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甘やかされた女

第4章首元のキスマーク 

文字数:3938    |    更新日時: 09/02/2021

「もう何も言わないでちょうだい」 ローズは周囲に見えない角度でにニヤニヤしながら首を横に振った。 「エミリー、あなたは誤解しているわ。私はあなたを慰めようとしていたのよ」

ローズは誠実さを装ったが、心の中は優越感で満ちていた。

エミリーとローズは大学時代からの友人だった。その時からエミリーは何においてもローズより優れているようだった。成績しかり、ボーイフレンドの知的センスも家柄も、ローズよりエミリーの方が何においても優れていた。 なぜだろうか?

しかし、決してローズは自身がエミリーより劣っているとは思っていなかった。 ローズは彼女のボーイフレンドを寝取ることも厭わず、あらゆる手段を講じてエミリーを超えようとした。 そしてローズは今、とうとう最後の最後でその目標を達成することができたのだ。それはつまり、エミリーがジャックに振られローズを選んだということに。 ローズの優越感はチャートからはみ出していた。

「それはそうでしょうね。ジャックの愛人になった気分と言ったら最高の気分でしょうね」エミリーは手をギュッとを握りしめ、前面に誠実さを押し出すローズの顔を冷たい視線を送りながらそう言った。

「ちがうわよ、これは私が望んだことじゃないのよ。 ジャックが望んだことなのよ。 「自分がジャックを繋ぎ止められなかったクセに、どうして私を責めることができるの?」ローズは突然エミリーに近づき、耳元でそっと囁いた。 「ジャックはあなたに指一本触れてないわよね?ううん。むしろ、ジャックは私や他の女性とのセックスを好んだわ。 どれだけ私たちがジャックとベッドで楽しいことをしているか、 あなたになんて想像すらつかないだろうね…」

よりによってローズは、ジャックが首、鎖骨、肩に残した愛の跡を見せびらかするために、オフショルダーのワンピースを着ていた。

そしてそんな見え透いた態度をとるローズにエミリーは呆れを通り越して嫌悪感をいだいていた。 「ごめんなさい、ローズ。私、間違っていたわ。あなたは愛人ではなかったわね。あなたはジャックの肉便器だったわね」

事に関して、ジャックのひどい女たらしは周知の事実だったので、エミリーはもうローズに悩まされることはなかった。 反対に、ローズがジャックと肉体関係をもったことに動じなくなった自分にエミリーは驚いていた。 彼女の感覚では、複数の女性と肉体関係を持った男性は、使いまわされた歯ブラシ…という感覚だった。 つまりジャックもそのような男、エミリー流に言えば「使い回しの歯ブラシ」だった。

ローズはどうして使いまわされた歯ブラシを喜んで使って歯を磨くことができるのか。エミリーにはこれっぽっちも理解できなかった。

「肉便器」というエミリーらしからぬフレーズにローズは当惑したが、ローズは周りの人々の前では余裕のある大人の女性を演じなければならなかったので、怒りを抑えるのに必死だった。 「エミリー。あなた、ずいぶんとらしくない『きれいな言葉使い』をするのね」ローズは大人の女性の余裕でそう言った。

「らしくないですって?ローズ、あなた自身が私の言葉に間違いがないって自覚してるんじゃないの? 結局、男性がいないと生きていけない女性より、男性に指一本触れられずとも生きている私の方が優れているかもしれないわね」 エミリーも大人の女性の余裕で返した。 「ローズ。いらなくなったガラクタを引き取ってくれてありがとう」

屈託ない笑顔でローズに言い放ったエミリーに恐れをなした野次馬らは、口々に「あ、急ぎの仕事が…」「クライアントに電話するんだった」など言い訳をしながら、蜘蛛の子を散らすように自分の仕事場へと散っていった。

