私の心を傷つかない
作者貝川 吉一
ジャンル恋愛
私の心を傷つかない
夕食の後、ムー家からアシュリーへ電話があり、明日家に来るよう頼まれた。
アシュリーは大学に入学した時から、実家を出ており、 家族に何かがあったときだけ帰ることにしていた。
彼女は電話で話している時、冷たく微笑んだ。 ペギーは自分がしたことを棚に上げ、何事もなかったかのように振る舞い、電話をかけてきたことに彼女はショックを受けた。
「アシュリー、聞いてる? 明日、実家に来て。 いいかい!?」 ペギーは、かなり長い間話していたにもかかわらず、アシュリーから何の反応もなかったので、怒って叫んだ。
ペギーは、アシュリーが反抗的な気がしていた。
元々はアシュリーをマイケル・デュへの贈り物としてプレゼントすることを計画していたが、 まさかアシュリーが逃げるとは思ってもみなかった。
その結果、彼らは儲かる取引を失っていて、 アシュリーが帰宅したときに、代償を払わせることにきめた。
「はい、聞いてます」とアシュリーは無関心に答えた。
アシュリーの反応はペギーを苛立たせ、電話を切る前についに罵った。
エリーは、アシュリーが電話を切るのを見て心配そうな顔をした。
「どうしたの? なぜ、実家に帰ってきて欲しいの?」
エリーには心配する理由があり、 家に帰るよう電話する度に、アシュリーが何らかのトラブルに巻き込まれていたのだ。
「大したことじゃないよ。 彼らは、私が実家に帰ることを望んでいる。 それだけよ」と、アシュリーはエリーが心配そうな表情をしているのを見て、彼女を安心させるためにそう言った。
少なくとも彼女が一人ではなかった。エリーがずっとそばにいてくれたのだ。
「私が一緒に付いていこうか?」
外見はタフに見えていても、内面は非常に傷つきやすいということをエリーは知っていた。 アシュリーは、家族の中で、特にレナからいじめられるのではないかと恐れていた。
なぜなら、子供の頃からレナとアシュリーは仲良しではなく、レナはアシュリーからすべてを奪おうとしていた。
さらに、レナは同情を得るため、平気で他人の前で被害者を演じる傾向があった。
「ううん、大丈夫だよ。 もう彼らにはいじめさせないわ」 アシュリーはエリーが何を心配しているのか察知していて、彼女をこの混乱に巻き込みたくなかった。
「わかった」 アシュリーが一人で行く決心をしていたので、エリーは彼女の言うことに納得した。
それから彼女は、家族から不当な扱いを受けた場合に備え、自分のことは自分でするようにと長い時間をかけてアシュリーに伝えた。
—
翌朝、アシュリーは荷物をまとめ、家族の家に行く準備をした。
ムー家は彼らが住んでいたJ市で影響力を持っており、 アシュリーの養父であるスペンサーは、ムーグループの会長で、レナはその娘だった。 彼女はよくアシュリーの前でブランド物の高級品を見せびらかしていた。
しかし、実際の名家に比べるとムー一族は、その影が段々と薄くなっていた。
ムー家の屋敷は、スプレンダーガーデンにあり、 そこの土地はとても高価な場所だった。 ムー家は、屋敷を購入してから長い間興奮していて、 レナが自分のクラスで自慢していたことをアシュリーはまだ覚えていた。
アシュリーはバスに乗って時間をかけて、スプレンダーガーデンの近くまで行くことにした。 そこに住んでいる人たちは金持ちで権力があったので、みんな自家用車を持っていて、バスはめったに見られなかった。
アシュリーは最寄りのバス停で降りると、屋敷までの道を歩いた。
バス停からムー家の屋敷までは、歩いて30分以上かかる距離があり、 彼女はそこを歩きながら、道中に咲いている美しい花や木を見て楽しんだ。
彼女が実家に行く度に、何の良いことも起こらなかったので、急いではいなかった。
少なくとも、彼女は道の途中で楽しい景色を楽しむことができた。
アシュリーが屋敷の近くまで来た時、一台の車が彼女の横を通り過ぎ、突風とほこりを吹き付け、彼女の目を閉じさせた。 アシュリーは、昨日雨が降らなかったことを幸運だと思った。そうでなければ、車の走行速度から判断して、彼女は水たまりの水をかけられていただろう。
突風が止むと、アシュリーはゆっくりと目を開けた。 そこには、レナのかわいらしい顔が彼女を見つめていて、ちょっと驚いているようだった。
アシュリーは完全にショックを受けていた。 このようにレナと出くわすことがいかに皮肉なことかを考え、小声で罵った。
「アシュリー?」 レナはまるで彼女に気づいたばかりかのようなふりをして、 車のドアを開けて出ると、楽しそうに彼女の方へに向かって歩いた。
「アシュリー、こんなところで偶然会うなんて。 まさか、あなただとは思わなかったわ」
レナは暖かく手を握ると、運転席に座っているレイモンドの方を向いてこう言った。「レイモンド、アシュリーよ。
車に乗せてあげましょう」
レイモンドは、アシュリーを見てハンドルを握り締めると、 唇を固く結んで、「うん」と口ずさんだ。
「やった、アシュリー、一緒に家に帰りましょう」 レナはアシュリーの手を握り締め、彼女を車の方へと引っ張った。
しかし、アシュリーはレナの車に乗らなかった。
アシュリーは握られていた手を引き離し、彼女に笑顔を強要すると、
「お構いなく。 もうすぐ家に着く距離だから。 歩くのが好きだし、私は歩いて家に帰るわ」と言った。
アシュリーは決してレナと一緒に行かないだろう。 彼女はレナが家に帰る途中、罠をしかけてくるのではないかと心配した。
そして、彼女はそれに対処する気分になれなかった。
しかし、レナは傷ついたふりをして、目に涙を浮かべると悲しそうにこう言った。「アシュリー、まだ怒っているの? ごめんなさい、レイモンドと私は本当に愛し合っているの」
レナは、アシュリーがお邪魔虫であるかのように言った。 アシュリーは溜息をついた。
レナが倒れて彼女のせいにされる場合に備え、レナと自分の間に距離を置いた。
「それは考えすぎだよ。
私はずっと前に彼と別れてる」 アシュリーは、レナとレイモンドが何を考えていても、巻き込まない限りは気にしなかった。 彼女は彼らに興味がなかった。
「もう行かなくちゃ」 そう言うと、アシュリーはレナをよけて反対側に歩いた。
その瞬間にレイモンドは車から降り、アシュリーは彼のすぐ側を通り過ぎた。 彼は彼女が立ち去るのを見て何も言わなかった。
「レイモンド」 そう言ってレナは彼を見ると、悲しそうな表情で彼の腕の中に飛び込んだ。
「アシュリーは私達のことを許してないわよね?」 レナは頭を上げて、涙を浮かべてレイモンドを見つめた。その表情はとても悲しそうだった。
実は、彼女はアシュリーから期待していた反応が得られなかったことに失望していた。 二人が一緒にいるのを見てアシュリーがひどく怒るだろうと思っていた。
彼女は心の中で思った「アシュリー、あなたがレイモンドのことが好きのは知っているよ。 でも彼はもうあなたのものじゃない。 彼は今、私のものです!」
「あり得ない。 あまり深く考えないで」 レイモンドはレナの涙を優しく拭き取ってそう言った。
「行こう」 レイモンドは、アシュリーが自分のことを気にかけておらず、もう愛していないことを知っていた。