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第14章計り知れない王子とウォービースト
文字数:3791    |    更新日時:10/04/2021

もちろん、そのように振舞ったのはロッキーだけではなく、 他の29人の若者も、ある種の珍しい宝物を見たような面持ちだった。 そんなゴージャスな女性の姿に彼らが浮足立ったと同時に、彼らの顔にも恐怖の色が見え隠れしていた。 明らかに彼らは彼女が何者かを知っていたからだ。 気絶するほどの美しさだが、とてもパワフルで、生真面目にも見えたので、 怒らせたらとんでもないことになる、と恐れていた彼らは、長時間彼女を見つめるようなことはしなかった。

ただ唯一の例外だったロッキーは、 彼女にとても興味をもったので、その2つの目で彼女の姿を気まぐれにスキャンしていた。

その女性もすでにロッキーに気づいていて、 長く細い眉をひそめ、睨みつけた。 「なぜ今遅れたの? 私の命令が聞こえなかったの?」 彼女は近寄り難いほどの大声で叫ぶと、 他の若者たちはひるんだ。

「僕が遅刻した?」 ロッキーは断固とした態度で返答し、堂々とその女性の目を真っ直ぐ見た。 彼女が何者か知らなかったので、まったく恐れていなかったからだ。

だが、その女性が近づくにつれて、彼女から放出されるパワーで全方向から包囲されるような感覚を覚えた。

「あなたのチームメイトを見て」と女性はロッキーの後ろにいる他の若者たち指差しながら言った。

ようやくロッキーは自分だけが遅れていることに気づいた。 彼の後ろには、よく訓練された兵士のように、他の29人の若者と彼らのウォービーストたちが整然と並んで立っていたのを見たからだ。

「ミア教官、彼に怒っても無意味だよ。 他のよく訓練された若者とは異なり、彼は贅沢な生活におぼれていた王子だったので、 訓練など受けたことはなく、目標を持ち一生懸命働く必要などなかったのだ。 今は平民に降格されているが、まだ自分は王子だと思っているのか、 まだ怠け者でノロマで、常に規則と権威を無視しているのだよ。 だからこれからは、もっと厳しい訓練を受けてほしいと思っているんだよ」司祭長は馬車から降りるとそう言った。

「伝書鳩からメッセージを受け取りましたが、 それによると、彼が聖ドラゴンビーズと結合した王子バジルですか?」 ミアは驚いた表情でロッキーの方を向いたが、 すぐにその表情は落ち着きを取り戻した。

「その通り、 彼だ」 司祭長はうなずいた。

「では、なぜ彼のスピリチュアルパワーは、それほどまでに弱いのですか? 」

「それは言うまでもない。 常に世の中には幸運な役立たず者がいるものだよ」 司祭長は冷笑しながらロッキーを見て、 それがロッキーを意味することを示した。

「これはあなたのウォービースト?」 ミアはロッキーの腕の中の小さなビーストをちらっと見て、少し眉をひそめた。

「はい、何か問題でも?」 ロッキーは小さなビーストを上げて、彼女の前で優しく振った。

「なぜそんなに何の役にも立たないウォービーストを選んだの? 1ツ星のウォービーストになる可能性すら無いのに」とミアはダイレクトに尋ねた。

「どうして何の役にも立たないなんて断言できるんですか? 僕のビーストは普通に見えるけど、その本当の力は誰にもわからないはず! あなたは他のやつらとは違うタイプと思ってましたが、 どうやら間違っていたようです」とロッキーは失望した声で言った。 彼女への良いイメージは消えかけていた。

「あなたは…」ミアは突然、何だか耐えられない気持ちになったが、 ロッキーに失礼な態度で非難され、彼女は傷つき、なぜか恥ずかしさを感じた。

その瞬間、ロッキーのビーストは二度うなり声をあげると、彼の腕の中で頭を回転させ、無邪気な両目で彼女を見た。

するとミアはすぐにこの小さな生物には何か特別なものがあることに気づき、 ロッキーが正しかったことを認めざるを得なくなった。 このビーストのパワーは決して過小評価してはいけなかったのだ。 すぐに彼女の目は明るさを取り戻し、正常な状態に戻った。