「あぁ!そうだった。 ファ氏から急いでこれらファイルを彼のオフィスへ持ってくるよう頼まれていたんだった。 ごめんなさい。これ以上、あなたとはおしゃべりしてる暇、なかったわ」 エミリーは自席に戻ってパパっと机の上をファイルをまとめると、さっさとローズから去ろうとした。 悔しそうに取り乱しているのローズを背に、エミリーの気は少し晴れた。

しかしローズも転んでもただは起きない。エミリーにとても怒りを抱いたローズは、すぐにエミリーにひと泡吹かせようと考えた。 ローズはエミリーの手をつかもうと手を伸ばしたが、サッっと動いたエミリーの手を逃した。そのかわり、ローズはエミリーが抱えていたファイルをつかむとそれを引き抜いた。

ローズに引き抜かれたファイルの中の書類がハラリハラリとあたり一面に舞った。

「ばかじゃないの!!」 エミリーはローズに文句を言うかわりに、急いでフロアに舞い落ちた書類を拾ってまわった。

ローズのエミリーへの復讐は終わっていなかった。がしかし、床にかがんで書類を拾うエミリーを見下ろした瞬間、彼女の何かに気がついた。

あれらは何か? キスマーク! エミリーの首にキスマークがあった!

ローズは自分の目を信じることができなかった。エミリーはハイネックの服で隠したが、 俯いた時にその首にある赤い跡がはっきり見えた。

ジャックと昨夜とその前の日の夜も一緒にいたのはローズ。ローズはすぐにエミリーにキスマークをつけた男性はジャックではないと気がついた。 では誰なのか?

ローズはエミリーに気づかれないようにの彼女の首もとの写真を撮り、ジャックに送信した。 その写真にジャックがどう反応かを楽しみにワクワクして待った。

エミリーが他の男性とセックスをしたことをジャックが知ったら、エミリーに対して怒り狂うだろうことをローズは予期していた。この写真の送信は、ジャックとエミリーの別れを100%にするに余りあるものだった。

エミリーはローズが何を企んでいるのかなど、 まったく気づいていなかった。エミリーは自分のことより仕事。ファ氏に届ける書類を急いで拾い 、整理し直し、ファ氏に届けて自分の席に戻った。

エミリーは自席に戻って仕事に集中しようと思ったが、悶々と思いを巡らせていた。すべてが噓だったとしたらどんな風になっていたのだろうかと。 ジャックがエミリーを裏切らなければ、どんな素晴らしいことが待っていたのか。 ローズがジャックを誘惑していなかったならば…そしてエミリーがヤコブと夜を過ごさなかったならば… ヤコブと…

しかし、エミリーは思いと現実がかけ離れていることはわかっていた。 自分はジャックと恋に落ち、ローズと友人となった。そもそもそこから間違っていたのだ。 それを証明するかのように、ヤコブとの関係がおまけについてきた。

エミリーが仕事を終えてオフィスを出ようとしたとき、ジャックの車が会社の前に停まっているのが見えた。 ジャックを無視して通り過ぎようとしたが、ジャックの方が車を降りて彼女のもとへまっすぐ向かってきた。

エミリーは、ローズがジャックにキスマークをつけたエミリーの写真を送信し、それを見てジャックが腹を立てているなど、どうして気づくことができようか。

ジャックの思惑はこうだった。警察署でのエミリーは手が付けられないほど怒りに満ちていた。冷静な判断ができないほどに。ならば数日間クールダウンのための時間を与えよう。そうすれば賢いエミリーが絶対に自分の腕の中にもどってくると。 しかし、現実はどうだろう。驚きと失望とともに、ジャックの思惑とはかけ離れた結果となってしまった。自分の腕に戻ってくるどころか、警察署でのあの日あの夜に、エミリーはジャックとは別の男性と夜をともにしていたのだから。

「とまれ! エミリー・バイ!」 そう言ってエミリーの腕を掴んだジャックの顔は怒っていた。

「離して!!」 エミリーは彼の顔を見ずに、何とか腕を振りほどいた。 警察署での出来事だけで、エミリーがジャックに抱いていた愛情は泡のように消えてなくなっていた。 「あなた、頭までおかしくなったの?」 とエミリーは早口でジャックに問うた。

