~愛·裏切り·復讐~元妻の甘い誘惑
作者保泉 勝文
ジャンル都市
~愛·裏切り·復讐~元妻の甘い誘惑
「マリアについては何も知りたくない」ジェームズはジョンにメッセージを送った。 マリアが何をしたかなど、ジェームズは知りたくもなかった。
とても疲れていたマリアは、墓地から帰宅するとそのままベッドに倒れ込んだ。 翌朝、マリアは計画を遂行するべく HMグループに面接へ向かった。
マリアが帰省してからというもの、町の雰囲気は一気に張り詰めていた。
マリアがこの町に来て3日が経つ頃、アリーナからの電話が鳴った。 「マリア、アメリカに行ってた友人が 帰って来たの。だからお祝いパーティーを開こうと思ってね。 あなたも来たい?」
「結構よ。 この町には長居するつもりじゃなかったから、 今夜にも出発しようと思ってるの」マリアの口調は聞く限りとても穏やかだったが、本心はうかがい知れない。
アリーナ、あなたは策略家だと思っていたのに、それほど辛抱強い性格ではなかったな。 もしかして、 私が警察にあなたの罪を密告するのではないかと恐れているのかしら?
心配無用よ、アリーナ。 今はまだそんなことしないわ。 ゲームはまだ始まってもいないんだからだ、とマリアは考えてた。
アリーナの運命は私次第という事を、マリアは彼女に知らしめたかった。
「そんなにすぐ出発するの? まだ来たばっかりなんだから、 そんなに急がなくてもいいじゃない。 せめてパーティーには出席しなさいよ!」 いま去られては、マリアの事を干渉できなくなってしまう。 なんとしてでもまずは、自分の婚約者であるジェームズには手を出す余地などない事を知らしめなくてはいけない、と思いながら言った。
その後で、マリアを追い払う策を考えよう。 いずれにしても今は、ジェームズの元妻であるマリアを放っておくわけにはいかない。 ジェームズはまだ彼女に恋をしているかもしれないのだから。
「そうね。分かったわ。 じゃあ、パーティーでね」
電話を切った後、早速2人は各々の計画を考えだした。
マリアはジェームズもパーティーに来ると確信していた。 もし彼がパーティーに来ないなら、アリーナが彼女を誘う理由などなかった。 アリーナはなにも自分の富を見せつけたいわけではなかった。 ジェームズという婚約者を見せびらかしたいのだった。
マリアの予想は当たった。 ジェームズはやはりパーティーに参加していた。
プライベートルームのドアが開くと、 ジェームズとアリーナが出てきた。
ジェームズは紺色のオーダーメードスーツを着こなし、ノーネクタイでシャツのボタンを3つ開けている。 その姿は、仕事中ほど真面目な格好ではないオフィスカジュアルな服装だ。 しかし、その仕草からは彼の威厳が伝わってくる。
彼の横には、薄茶色のドレスを着たアリーナが立っていた。 つけまつ毛といい、描かれた眉毛といい、甘美な唇といい、 アリーナは気合の入った化粧をして登場した。 ジェームズの隣にいるためか、アリーナは笑顔を絶やさない。
2人が登場した瞬間パーティーの参加者たちは立ち上がって会釈をすると、 再び騒がしくなった。
マリアは隅の方の椅子に静かに腰をかけ、2人が友人らに挨拶をしていくのを眺めていた。
しばらくすると、アリーナは会場を見渡し携帯電話を見ているマリアに目を留め、 「マリア、来てくれたのね!」と叫んだ。
マリアは、スポーティーな赤いシャツを着ていた。そのシャツのボタンを3つ外し、中に来ている黒いキャミソールを見せていた。 ハイウエストの長い黒色のスカートと合わせて着こなす姿は、実に完璧だった。
マリアはアリーナの声を聞くと、すぐに携帯電話をしまって立ち上がり笑顔のアリーナに向かって返事をした。 「どうも、アリーナ! こんにちは、 シーさん!」
アリーナは、マリアの格好を見てジェームズを誘惑しようとしているに違いないと思った。 アリーナは気になって横にいるジェームズをちらっと見た。すると彼は、マリアを見ようとさえしていない様子だったので、 とても安心した。
