私の心を傷つかない
作者貝川 吉一
ジャンル恋愛
私の心を傷つかない
どういうわけか、レナとアシュリーはずっとライバルだった。
子供の頃からレナはアシュリーのことを嫌っていて、 彼女はいつもアシュリーのお気に入りのおもちゃをーーそれが高価な物かどうかは関係なく奪っていった。 また、スペンサーやペギーの前で嘘ついてアシュリーの悪口も言っていた。 その狙いは、彼女をできるだけけなすことで、 レナはアシュリーに脅かされていると感じ、お気に入りの娘でありたいと思った。
アシュリーがどんなに説明しようと、自分を守ろうとしても、スペンサーとペギーは信じてくれなかった。 結局、彼女は養女に過ぎず、 レナが血のつながった本当の娘だったので、常に愛情が偏っていた。
時が経つにつれて、スペンサーとペギーはますますアシュリーのことを誤解するようになった。
アシュリーが子供の頃、なぜ両親が彼女のことを嫌っているのか理解できず、
ただ、お母さんとお父さんの腕で抱きしめて欲しかった。 しかし、彼らからそのような愛情をかけてもらうという贅沢を、彼女は知らなかった。 それはレナのためだけの特権だった。
両親に邪険にされる理由を、彼女は何度も考えたものだ。 彼女自身が反抗的だったからではないかとさえ思った。
しかし、できる限り従順で気遣いのいい娘として振舞ってもなんの意味もなさず、 両親は相変わらず彼女を受け入れてくれなかった。 仕事がうまくいかなかったり、家族に何か問題があったりすると、アシュリーは彼らの八つ当たりを食らい、 あらゆることで殴られ、叱られて、非難された。
彼女は大人になるにつれ、なぜ両親に嫌われ、代わりにレナを好んでいるのかがやっと理解し、 彼らに従順で忠実であることは何の役にも立たず、馬鹿げていることに気づいた。
—
家政婦が昼食をとるために彼女を呼ぶと、アシュリーは子供時代の悲しい思い出から突然目が覚めた。
「信じられない。 ここに座って間もないのに、あなたはすでにぼんやりしているのね」とペギーはいらいらして言った。
アシュリーは彼女の言うことを聞いてないふりをした。
「アシュリー大丈夫?」 レナは心配そうな顔で近づいてきた。
「うん、大丈夫よ」 そう言って、アシュリーは彼女に詳細を話そうとしなかった。
スペンサーはいつものようにテーブルの上座に座り、 レナとレイモンドは彼の左側に、ペギーは右側に、アシュリーは彼女の隣に座った。
「レイモンド、これはあなたのお気に入りのスペアリブの甘酢煮だよ。 あなたのために特別に私がクレアに料理を頼んだの。 ぜひ食べてね」 彼女は美しい目でレイモンドを見ながらそう言うと、 スペアリブを箸でつまんで皿に載せて、彼に渡した。
レナがレイモンドを喜ばせようとする光景は面白いなとアシュリーは思った。
「彼の表情に、何か違和感があることに気づかないのかな?」 と、アシュリーは思った。
実際、レイモンドはスペアリブの甘酢煮が全く好きではなく、
そもそも甘酸っぱい味が好きではなかった。 しかし、アシュリーがその料理がとても好きだったので、 夕食に出かけるたびに、レイモンドはアシュリーのためにスペアリブの甘酢煮を注文していた。
彼女はかつて、好きでもないのに、どうしていつもその料理を注文するのかと尋ねたことがある。
それは彼女の好きな料理だったから、自分も好きになってみたいとレイモンドは答えていた。 そう言われた当時、アシュリーは特別な気持ちになった。
その後、レナは両親の好きな料理を出し、それぞれの皿に料理を盛ると、 アシュリーを除き、家族は幸せで明るい雰囲気の中で食事を始めた。
アシュリーは、席で黙々と自分の食事に専念していた。 話す機会を減らせば間違いも減り、誰からも叱られることがないと彼女は考えていた。
しかしながら、その考えは間違っていた。
アシュリーの隣に座っていたペギーは「どうして誰とも話さずに食事をすることができるの? 食事をしながら、家族が楽しい雰囲気を楽しむべきだということを知らないの?
