玉座についたヒーロー
作者上沼 鏡子
ジャンル冒険
玉座についたヒーロー
司祭長が去ると、レナはロッキーをベッドへ連れて行き座らせた。 二人が話していると、召使い姿の少女が部屋に入ってきた。
少女はレナにうやうやしく頭を下げて言った。「殿下、陛下はメインホールで殿下と面会されたい、とのことです。 明日行われる盛大な儀式についてお話されたいそうです」
「わかったわ。 後で行くから、 もう行っていいわ」 レナはうなずき、召使いを行かせた。 そしてロッキーの方を向いて、「バジル、ここで休んでいてね。 逃げてはいけませんよ! 忘れないでね。 すぐに戻るから」
「はい!」 ロッキーは答えた。
レナが部屋を出た後、ロッキーはしばらくベッドに座り、 色んなことを考えたが、 あまりにも新たな情報が多すぎて、処理することなどできなかった。 自分が王子であることは確認できたものの、まだ信じるのは難しかった。 激しい頭痛に襲われていたので、痛みを和らげようと、こめかみをさすった。 そして、司祭長とレナが話していた「スピリチュアル・メソッド」というものについても疑問に思った。 それはどんなものなのか? しばらく考えても答えが出ないので、ロッキーはため息をつくと、立ち上がり、部屋から出た。
外には長い廊下があり、突き当たりには、まばゆいばかりの光が輝いていた。
ロッキーがゆっくりと光源に歩いていくと、 近づくにつれて、光は徐々に明るくなった。 廊下の突き当たりまでたどり着くと、暖かいそよ風が吹き、太陽が広い大地を照らしていたが、 ロッキーはその次に見たものに度肝を抜かされた。
周囲の建物はどれも高くそび立ち、壮麗なものばかりだったのだ。 彼は荘厳な王宮にいたのだが、彼が立っていたのは大邸宅のドームの中だった。 隣にはらせん階段が下まで伸びていて、階段の下は薄暗くなっていた。
その階段の下まで方を目を追っていくと、風景画のような景色があった。 外では広い堀が宮殿を取り囲み、太陽の下で輝いていた。 堀の向こうには、見渡す限り多くの家が点在していて、 遠くから見ると、家々が扇の形に広がっていた。 そして、そこには黒い点のような何千もの人影が家々の間の通りを行き来していた。
突然、ロッキーを照らす日光が遮られた。 訳が分からず見上げると、衝撃のあまり叫んでしまった。「何てことだ。 何なんだ、あの怪物は?」
巨大な生物が彼の頭上を飛んでいたのだ。 両翼を広げると数十メートルにもなろうかという巨大な生物が、上空に完璧な形の弧を描きながら急降下してきたかと思うと、 その巨大な体の影がドームを覆った。 その頭の形はワニに似ていて、2本の鋭く長い牙が口から突き出し、 その巨大な鼻孔からは煙がずっと噴き出ていた。
「あれは恐竜だろうか?」 最初にロッキーの頭に浮かんだのは、先史時代に生息していた生物のイメージだった。 多くの共通点があったからだった。
そして人間がその生物の上に座ってベテランパイロットのように乗りこなしていたのを見て、ロッキーは心臓が飛び出るほど驚いた。 乗り手の指示で、空飛ぶ怪物は完璧で息をのむような空中アクロバットのパフォーマンスを見せた。
ロッキーがショックから立ち直る暇もなく、空飛ぶ怪物は突然向きを変えて、彼に向かってきた。
何でも簡単に引き裂くことができそうな怪物の4つの鋭い爪は、ロッキーの度肝を冷やした。 そして怪物が自分に向かってくるのを見ると、青ざめた 彼は本能的に後ずさりしたが、つまずいて床に倒れた。 そのため、彼は怪物の爪が自分に近づいてくるのを見つめる以外に出来ることなど何もなかった。
「ああ! なぜだ! 僕はまた死ぬというのか! 生き返ったばかりなのに!」 ロッキーは心の中で思った
その鋭い爪が彼の顔からほんのわずかのところまで近づくと、ロッキーの頭の中は真っ白になった。 しかし怪物は彼をかすめて通り過ぎ、彼は顔に強い風を受けた。 すると、床に横になっていた彼は落ち着こうと息をはずませた。
