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第9章傲慢で嫌な奴
文字数:4009    |    更新日時: 20/02/2021

ジェームズは何事も迅速に処理する人であったので、会議もそう長くはかからなかった。 マリアがそう待たされることはなかった。 だいたい十分程度だろう。 ジェームズが社長室に入っていくのが彼女の目に入り、 そのすぐ後ろにはサマーもいた。

彼の姿はロレンツォの目にも入ったようで、すぐに立ち上ると。 「すみません、 シーさん……」 彼は窓の前に立っている女性に視線を移しながら、自分の仕事を邪魔してきたことを必死に説明した。

ジェームズは彼の視線を追いかけた。 しかし彼はまるでマリアなど目に入っていないかのように、立ち止まることなく社長室に向かって歩いた。

サマーは静かにマリアに手を振り、自分の席に着いた。 マリアはそれに微笑んで答えると、社長室に向かって歩いていった。

それを見たロレンツォは彼女を止めようとしたが、サマーに遮られてしまった。 「すみません、ロレンツォ。 会議中にシーさんが 言ってたことなんだけど……」

彼女は仕事の話をしていたのでロレンツォはマリアを止めるのを断念せざるを得なかった。 マリアはまるで自分の部屋に入る様に入ってきた。

彼女が自分のためにサマーが何をしてくれたのか予想するのは容易であった。 彼女は心の中でサマーに感謝していた。

ジェームズに続いて、マリアは静かに部屋に入った。

柔らかい絨毯を踏み、彼女は周りを見回した。 社長室はとても広く、 内装も豪華だった。 そのことに彼女は一瞬目を奪られるが、すぐに自分がここに来た目的を思い出す。 彼女はジェームズと話し合うために来たのであって、 決してオフィスツアーに来たわけではない。

ジェームズはすでにノートパソコンの前に座っており、彼の細い指がキーボードを叩いていた。

マリアは机の前で立ち止まると、そっと口を開いた。 「ジェームズ・シー」

結婚当初、彼女は彼を 「シーさん」と そして愛し合っていくうちに「ジェームズ」と呼ぶようになっていた。 しかし、今ではフルネームで十分だ。

男は彼女を完全に無視し、パソコンの画面を見つめ続けていた。

「リキュールを三本も飲んだのだから、フェアビューヴィラに入りたいの。 だから、ジョンに知らせてくれると嬉しいわ。 心配しなくても、引っ越すつもりなんてないわ。 ただ見てみたいだけなの」とマリア語った。 「過去の時間を過ごして、息子を思い出させるものを見つけたい」とマリアは考えていた。

ジェームズはタイピングをやめ、彼女を見上げた。 「お前と何か約束をした覚えはない。 それにフェアビューヴィラの中に入れないそうだが、 それと酒をどれだけ飲んだかは関係ない」

マリアはじっと彼を見つめた。 「そんなの分かってる。 しかし、あなたに気に入られて、中に入れるように 三本も飲んだの、それなのに 関係ない? そのせいで私は入院までしたのに、このろくでなし!」 マリアは心の中で叫んだ。

この気難しい男に対し、彼女は深呼吸をすると、嘆願するような口調で「本当に、お願いします。 フェアビューヴィラに入れてください」と言った。

「出て行ってくれ」 しかし、ジェームズはそんな彼女を冷酷に拒絶した。

マリアは怒りのあまり、胃に鈍い痛みを感じた。 彼女は拳を握り締めると「ジェームズ・シー、あなたは私がフェアビューヴィラに入る資格も、アーサーに会う資格もないと言ったわね。 あなたは私を別荘に入れるつもりはなかった。なのに、どうして私に三本もリキュールを飲ませたの? アリーナ・タンが私を馬鹿にするように? どうして?」と矢継ぎ早に質問した。

彼女の口から出た言葉に、彼は何の反応もしなかった。 聞こえるのはキーボードのタイピング音だけ、 そして、その音が鳴りやむとジェームズは彼女に「それは俺がジェームズ・シーだからだ」とだけ言った。

「なんて自己中な人なの!」 マリアはジェームズの人間性をすでに知っているつもりだったが、それでも思わず激怒してしまった。 その言葉は、まるでマリアに対してはロボットのように命令してもいいと思っているような、非常に威圧的なものであり、思わず彼女は言葉を失ってしまった。

マリアは深呼吸をして落ち着こうとした。 「私がアーサーを九か月間身ごもっていたのは知ってるでしょ? なら、彼が事故に遭った後、誰が一番苦しんだと思う? 私には会う資格がないと言うけど、あなたはどうなの? あなたは息子と一緒に過ごしたこともないでしょ。 月に一日か二日しか帰ってこないのだもの。 ジェームズ・シー、息子が亡くなったとき、何を思ったの? 心を痛めたの?」

アーサーの命を奪った事故以来、彼らはお互いに直接会ったり、アーサーについて話したりすることはなかった。 そして数年が経ち、マリアには過去の話を持ち出す勇気があった。 彼女が話したくなかった過去。 痛みに満ちた過去。 しかし、彼女は二人の間の誤解を解消したいと思っていた。

しかし、彼はそのことについて話したも 考えたくもなかった。 彼にとって彼女がどれほど悲しんでいるかなんて、どうでもよかった。 ジェームズが時計に目をやると、マリアは五分近く彼の仕事を邪魔していた。 「言いたいことはそれだけか? もしそうなら、ソンさん、 もう出て行っていくれ」