エミリーはいつも最後に退社するようにしていたので、周囲に助けてくれる同僚はいない。

「君はもの覚えが早いね、エミリー。 わざわざ他の男と寝るとはな! 昨日と一昨日、どこにいたのか言え!!」

「なぜ私はあなたにプライベートを話すのかしら?私たちは一昨日の夜に恋人関係を解消したよね?」エミリーは事実を隠そうとした。 ジャックはエミリーの言葉に驚いた。

「俺は君と別れるとは言っていない!認めてもいない!」

「私にしてみれば、あなたがローズと寝た瞬間に私との関係は終わっているんです!」

「そんなこと絶対に認めないぞ!」 ジャックがエミリーの洋服の首元をひっぱると、予想通り、ジャックはエミリー の白い肌にうっすらと愛の跡とおぼしきものを見ることとなった。 ジャックの心の中では、うっすらとしたその跡でさえ、エミリーが他の男性とセックスしたという十分すぎる証拠だった。 「エミリー・バイ!」ジャックは怒りにまかせてエミリーに叫ぶ。 「相手は誰だ!」

「それはあなたとは関係ないことでしょう!」 エミリーはあえてあの男の名前を口に出さなかった。彼女は心に苦味を感じながら下唇を噛んだ。 彼女はジャックとよりを戻そうなどまったく考えていなかったが、真実を伝える気もなかった。

ジャックはジャックでエミリーが自分に何か隠していることに気づいた。彼の鼓動は、まるで重いハンマーで打たれているように、ドックンドックンを脈を打ち、呼吸さえ苦しく感じるほどだった。 つまり、それだけジャックは、何年も愛していた女性、エミリーが自分を裏切るなど信じられなかったのだ。

ジャックは正気ではない目つきでエミリーを睨みつけ、骨が砕け散るような力で彼女の手を握っていた。

「言うんだ!」

「離して!」 今朝、ジャックとローズの会社の前での行いを考えただけでも、エミリーは吐き気がした。それほどうんざりしていたエミリーは「あなたは彼の名を知るに値しないわ!」とだけ答えた。

「俺は君と相手の男に復讐を考えているんだぞ、エミリー!」

「私の唯一の後悔はあなたのようなバカと付き合っていたことよ!どうして?ねぇどうしてなのジャック。あなたが他の女性と自由にセックスしようと私は平気なのに、 どうしてあなたは復讐だなんて考えるの?」 エミリーはジャックに諭すように語りかけた。 そしてとどめにこう言った。「私はあなたから自由恋愛を教えてもらったのよ!」

「君は男と女が同じだと言うのか?」

「えぇ、男女平等、私にとって男性も女性も関係ないわ!ただ、後悔しているとすれば、 あなたと別れる前にあなたの教えを実践しなかったということだわ!!」 エミリーにとって、ジャックが最初の男性ではないことだけが救いだった。そうでなければ、エミリーは一生、自分に可哀想な女性というレッテルを貼っただろう。

「オマエはとんだあばずれだったな、エミリー!」 ジャックは怒りで血液が沸騰しそうだった。 そして彼の目は怒りで激しく燃え、その炎が目から身体中に広がり、目の前にいるエミリーにも飛び火して燃やし尽くそうな勢いだった。

エミリーは恐怖を感じてジャックのもとから逃げようとしたが、ジャックは彼女を捕まえると自分の車に引きずりこんだ。

「離して!」 突然、エミリーは圧迫感を感じた。 身体全部で押し潰すかのように、ジャックがエミリーの上に乗っていた。

「この尻軽女めが! 他の男に犯されたことはあるだろう? ちくしょうめ!!」

ジャックは完全に理性を失い、本能で生きる野生の獣のようにエミリーの服を引き裂いた!

