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愛しているから

チャプター 4 誠との再会

文字数:1791    |    更新日時: 14/11/2021

帰ってきてから一週間がたった。

私は少しずつ、もとの私になれてきている気がする。 言葉は、ゆっくりゆっくり紡ぐように話している。 家族の間ならば、それで意思の疎通ができた。

今日は、お母さんと買い物にきた。 5階建てのデパートは、学校帰りによく寄っていた場所だ。 階段の踊り場には各階にベンチが置いてあり、仲の良い友達やカップルでいつも埋まっていた。 踊り場は、壁が大きなガラス張りの窓になっていて明るい。 今はまだ学校が終わる時間じゃないから、誰もいない。

_____あの頃は、誠君と優子と私の3人でよくここにきたなぁ

屋上と5階の間の踊り場に、行ってみる。

「うわぁ…」

何年ぶりかで見たここからの景色は、こんなに綺麗だったんだと改めて思った。

「ここからの景色って、こんなにふうに見えるのね。お母さん、ゆっくりここに来たことなかったわ」

「うん…きれ…い」

窓辺に差し込む光は、あの頃と何も変わらないのに、誠君も優子もいない。 “2人だけより、浩美もいた方が楽しいから” そんな理由でいつも私を誘ってくれていたあの頃。

一度だけ部活で遅くなった時、下から見上げたら夕闇に2人の影が見えた。 声を掛けようとしたら、顔を寄せてキスをしているシルエットが見えて、思わず柱に隠れたっけ。 私は5メートルほど離れて軽く駆け足して、今来ましたとアピールした、なんだか見てしまったことが恥ずかしかったから。

_____私ってば、なにしてたんだろ?

思い出したら、ふふっと笑いが出た。 お母さんは先に売り場に行ってるからねと、行ってしまった。 1人残って、懐かしい思い出を引っ張り出す。

「ヒロ?」

そうそう、誠君は私をヒロと呼んでたっけ。

「ヒ・ロ!」

「えっ!」

「やっぱり、ヒロだ!」

懐かしい声に振り返ったら、誠君がいた。

「う、そ…」

「嘘じゃないよ、俺だよ。久しぶりだなぁ、元気にしてたか?」

誠君はゆっくり近づいてくると、私の頭をよしよしと撫でた。 あの頃と変わらない、私をどこか子ども扱いする誠君の仕草。

「ん?どうした?信じられないか?本物の誠だぞ」

信じられないことが起きると、固まってしまうのは昔からだ。

「あ、あの…えっと…ゆう…こ、優子…は?」

「いないよ、俺1人」

「?」

「そっか、いつも3人だったもんなあ、俺とヒロの2人って初めてかもな」

「なん…で?」

「優子とはね、進む道が違うとわかって、それぞれで生きていくことにした。平たく言えば、別れた。でも、お互いに嫌いになったわけじゃないから」

「…みち?」

「そう。俺は、やっぱり絵を描くことを諦めきれない。憧れてる画家がいてね、その人に弟子入りしようと思うんだ。ブラジルだから、その前に旅費を貯めないとね」

_____キラキラしてる

誠君は、絵の話をする時、とってもキラキラしている。 高校生の時からそうだった。 キャンバスに向かう誠君は、真剣な眼差しで横からずっと見ていても飽きなかった。

いつのまにか、その眼差しの先には優子がいて、羨ましくなって、後出しジャンケンみたいに横入りしたくなったことがあった。 でもやっぱり、誠君の眼差しの先には優子しかいなくて、そして優子は私にも優しくて。

だから、私は横入りを諦めて2人の友達でそこにいた。 それは少し切なくて、けれど3人でいると楽しかったからそれでよかった。

懐かしさと切なさが蘇って、きゅんと胸が熱くなった。

「優…子…は?」

「アイツは、あっちで頑張ってるよ。別れといて言うのもなんだけどさ、アイツ、いい女になったよ、すごく」

_____本当に、嫌って別れたわけじゃないんだ

そう思ったらホッとした。

「ヒロは?どうしてたの?」

「あ、え、と…」

話したいのに、やっぱり言葉がつながらない。 どうしよう?もどかしい。

「あら?誠君?そうでしょ?」

「あ、おかあ…さん」

買い物を終えたらしいお母さんが、やってきた。

「久しぶりです、お元気そうですね」

「えぇ、おかげさまでね。浩美、お話できた?」

「……」

私は返事の代わりに黙って俯いた。

「お母さんが少し、お話しとこうか?誠君に」

私は、うんうんとうなづいた。

「じゃあ、そうね、ちょっとだけあちらへ」

お母さんは、私がいる前では話しにくかったようで、誠君と屋上へ行った。 私は、不意に現れた誠君に話したいことがたくさんあったのだけど、そのままベンチで2人を待った。 下を見ると、懐かしい制服姿の高校生が歩いている。

_____あの頃にもどりたいなぁ

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1 チャプター 1 懐かしい思い出と、悲しい予感2 チャプター 2 帰郷3 チャプター 3 回想…浩美4 チャプター 4 誠との再会5 チャプター 5 オレンジクレープとクラス会6 チャプター 6 公園とブラジル行き7 チャプター 7 絵を描く8 チャプター 8 希望9 チャプター 9 それから10 チャプター 10 クリスマス前11 チャプター 11 ノートのメッセージと告白12 チャプター 12 3年後に向けての約束13 チャプター 13 誠が残したメッセージ14 チャプター 14 手紙と夢と15 チャプター 15 サプライズ?16 チャプター 16 約束の日17 チャプター 17 探す18 チャプター 18 噂と確認19 チャプター 19 再会とブラジルでの話20 チャプター 20 エレナと赤ちゃん21 チャプター 21 想像22 チャプター 22 取り戻したいもの23 チャプター 23 クラス会24 チャプター 24 お父さんの気持ち25 チャプター 25 2人の決意26 チャプター 26 結婚27 チャプター 27 幸せな結婚生活28 チャプター 28 それは、ある日突然に29 チャプター 29 目覚め30 チャプター 30 後遺症31 チャプター 31 新しい生活32 チャプター 32 もう少しだけ33 チャプター 33 公園の風景34 チャプター 34 行方不明そして続く不運35 チャプター 35 喪失36 チャプター 36 思い出37 チャプター 37 名前を呼んで…38 チャプター 38 一緒に39 チャプター 39 現在…優子