彼の言葉を聞いて、マリアは驚いた。

「彼はなんて最低なやつなんだ!」

マリアは自分の不快感をはっきりさせることにした。 彼女は机を回って彼に近づいた。 彼女はノートパソコンを音がなるほど力強く閉じた。 彼女は涙目で彼を見つめ、語気を強めた。 「フェアビューヴィラに入りたい!」

華やかなオフィスの空気が凍りついた。

ジェームズの腕が上がり、その手は彼女の首を絞めた。 彼女の細い首を片手で絞めながら、彼はもう片方の手をポケットに入れたまま、ゆっくりと立ち上がった。 彼の目は怒りに満ちていた。 「トラウマタウンへの片道切符を用意した、乗ってもいい」

驚いたことに、マリアは彼の手が首にかかるとすぐに気を失ってしまっていた。

彼女はジェームズの腕にストンと落ちた。 彼の顔は暗くなった。 彼はアシスタントを呼んでこの女性を追い出そうとした。 彼女は気絶したふりをしているのだろう。 しかし、彼が一歩踏み出すと、マリアの骨ばった体は絨毯をしいた床に倒れ込んでしまい、 彼女の目はいまだ閉じたままだった。

ジェームズはひざまずいて彼女の顔を軽くたたいたが、起きる気配はない。 彼は彼女を抱き上げると、部屋からでた。 部屋の外に出ると、彼はロレンツォにエレベーターのボタンを押すように命じた。 その時、彼は文字通り手一杯であった。

ロレンツォは驚いてジェームズの腕の中にいる女性を見た。 しかし、彼は賢明にも黙っている決心し、エレベーターの元まで走っていくと、社長専用エレベーターを呼んだ。

ジェームズが通りかかると、サマーは心配そうな視線をマリアに向けた。 それをジェームズは見逃さなかった。 ジェームズは冷たく彼女を睨みつけると、 サマーは震え、すぐさま仕事に戻った。

マリアは抱きかかえたまま、ジェームズは駐車場に到着した。 ロレンツォはそこまでずっと彼ついてきていた。 彼はジェームズのために黒のハーキムの後部ドアを開けた。 当初、ジェームズは彼女と一緒に車に乗ろうとしたが、すぐに気が変わった。

彼は顔色の悪い彼女を後部座席に押し込むと、ドアを閉め、ロレンツォに命令した。 「彼女をサンライズ私立病院に連れて行け」

「はい、 シーさん。 分かりました」

轟音が鳴り響いた後、ジェームズは何が起こったのか理解し、怒りがこみ上げてきた。 彼はネクタイを緩め、深呼吸をし 少し気分を入れ替えた。

「くそっ!!、マリア・ソンめ!」 彼は彼女を呪った。

ジェームズは駐車場で行ったり来たりしながら、自分の怒りをどうやって発散しようか考えていた。 そして、彼は自分の携帯をを取りだすと、電話をかけた。 「来年以降、俺からから金を借りれると思うな」と彼は電話相手に言った。

「待ってくれ! ジェームズ! 話を聞いてくれ!」 彼の怒りに電話相手はパニックになっていた。

イーサンの言葉を遮るように、ジェームズは電話を切った。

マリアは病院に戻った。 その後まもなく、ノーマンがお見舞いに来た。 彼は彼女に早く退院した後、どこへ行ったのか尋ねた。 彼女はただ彼を見るだけだった。

ノーマンは彼女が何も話してくれないので、そっとしておくことにした。 彼は彼女に自分の身体を大事にするように念を押して、病院を後にした。 マリアに彼が必要なら、彼女はいつでも電話をかけることができる。

マリアは三日後に退院したが、ノーマンは忙しく彼女を迎えに行くことができなかった。 しかし、彼女はまったく気にしていなかった。 彼はすでに彼女を大いに助けていた。

ホテルに戻ると、マリアは履歴書をHMグループの秘書部門にメールで送信した。 それから彼女はいくつか用事を済ませると、ラップトップを閉じた。

全ての用事が終わる頃にはもう真夜中になっていた。 彼女は立ち上がって、伸びをすると、テイクアウトを注文した。 夕食の時間は過ぎていたが、朝食の時間にはまだ早すぎた。

食事を済ませると、マリアはワードローブを開き動きやすい服に着替えた。 そして、ホテルを出ると、タクシーを呼んだ。

その後、武装した女性がフェアビューヴィラの門の前にいた。 彼女のバックパックには、今の彼女に必要なものが全て入っていた。

彼女は帽子を下げ、目立たないように慎重に門に近づいた。 彼女はバックパックから小さなデバイスを取り出し、カメラの点滅するランプに向けた。

彼女の狙いは正確で、ダーツはカメラのレンズに飛んでいき、吸盤でその場に固定された。 カメラの視界を遮ると、女性は次の行動に移った。

彼女はブロンズの門を素早くよじ登り、静かに別荘に忍び寄った。 彼女は正面玄関に到着すると、さっきと同じ方法でカメラの視界を塞いだ。 周囲を見渡し安全を確認すると、彼女は安堵した。 警備員の姿は見えなかった。 彼女がコード化されたロックを解除できれば、ようやく中に入ることができる。

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