦った。
「貴女みたいな、綺麗で優しいヒロインになりたかった」
顔を隠すように俯く。
泣くな。弱みも見せるな。どうせあのむかつく顔で同情される。