アリーナはマリアのところへ歩いて行くと 彼女の手を取って優しく言った。「あなたが来てくれてうれしいわ。 先日のパーティーで再会するまで、私たち何年も会えてなかったけど、 今後はもっと頻繁に会いたいわ」
アリーナの演技を真似するように、マリアも答えた。 「いいわね。私もそうしたいわ」
ステラは、マリアにされたことを未だに根に持っており、 マリアに仕返しできるタイミングを見つけるとすぐに侮辱してきた。 「アリーナ、あの女をここに招待するなんて親切すぎよ。 マリアを実際の妹のように思って接しても、あの女は感謝なんかしないわよ! ソン家とも縁を切った人間なんだから、 親切に接して何になるの?」
ステラはマリアを殺人者とまで呼んでやりたかった。しかしジェームズに不快な過去を思い出させ怒らせてしまいたくなかったので、 その最も言いたかった言葉は飲み込んだ。
アリーナは髪を耳に掛けながら、ステラを叱った。 「やめて。 過去の事は水に流しましょう。 いずれにしてもマリアは私のいとこなんだから」
アリーナはまるで聖母マリアのごとく美しく崇高な女神のようにふるまい、ジェームズにいいところを見せようとした。
ステラはどうすることもできずただ首を横に振りながら、 ジェームの方へ向いた。 彼は今のところ一切口を開いていなかった。 「シーさん、 あなたたちは婚約するんですね。 彼女を大切にしてください。 アリーナはとてもいい子ですから」
ジェームズはライターの火を点けたり消したり、火を眺めたりして遊んでいた。 そして彼はステラに話しかけられると、彼女を見上げてこう言った。「俺を指示するのか」
彼の冷たく冷酷なその言葉で、会場内は一気に静まり返った。
それまで楽しそうに過ごしていた参加者たちは、急に息をのんだ。 アリーナとの関係を保つため、ステラはよくアリーナの彼氏をバカにする事があったのだ。
ジェームズの言葉はステラにとって屈辱的だった。 彼女は顔を赤らめ、慌てて弁解しようとした。 「シーさん、 そんなつもりじゃなかったんです」
もし相手がジェームズではなかったら、ステラは罵倒しだしていただろう。 彼女の気性の荒さは有名だったのだ。 しかし、相手はジェームズだった。
アリーナはジェームズが怒るのを恐れて、ステラを軽蔑した事は叱らずに 違う話題に変えようとした。 「さて、それではパーティーを始めましょう! あなた、ワインを開けてきてちょうだい!」
「分かった、アリーナ」
アリーナは彼の機嫌を取り戻すことができたようだ。
一連のやり取りをただ眺めていたマリアは、再び隅に座ってアリーナが立ち去るのを待った。
グラスを持ち上げ、帰国した友達へのお帰りの言葉を述べながら乾杯をすると、皆ワインを少しずつ飲み始めた。
ジェームズはアリーナに付き合って、このパーティーに来た。 しかしにぎやかなパーティーの雰囲気とは対照的に、彼はただソファに座って携帯電話を見ていた。
その姿は、辺りが凍り付くほど恐ろしい雰囲気だった。 周りの人々はなるべくお互いの会話に集中して、彼の事を気にしないようにした。
アリーナはマリアが思った以上に落ち着きがない様子で、 皆がワインを飲んでいるのを確認すると、計画を実行に移し始めた。
一方、準備万全のマリアは 落ち着いた様子で会場内を見守っていた。 アリーナがステラにウィンクをして合図を出した時も、マリアは冷静にタイミングをうかがっていた。
ステラはアリーナの合図を見ると、 グラスを置き、満面の笑顔でマリアに近づいて行った。 「ねえマリア、あなたは学生時代、誰に恋をしたの? 教えないとワインを3杯飲まなきゃいけない罰ゲームでもあなたが言わなかったらしいわ。 もう昔の話なんだから、教えてくれてもいいんじゃない?」
再び参加者たちに沈黙が走り、 息をのむようにしてマリアの答えを待った。 ステラはジェームズの事を言っているのだろうか。