玉座についたヒーロー
作者上沼 鏡子
ジャンル冒険
玉座についたヒーロー
「2つの巨大な頭を持ってるやつは良さそうだ」
「待てよ! こっちの方が良さそうだな...」
ロッキーはなかなか決められなかった。 1つしか選ぶことができないにもかかわらず、見るとどのビーストにも興味をそそられたからだ。
突然、角の厩舎から弱々しい鳴き声が聞こえ、 ロッキーはそれに惹きつけられた。 まだそれを見ていなかったからだ!
鳴き声の出所まで歩いて行くと、厩舎の隅に小さなビーストが丸まっていたが、 薄暗い光の下だったので、どのようなものなのかはっきりと見ることができなかった。 ブルブル震えていて、具合が悪そうだった。 ロッキーは可哀想に思うと、手を伸ばして触わらずにはいられなかった。
「もう大丈夫だからね!」 ロッキーは慰めようとその小さなビーストを撫でた。
これが功を奏したようで、 そのビーストの震えは収まり、立ち上がろうともがき始めた。 その細い手足で体を持ち上げると、足を引きずりながら歩き、ロッキーの前まで来て、そこで立ち止まった。
ビーストが近づくにつれ、ロッキーはその特徴をはっきりとらえた。 最初に目にしたのは、無垢で愛らしい大きな丸い目で、 長い頭は、前回シャーリーが乗ったドラゴンのようだった。
「これはドラゴンかな?」 そう思うと期待で目を輝かせたが、小さなビーストの体を見て、ロッキーはすぐにがっかりした。 その皮膚には生まれたばかりの鳥のようなしわがあったが、翼がなかったのだ。
「ああ、違ったか!」 シャーリーのドラゴンには翼と2つの前肢があったことを思い出したから、この小さなビーストには4本の足しかなかったので、 ドラゴンでないことは明らかだった。
その小さなビーストは棒鋼に近づくと、ロッキーの手をなめた。
「ああ! くすぐったい! ハハ!」 ロッキーはその小さいウォービーストを見て笑った。彼が見た中で最もかわいいビーストだったからだ。
「そこまで!」 突然大きな声が鳴り響いた。
「ごめんね、おチビちゃん! 行かないといけないんだ」とロッキーは行こうと立ち上がった。 それから彼は振り返り、歩き始めたが、 弱々しいうめき声を聞いて立ち止った。 振り返ってビーストを見ると、その無邪気な目がロッキーを見つめていた。
ロッキーは微笑み、棒鋼にぶら下がっている番号をちらっと見てから司祭長のところに戻った。
「さあ! 飼育係に番号を伝えなさい。そうすれば選んだウォービーストは君たちのものになるのだ。 そして君たちは血の絆を結ばなければならない。 ビーストが君たちの血を一滴飲み込むと、君たちはその主人になるのだ」と司祭長が言うと、飼育係にうなずいた。
そして、飼育係は最初に立っていた若者のところへ歩いて行った。
「14番」とその若者は言った。
「14番、ヘリッシュハウンドという名前の2つ星のウォービーストです」と飼育係は発表した。 すると彼の部下の一人が14番の厩舎に行き、 牙のような2本の長い歯が口から突き出ているウルフハウンドのようなウォービーストを連れ出した。 かなり恐ろしいビーストのようだった。
「2つ星のウォービーストか! 悪くない!」 司祭長はうなずいた。
他の若者たちは、羨ましそうな目でヘリッシュハウンドを見た。
「2つ星?」 ロッキーはそばに立っている一人の若者に近づき聞いてみた。 「『2つ星』とはどういう意味なの?」
その若者はロッキーを軽蔑した表情で見ながら、口をゆがめて 素っ気なく答えた。「そんなことも知らないの! ? じゃあ、どうやって君はロイヤルスピリットマニピュレーターになれるっていうんだい? 『2つ星』は、彼らの可能性、つまり後でどれだけ強くなれるかを示しているんだ。 最高のウォービーストは9つ星なんだけど、 9つ星のウォービーストは伝説的な存在で、インモータルステージの最強者と同じくらい強力なんだ。 つまり、星の数字が高いほど、ウォービーストは強くなるというわけさ。 この2つ星のウォービーストで言えば、限界のグレード2に達すると、成長が止まるし、 3つ星のウォービーストの場合はグレード3が限界になる。 でも今なら2つ星のウォービーストで十分だよ」
「だが、変異する能力のあるスピリチュアルビーストは、 その限界を突破することができるんだ。 そうすれば、9つ星になることもできるんだ。 でも、そんなスピリチュアルビーストは殆どいなくて、 一生を通じて見たことある人もほとんどいないんだ」と彼は続けた。
それを聞いて、ロッキーは心の中で思った。「へえ、 スピリチュアルビーストは限界を突破することができるのか! 彼が言った変異とは、おそらく遺伝子の突然変異のようなものなのだろうか。 でも、何がきっかけで変異を引き起こすんだろう? なぜスピリチュアルビーストは変異してアップグレードできるのかな? 彼らの遺伝子について何か特別なことはあるのか? そうすれば、いくつか研究する必要があるな。 たぶん僕なら新種のスピリチュアルビーストを作れるかもしれない。 そうすれば、僕をバカにするやつらも間違いなくびっくりさせられる! ハハ! もう誰も僕を役立たずと呼ばなくなるだろう。
僕は動物遺伝子研究が専門で、この分野では誰にも負けたことはないから!」
「それに、スピリチュアルビーストはめったに見られないので 最高のスピリットマニピュレーターだけがそれを所有する資格があるんだ。 聖ドラゴン帝国で最強のスピリチュアルビーストはブレイズフューリアスライオンで、スピリチュアルビーストリストの中で2位にランクされていて、 7つ星なんだ」
「1番は?」
「ブライアント将軍の北斗七星ドラゴン。珍しいスピリチュアルドラゴンで、 同じ7つ星だけど、ブレイズフューリアスライオンよりもはるかに強いんだ」と若者は言った。
「スピリチュアルドラゴン? なぜ他のスピリチュアル生物はビーストって呼ばれてるのに、 ドラゴンはそんな風に呼ばれるの?」 ロッキーはかなり当惑し質問した。
「ドラゴン宗家は優れたスピリチュアル種族であり、ドラゴンはワイルドスピリットランドで最も希少なスピリチュアル生物だ。 さらに、ドラゴンは常に同レベルの他のスピリチュアル生物よりも強いんだ。 ドラゴンスピリチュアルパワーは、ドラゴンを操れるパワーとしてワイルドスピリットランドにおける聖ドラゴン帝国のトップの地位を保証するもので、 ドラゴンは聖ドラゴン帝国の象徴だから、他のスピリチュアル生物と区別するんだ。 そして、そのプライドと名誉はロイヤルスピリットマニピュレーターにだけ属する。 それが僕たちだ!」 その若者は誇らしげに言うと胸をはった。