「くそっ! 僕をもてあそんでいるだけなのか ? このくそったれ! バカヤロー...」 ロッキーは自分を取り戻すと大声で罵った。 それから彼は立ち上がり、後ろの高台に降り立った空飛ぶ怪物を見ると、 軽快に飛び降りた乗り手を見た。
ロッキーは、このような屈辱をやり過ごすような臆病者ではなかったので、 怒りながら高台まで歩いていった。しかし乗り手の端正な顔立ちを見て、彼は凍りついた。 それはあまりにも美しい顔立ちだった。 しかし、服装から見て男の子のようだった。 年の頃は17くらい、かなり背が高く、高貴な雰囲気を醸し出していた。 こんなに美しくて魅力的な顔立ちなのに、女の子ではなく男の子だったことをロッキーは残念に思った。
「ああ! バジル王子じゃないですか! 高熱で亡くなりそうだと聞きましたけど。 亡くならなかったのは王室にとっては何と残念なことでしょう。 あなたのようなくそ野郎がまだ生きているなんて」 その美少年はその中性的な声を響かせると、嫌悪感をにじませながらロッキーを見た。
「おい! このおかま野郎! 言葉に気を付けろ!」 ロッキーは怒鳴り、にらみつけたが、 彼の痩せこけて弱弱しい姿では迫力に欠け、全く脅かすことはできなかった。
「おかま野郎? どういう意味ですか?」 美少年は質問すると、軽蔑した目でロッキーをにらみ付けた。
「鏡を見れば答えがわかるさ」とロッキーは胸の前で腕を組んで軽快に答えた。
「あんたって人は! よくもそんなことが言えますね!」 ロッキーに悪口を言われていることがわかると、彼の眼は怒りを帯びた。
「はあ? 何か問題でも? 少しは敬意を示せ、このくそったれ! 面倒を起こすんじゃないよ」 ロッキーは微笑んだ。
「何を言ってるんですか? あなたの病気はそれほど深刻なのですか? 自分が何を言っているかわかってるんですか? ばかばかしいですよ! もはや病気で死ぬべきですね! 王室の犬も同然なんですから。 なぜ神々はあなたのような何の役にも立たない男を生き残らせたのだろう?」 美少年はロッキーをさげすむような目で見ながら言った。
「ははは! そう言えば、僕は王子だ! 僕を犬にたとえたのは王室の人間と王室全体を屈辱するということなのね、 なんていい度胸をしてるな!」 ロッキーは嘲笑した。
「あ、 あなたは…」 美少年は怒りのあまり目を細めると、 ロッキーをにらみつけその体を震わせた。
突然、彼の右腕から明るい光線が出てきたかと思うと、 彼の服の袖はどういうわけかバラバラに引き裂かれ、不思議で強力なパワーで焼かれ灰になった。 そして少女のような白くて細い腕が見えると、 キラキラ輝く線が彼の腕の周りに次々と現れ、繊細で独特の形になった。
そんな異様な光景を目にしたロッキーは茫然とし、 今見たものを信じることさえできなかった。 「これは魔法か?」 しかしロッキーはすぐに自分が間違っていたことに気づいた。 少年が右腕を振ると、ロッキーは不思議な力で持ち上げられ、 空中で一瞬止まると、放り出された。 彼は固い石の壁にぶつかる直前に悲鳴を上げたが、 地面に倒れ、痛みに悶えた。
しばらくして、ロッキーは壁に寄りかかりながら、ようやく立ち上がると、 怒りを込めて少年に怒鳴った。「おかま野郎!」 僕をこんな目に合わせるなんて、 お前は正気か?」
「それがどうしたというのです? あなたは役立たずのくそ野郎だ。 もし気に入らないなら、僕が使ったようなスピリチュアルメソッドで、復讐してもいいんですよ! そうそう。あなにはその能力がなかったことをすっかり忘れてしまいましたよ。 だからあなたは役に立たずなんですよ! ハハ!」 少年は怒鳴り返すと、唇の周りに笑みが広がったが、 まだ満足していないようだった。 彼は右腕を上げて回転させると、 ほんの数秒で、彼の腕の周りに渦巻きが発生した。 そしてその渦巻きが高速でロッキーに向かってきた。 ドリルのように速く回転する渦巻きを見ると、ロッキーは恐怖でつばを飲み込んだ。 彼は本当に僕を殺そうとしていたのだ!