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太平洋の只中に、ぽつりと浮かぶ私有島。
その地下深くに穿たれたオークション会場は、外界の闇とは裏腹に、眩いほどの光で満たされていた。
ここが他の会場と一線を画すのは、出品されるのがありとあらゆる珍獣、あるいは奇っ怪な生物のみという一点に尽きる。
ここでは金さえ積めば、いかなるものも――たとえそれが命であろうと――手に入ると、まことしやかに囁かれている。
会場の熱気が頂点に達しようとした、その時だった。
「本日最後にご紹介いたしますお品は、今宵の目玉――『血液奴隷』でございます。 最低入札価格は一億ドルからとさせていただきます!」
競売人の言葉に、それまでの熱狂が水を差されたように、会場は戸惑いの声で満ちた。
「『血液奴隷』? ただの人間ではないか。 一体何の価値があるというのだ!」
「とんだ期待外れだ。 大袈裟に煽りおって!」
疑念の声が渦巻く中、黒絹のベールに覆われた巨大な檻が、天井から静かに降下を始める。 やがて展示台に音もなく着地すると、競売人は芝居がかった仕草で、そのベールを一息に引き剥がした。
檻の中、一人の少女が力なく身を横たえていた。
不意に浴びせられた強烈な光に、少女は僅かに瞼を震わせる。 身を包むのは薄い白紗一枚きり。 しなやかな肢体の曲線があらわになり、濡れたような漆黒の長髪が床に広がる様は、雪のように白い肌との対比で、どこか神聖なまでの輝きを放っていた。
美! まさに絶美!
これほどの逸物が、なぜ「血液奴隷」などという名で……。
だが、それはあまりにも無防備に差し出された玩具のようでもあった。
息を呑む者、欲望の火を瞳に宿す者、そしてなおも懐疑の声を潜める者。 会場の空気は、期待と失望、そして新たな好奇心がない交ぜになって揺れていた。 競売人はひとつ咳払いをすると、再びマイクに口を寄せた。 「皆様、ご静粛に。
わたくしがこの天国島の名誉にかけて保証いたします。 彼女は、世界で唯一開発に成功した、いわば“歩く霊薬”。 その血液はあらゆる毒を無効化し、その肉体は瞬時に傷を癒し――そして、持ち主に長寿をもたらすのでございます!」
百毒を解し、長寿をもたらす。にわには信じがたい言葉が、しかし万雷の拍手のように人々の欲望を打ち鳴らした。
それが真実ならば、これ以上の至宝は存在しない。
静まり返っていた会場は、一転して興奮のるつぼと化した。
「それほど奇跡的な効能があると言うなら、口先だけでは信じられん。 我々の目の前で実演してもらおうではないか!」誰かが叫ぶと、それは会場全体の総意となった。
競売人は待ってましたとばかりに優雅に微笑むと、パチン、と指を鳴らした。
その瞬間、東側の貴賓席で鈍い音が響き、どっと悲鳴が上がる。 日本のIT界を牽引する若き寵児、高橋光希が椅子から崩れ落ち、床に蹲っていた。 その顔は見る間に土気色を通り越して黒ずみ、口の端からは血の泡が溢れている。
駆け寄った専属医が必死に救急箱を漁るが、症状はあらゆる知見を超えており、ただ為す術もなく首を振るばかりだった。
競売人の目に射るような光が宿る。 彼の合図で、スタッフが檻に備え付けられた採血装置を起動させた。 無機質なアームが伸び、透明なチューブの先端が、檻の中の少女の白い首筋へと狙いを定める。
冷たい針先が肌を貫く。 その瞬間、少女の長い睫毛が苦痛に微かに震えたが、それきりだった。 抵抗する素振りも見せないその様は、この痛みが彼女にとって、とうに日常の一部であることを物語っていた。
三十ミリリットルの鮮血が抜き取られ、特殊な器具を介して光希の体内に注がれると、会場は息を呑んだ。 奇跡は、衆人環視の中で静かに始まったのだ。 死の硬直に囚われていた身体から強張りが解け、失われたはずの血の気がみるみるうちに顔に戻ってくる。 虚ろだった瞳に光が宿り、やがて焦点が結ばれた。
ごほっ、と激しく咳き込むと、高橋は黒い血痰を吐き出し、まるで溺れていた者が空気を求めるように、深く、大きく息を吸い込んだ。
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