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1 第1章針小棒大に考えるな!? 2 第2章怖いもの知らず3 第3章言われて当然4 第4章首元のキスマーク5 第5章闇が襲う6 第6章先に私を誘惑したのは君だよ7 第7章なんて馬鹿げた考え8 第8章よくも彼女に触れたな9 第9章セックスフレンドをかくまっているんだろう10 第10章なぜまだここにいるの? 11 第11章まだ君には学ぶべきことがあるようだ12 第12章ゴミ以外の何ものでもない13 第13章エミリー、出ていけ!14 第14章愚かなる人15 第15章おめでとう16 第16章あなたはクビです17 第17章片手だけでは拍手はできない18 第18章彼は彼女を許すつもりはない19 第19章決して裏切らない20 第20章あなたと遊んでいる暇はないの21 第21章約束を反故にするおつもりですか? 22 第22章虎の威を借る狐23 第23章さっきのキス10万元だ24 第24章あなたが倒産するまでキスするわ!25 第25章恥ずかしくないの? 26 第26章真実が明らかに27 第27章謝罪28 第28章私は食べ物には好き嫌いがない29 第29章どうして言うことを聞かないんだ? 30 第30章おとなしくして食事をきちんととって31 第31章私にキスして32 第32章白昼夢33 第33章初心だけどすごくかわいい34 第34章本気で言っているの? 35 第35章唐辛子スプレー36 第36章どんな違いがあるの? 37 第37章善は急げ38 第38章禁断の恋愛みたいじゃない? 39 第39章お願い、行かないで40 第40章私とキスしたい? 41 第41章あなた次第42 第42章俺じゃない43 第43章キスをして44 第44章私は必要ないって? 45 第45章俺に連絡を取るのはやめてくれ46 第46章彼らに騙された47 第47章企みとは何だったのか48 第48章彼女の情け深い心49 第49章自然災害50 第50章彼はいったい何者か51 第51章もし私たちが死ぬのなら、一緒に死ぬんだ52 第52章嘘ばかり53 第53章俺を遠ざけようとしているのか? 54 第54章痛みで死んだらどうなの? 55 第55章約束するわ56 第56章エミリーはどうなった? 57 第57章助けてくれた人間を簡単に見捨てる能力58 第58章俺も寝たきりだった59 第59章抱きしめさせて60 第60章おいしかった? 61 第61章美しいもののために死ぬのが本望なんだ62 第62章エミリーさんも宴に参加するようです63 第63章同じドレス64 第64章私の無礼を責めないでちょうだいね65 第65章君は下品なままだね66 第66章脚を折るからね67 第67章お互いだましあって68 第68章結婚? 69 第69章ひざまずいて謝罪70 第70章それか今すぐ出て行け71 第71章あなたに失望した72 第72章病気になったヤコブ73 第73章誰が私に触れて良いと言った? 74 第74章おめでとう、あなたの勝ちよ75 第75章ジャック、私たちは終わりよ76 第76章このお兄ちゃんと遊ぶといいよ77 第77章あとくされなくわかれる78 第78章愛人は誰? 79 第79章慰謝料として1000万円払うか80 第80章会いたくない人に限ってよく顔を合わす81 第81章妊娠しているの? 82 第82章君は中絶するべきだ83 第83章その子の父親は私でなければいけない84 第84章思い切って私をふってみる? 85 第85章君はわざとだよな? 86 第86章とっても可愛らしい87 第87章彼女のことはエミリー様と呼びなさい88 第88章馬鹿とは話をしたくない89 第89章私の女の周囲を嗅ぎまわるとはな…90 第90章私を怖がらせようとしているのか? 91 第91章私たちの子供には君みたいに鈍くなってもらいたくないからね92 第92章私の施しだわ、分かる? 93 第93章もうあなたのことは愛していないわ94 第94章赤ちゃんが本当に動いている!95 第95章私がふさわしいというなら、ふさわしいんだ96 第96章画鋲97 第97章ヤコブになんかもったいないんだ98 第98章頭がおかしくなった99 第99章胎児教育100 第100章妊娠していないの?