新しい始まり
作者Val Sims
ジャンル恋愛
新しい始まり
「ご心配ありません。アンダーソン様のゲストはよくお送りしておりますので」
彼女を安心させるためにそう言った言葉が、かえって逆効果になってしまった。
エデンは、自分がしたことへのとても厳しい現実に直面し、アルコールにとらわれてしまったことで自分自身に怒りを感じていたが、 唯一の慰めは、彼らは昨夜少なくともまだ最低限の常識があったと言うことだけだった。 ちゃんと避妊具は使ったのだ。 その証拠として、リアムの心地の良いメモリーフォームベッドと千ものスレッドを持つほどのシーツがある素晴らしい寝室を逃げ出したとき、彼女は床に輝くホイルの小袋が落ちているのをはっきり見たのだ。 彼女が必要としていたのは、変な病気をもらわないことだった。
「お嬢さん…」
エデンは恥ずかしくてぼーっとしていた状態から目が覚め、しかめっ面をして執事を見たが、彼の言葉の半分も聞いていなかった。
「ごめんなさい、もう一度言ってもらえますか?」 彼女は、間違いなく人生で最悪の過ちを犯したのに、どうしてこんなに礼儀正しく落ち着いていたのだろう思いながら、聞き返した。
「お帰りになる前に、朝食はいかがですか?」
その質問に唖然とし、彼女は相手を呆然と見ていただけだった。 一夜限りの関係の傷を軽減させるために、前夜と同じ服で家路につく前に朝食を提供してもらうのも、「リアム・エクスペリエンス」の一環だったのだろうか。
彼女はリアムが自分のような客を何人招き入れたことがあるのか不思議に思っていた。 彼がいつも適当な女性を連れて帰り、その女性に飽きたら後は執事に任せるということをしているのは明らかだった。
「いいえ、結構ですわ」と彼女の顔は怒りで張りつめており、 早くここから抜け出して、自分の窮屈なアパートで嫌になるほど泣きたかった。
「かしこまりました」デイブは正面玄関を指し、果てしなく続いている私設車道で待っている品位のあるレキサスを彼女に見せた。
彼女は後部座席に飛び乗ってシートに沈み込み、豪華なレザーシートに溶け込んで、そのまま車の床に蒸発してしまえばいいのにと、思っていた。
「どちらまで?」 運転手であるスティーブンは、バックミラーで彼女を見つめ聞いた。
彼女はここ以外のどこでもいいわと、叫びたかった。
でもそれは運転手のせいではなく、 そして、リアムのせいでもなかった。 彼女は、友人に忠告されたにも関わらず、それに彼にもうすぐ結婚することを伝えられ、朝目覚めたら後悔することをわかっていても、自分から彼のベッドに飛び込んで行ったのだ。
「お嬢さん?」 スティーブンの太い眉毛がきつく結ばれていた。
「最寄りのバス停で結構です」とエデンは静かに言った。 彼女はそこからタクシーを拾うつもりで、 リアムとの関係が少なければ少ないほど良かった。 彼女は、もし彼がもう一度同じことをしたいと思ったときのために、彼の運転手に自分のアパートを知られたくなかったのだ。