~愛·裏切り·復讐~元妻の甘い誘惑
作者保泉 勝文
ジャンル都市
~愛·裏切り·復讐~元妻の甘い誘惑
それを見た瞬間黙り込んだイーサンは、 肩をすくめながら冷凍庫へ冷たい飲み物を取りに行く。 そして飲み物を一口飲むと、ジェームズを見て言った。 「最近、ノーマン・シェンが姿を現したんだって? 昨夜、血まみれの女性を病院に連れて行っていたと聞いたよ。 その女性は誰なんだ? 彼女に何があった? もしかしてノーマンがアリーナの誕生日パーティーに連れてきた女性か?」
ジェームズは冷たい視線を送りながら、口を開く。「俺に何か関係あるのか?」
「関係ないけど、君はその場にいたんだろ? 詳しく教えてくれよ」 イーサンは子犬のような目でジェームズを見つめた。 ノーマンはジェームズに見せつけるためにわざわざ、その女性を連れてきたという噂があった。 きっとこの女性は、ジェームズと何かしら関係があるはずだ。 イーサンは考えれば考えるほど、気になってきた。
ジェームズはイーサンの質問を聞こうともせず、デスクに向かって仕事をし始めた。 「質問があるなら、サマーに聞け」 ジェームズはイーサンの質問に付き合うのは時間の無駄だと思った。
イーサンはすぐに飲み物を置き、サマーを探しにオフィスを飛び出す。 サマーを誰もいない応接室に連れ込み、イーサンは尋ねた。「サマー、教えてくれ。 ノーマン・シェンと一緒にいた女性は誰なんだ? そして昨晩、彼女に何が起こったんだ?」
最初、サマーは一切口を開かなかったが、ジェームズに言われてここに来たというイーサンの言葉を聞いて 安心したのか、低い声で答え始めた。「彼女は飲み過ぎて、胃から出血を起こしたんです」 とても痛々しくて 可愛そうなマリア。 サマーは胸を痛めた。
「飲み過ぎたせいで、胃から出血を起こしたってことかい? なんてことだ。 彼女は金のためにやったのか?」 イーサンは、金のために大量に酒を飲んで胃の出血で苦しんだ人々を何人も見てきた。 病院へ向かう前に、バーのテーブルで死んでしまった人もいた。
サマーは自信をもって答える。「いいえ、お金のためではなさそうです」 彼女はその出来事が起こったとき外で待っていたところだったので、一部始終を知っているのだ。 「シーさんが、 ブランデーのボトルをいつもより多い3本の注文をして飲ませたんです」
それを聞いたイーサンは、混乱してつぶやいた。「ジェームズが、強い酒を3本も女性に飲ませたのかい? 彼女はいったい誰なんだ? 気に障ることをする奴がいると、町から追い出すのがジェームズのやり方だ。 でも彼が飲ませたその女性は、まだH市にいる! いったいなぜだ」 しかもそのやり方は間違いなくジェームズらしくない。 なんだか怪しい匂いがするぞ。
するとサマーはイーサン近づき、彼の耳元でささやいた。「その女性は シーさんの元妻なんです」
「ジェームズの元妻? うそだろ!?」 イーサンはソファーから飛び上がって大騒ぎし、 とても大げさな反応をした。 「彼の元妻が帰ってきたのか!?」
「ええ、その通りです」
元妻?ジェームズの? よくも戻ってくることができるな。 しかもノーマン・シェンと?」 イーサンは眉をひそめて考えた。
ジェームズが彼女と離婚した時、イーサンはまだ高校に入学したばかりだったが、 ジェームズの息子の命を奪った事故についての噂をたくさん聞いていた。 事故の原因はその噂によって若干異なる。
しかし、結論は皆同じだった。ジェームズの元妻が息子の面倒を見なかったため、生後5か月のかわいそうな赤ん坊は、突然亡くなってしまったのだ。 また、彼女が自分の息子を故意に殺したと推測する者もいた。
しばらくの間イーサンはこの女性について、度胸を称賛するべきか、冷酷さを批判するべきか分からなかった。 彼女はジェームズの子供を殺したにもかかわらず、何もなかったかのようにわざわざHシティに戻ってきた。しかもジェームズのライバルを連れて、元夫の前に頻繁に現れるのだ。
サマーの噂話を聞き終えると、イーサンはすぐにCEOのオフィスへ駆け戻り、「ジェームズ、なぜ君の元妻は戻ってきたんだ?」と尋ねた。
ジェームズは冷ややかな視線を向け、穏やかに忠告した。「イーサン、お前はこの町でとても立派な男なはずだ。 それなのに女性についての噂話なんかをするのか? しかもこんな早朝に。仕事もせず。 君は何がしたいんだ?」
イーサンは少しがっかりしたが、諦めずに ジェームズの反対側の椅子に座って再び尋ねた。「彼女は君を口説きに戻ってきたんじゃないのか? 君の裕福さは、世界で10番以内だぞ。 ジェームズ、彼女にだまされるな!」