「僕なんかどう?」 ロッキーは彼女を見ながら尋ねた。

「まず列に並びなさい」とミアは厳しく答え、 目を細め、ロッキーをチームメイトの中に加わらせると、 司祭長のところへ歩いて行った。

司祭長の悪意のある言葉にかなり苛立っていたロッキーは彼を冷たく睨みつけ、頭の中で司祭長の先祖全員を呪った。 その後、彼は29人の若者の列に加わった。

一方、ミアと司祭長は脇に寄って、時々ロッキーをちらりと見ながら何やらささやいていた。

彼女が自分に興味を持っていることに気づいたロッキーはかなりご機嫌になり、 想像が暴走し始めた。 「たぶん、彼女は僕にほのかな恋心を抱いてるのかも? ハハ、僕の魅力はやっぱり別格だな。 彼女と一緒に寝ることになったら、王様しかできないようなことができるかも。 あの豊満な体に触れられたらいいのになぁ… 」

ロッキーがワイルドで少年らしい幻想の中で迷子になっている間に、司祭長は馬車で去っていった。 ミアが列の前に戻ると、いやらしく微笑みながらそこに立っていたロッキーを見て、 彼女の目は冷たく鋭くなり、長い鞭は洞窟から飛び出す蛇のように放たれ、 ロッキーの右足に直接絡みついた。

そのときロッキーはまだ物思いにふけっていたので、 反応する暇がなかった。 突然、彼の右足は激しく引っ張られ、 彼は何もできず、地面に倒れた。

この光景を見た周りの若者たちは爆笑した。

「クソっ..」 ロッキーは地面から起き上がると毒づきながら顔をしかめ、 やられた相手に対し、ありとあらゆる罵声を浴びせようとした。しかし強い殺意を持った冷たい視線を感じると、 自分の体に冷たい悪寒が走るのを感じずにはいられなかった。 そして、その冷たい視線の主がミアだと知り、沈黙すると、 突然彼女の声がこだました。

「私の名前はミア・ラン。 今日から私はあなたたちの教官であり、あなたたちが真のロイヤルスピリットマニピュレーターになるための指導と訓練をするのが私の任務。 ドラゴンスピリットビーズと結合してドラゴンスピリチュアルパワーを手に入れたから、自動的にロイヤルスピリットマニピュレーターになっている、なんて思っているなら、それは大間違いよ。 あなたたちは自分のことをとても素晴らしいと思っているでしょう。ある意味当然かもしれないけど、私にとってあなたたちはただの新人に過ぎないの。通常のスピリットマニピュレーターと同じくらい弱っちょろい存在よ。 あなたたちが真のロイヤルスピリットマニピュレーターになりたければ、全員厳しいトライアルに合格しなければならない。 そして、そのトライアルの前に、あなたたちは最も厳しい訓練を受けるんだけど、 その過程で今まで経験したことのないような痛みや苦しみを感じることになるわ。 あなたたちが公爵や貴族、あるいは王室の一員だったとしても、私は特別扱いはしない。 功績があれば報われ、ミスをすると罰せられる。 私は訓練の間、あなたたちの誰にも決して慈悲は施さないから、そのつもりで。 わかった?」

「はい、ミア教官」29人の若者は声をそろえた。 ロッキーは何も言わなかった。 まだ機嫌が直っていなかったので、ただミアを見つめていた。

「よろしい! では、あなたたちが寝泊まりするドラゴンフィールドの端にある建物にそれぞれのウォービーストを連れて行きなさい。 部屋は2人で共有すること。 部屋の外に吊るされたボードにそれぞれの名前が書かれてるわ。 そしてウォービーストを落ち着かせたら、訓練服に着替えてここに戻ってきなさい。 15分でこれらをやること。 15分以内にここに戻らなかった者は、ドラゴンフィールドを10周走ってもらうから。 では開始!」 ミアは声を上げた。

あっという間に、29人の若者がそれぞれのウォービーストと一緒に宿泊施設に狂ったように走っていった。 宿泊施設とトレーニング場所の間を行き来するのに少なくとも15分はかかると見積もっていたので、急がなければ、 ビーストを落ち着かせたり、着替えたりする時間などほとんどなかった。

「こいつらは馬鹿の集団か! どんなに速く走っても、15分では足りない。 この女は明らかに権威を示すために、トレーニングの初日に僕たちに真っ向から厳しい仕打ちを与えるつもりなんだ」とロッキーは宿泊施設に必死で走っていった若者たちを笑いながら思った。

「なぜ走らないの?」 ミアはロッキーがまだ動いていなかったことに気づくと、彼を睨みつけた。

「僕は歩いていきます。 どうやっても、罰を受けることは避けられないから」とロッキーは言った。 彼はミアを苛立たせるつもりだったので、ウォービーストを持って、宿泊施設までわざとゆっくり歩いて行った。

「うるさいガキね!」 ミアは静かにつぶやいたが、 ロッキーの背中を見て、突然微笑んだ。 新人がこれほど自分を楽しませたのは珍しいことだった。

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