ジェームズはその女の事を一切話したくなかったため、 彼の顔色は一段と暗くなった。「イーサン、もし本当にやることがないなら、野良犬をさらに何匹か助けるなりして、履歴書の見栄えでも良くしたらどうだ?」
イーサンは非常勤の獣医であり、現在、大学院への入試に向けて準備をしていた。
イライラしたイーサンは、「ジェームズ、それについては何も言うなよ。 昨日の午後ドラゴンが亡くなったばかりで、 まだ悲しみに浸っているところなんだ!」
もちろんジェームズはドラゴンがイーサンの愛犬であることは知っていたが、動物に関する話には特に興味がなく、 返事もせずにまた仕事を始めた。
ジェームズに聞いても無駄だと分かったイーサンは、再びサマーのところへ駆け寄り、 「ジェームズの元妻がいる病院を教えて。 今日、朝の時間は暇だから、 彼女に会いに行こうと思う!」と伝えた。
ジェームズがかつて心を奪われた女性がどんな人なのか、イーサンは非常に興味があった。
少しためらった後、サマーは答える。 ごめんなさい。分からないわ。 誰かに確認しましょうか?」
「いや、大丈夫。 自分で探すよ。 仕事の邪魔してごめんね」
イーサンがノーマンに対して関心があるのは、彼がジェームズのライバルだからという理由だけではない。2人が異父兄弟でもあるからだ。 このことはH市でも、ほんの数人しか知らない。
早朝、H市のサンライズ私立病院でマリアは目が覚めた。
静かな病室に一人でいることに気づく。 そして辛うじて自分がどこにいるのかが分かったところで気力が尽き、再び眠りに落ちた。
しばらくして自分を見つめる誰かの気配を感じて再び目を覚ますと、 若くてハンサムな男がベッドのそばに立っていた。
その男は表情を変えずにマリアを見つめて言う。「君はとても美しい」
マリアは、この男をH市で見たことがない。 しかし彼女は黙ったまま、彼が話し出すのを待ってみた。
すると男は椅子を取り出し、ベッドの横に座わって言う。 「しかし女性というのは、美しければ美しいほど腹黒くなるものだ」
「あなたは私の何を知ってるの? 何も知らないくせに人のことを腹黒いだなんて何様よ」 マリアは鋭い視線を送り、絞り出すような声で言った。「あなたをここに呼んだ覚えはありません。 出て行って!」
「君はなんて大胆な人だ! 俺を誰だと思ってる? 君は俺を追い出せる立場かな?」 イーサンは椅子にもたれかかって腕を組み、マリアを見つめながらあえて無関心を装った。 弱々しい身体で横たわり、今にも死にそうな青白い顔をしているマリアであったが、その魅力は隠れる事を知らずにじみ出ていた。 その姿にイーサンはただただ興味をそそられるだけだった。
「あなたが誰かなんてどうでもいいわ! 今すぐ出ていかないなら警察を呼ぶわよ!」 マリアは目線を合わせずに言った。
その無関心さがイーサンにとっては面白く、 笑いをこらえずにはいられなかった。 「奴と同じくらい扱いが難しい人がいたなんて」 2人が結婚したのも納得できる。 夫と妻は似ているものだ。 いや、 正しくは元妻だ。
とても長い間ベッドに横になっていたマリアは寝心地が悪くなり、座ろうと必死になった。
マリアが起き上がろうとしていることに気づいたイーサンは、前傾姿勢になって手を差し伸べる。すると予想外にもマリアに腕を掴まれた。 そしてイーサンは強く押し倒され、顔からベッドに倒れこんでしまった。 彼は恥ずかしさが込み上げる。
「ここから出ていかないなら、私の事を悪くいうなんてできないわよね?」 マリアはいま機嫌が悪く、丁寧な対応などできなかった。
イーサンは頭を上げ、驚きながら腕を見る。 そして立ち上がりながら、握りしめてくるマリアの手を引き離し自分の腕をなでた。 まさか病人の女性に押し倒されたなんて、にわかに信じられなかった。 「マリア・ソング、俺は君の正体を知っている! 今のは見逃してやる。ジェームズのためだ!」 イーサンは決まりの悪さを感じながらも、大声で言った。
イーサンはただの興味本位でこの女性に会いに、車を飛ばして病院までやって来た。 そしてマリアを見て間もなく、ジェームズが数年前に彼女と結婚した理由に 納得がいった。 美しい女性ならジェームズの周りにもいるが、中身のない女ばかりだ。それに比べてマリアはとても興味深い。
「つまりあなたは彼の友達ってこと?」 イーサンがジェームズの話をした瞬間、マリアの機嫌は少し和らいだ。
その態度の変化に気づいたイーサンは、誇らしげにうなずいた。 「そうさ! ジェームズは俺の親友さ!」