そんなんじゃ、まるで私たちがあなたに何か悪いことをして、話をさせなかったのではないかと思われちゃうでしょう!」と言った。
アシュリーは自分の耳を信じられなかった。
ペギーの食事中に、彼女が何かを言って叱られたことを彼女は思い出した。 とても怒っていたペギーは「黙って食事をするのが合理的だということを知らないのか!」と言っていた。
それ以来、一緒に食事をしている時には、ペギーに粗探しされないようにアシュリーは一言も話さなかった。
彼女が静かにしていたとしても、いまだにペギーを苛立たせることは避けられず、 何をしても、母親の目には間違っているように映ってしまうのだ。
実際、相手があなたのことを好きでなければ、どんなに上手くやったとしても、あなたの粗探しをしてしまうだろう。
「レイモンド、どうして食べないの? その料理、好きじゃないの?」 レナは不思議そうに尋ねた。
一瞬ためらった後、レイモンドは恥ずかしそうに言った「いえ、最近なんだか歯が痛くて、 今は食べれる状態じゃないんだ」
「まあ、本当なの? 気に入らないんじゃないかと思った」とレナは笑いながら言った。
「食べられなければ、そのまま置いておいてね」
「ありがとう」
レイモンドは冷静で落ち着いて見えていたが、内面は気まずい思いをしていた。
レナが彼女の家での昼食に彼を招待したとき、レイモンドは彼女の両親に会うだけだと思っていて、 まさか、アシュリーもそこにいるとは知らなかった。
さらに悪いことに、彼はくせでついスペアリブをアシュリーの皿に入れようとした。
—
食事をしている間、レナはレイモンドへの愛情をずっと公然と示していた。
みんなが食事を済ませると、居間で一休みしておしゃべりをしたが、 しかし、アシュリーだけは居心地が悪く、一緒にいることに恥ずかさを感じていた。
「こんなイチャつきを見せるためだけに、わざわざ私をここに呼んだの?」 と、彼女は疑問に思った。
アシュリーは、その場所から立ち去るつもりだったが、ペギーが二階の部屋で話がしたいと言ってきた。
「アシュリー、あなたはもう十分に良い年頃だわ。 だから、お父さんと私はあなたの為に彼氏を選んだの。
彼は博士号を取っていて、海外から帰ってきたばかり、 容姿も立派な若者で、あなたと同じくらいの年齢よ。
今週の土曜日にお会いできる約束をしたから、
彼に一度会ってみたら良いと思うわ」
部屋には二人きりだったので、ペギーははっきりと彼女にそう言った。
ここに呼んだ目的はこのことだったのかと悟ったアシュリーは、彼らに対する憤りを感じた。
「レナのボーイフレンドを取られるの恐れてるの?
もしそうだとしたなら、本当に私を舐めすぎだわ。
レイモンドには、新しい彼女ができたんだ。 そして、私にもちゃんとプライドがある)と彼女は苦々しく思った。
「お母さん、私はまだ結婚したくない」
「馬鹿馬鹿しい! あなたはもう結婚してもいい年齢よ! レナはあなたより2歳年下なのに、すでに婚約してるわ。 姉として、妹に先を越されてもいいわけ?」 そう言ってペギーはアシュリーの言葉にすぐ腹を立てた。
「とにかく!今週の土曜日にその男性に会うのよ!いい? あなたに断る権利はないのよ。 長年苦労してあなたを支えてきたのに、とんだ不従順で恩知らずなんだね。 せっかく用意したお見合いデートにも行きたくないなんて、 飼い慣らされた犬でさえ、あなたより忠実だったろうね!
さらに言えば、あの夜もし逃げなかったらマイケルはムーグループに対してそんなことをすると思う? 会社が大きな取引を失っただけでなく、マイケルは私たち家族にまで悪い印象を持ったのよ!」
ペギーの次々と出てくる不満を聞いて、アシュリーは言葉を失った。
「どうしてそんなに私のせいにするの?
その大きな取引をするために、彼らは私に失神する薬を飲ませ、マイケルの部屋に送ることを計画していたのよ。 取引のためなら、私があの女たらしのマイケルに穢されてもいいわけ? どうして私にそんな卑劣なことをしようと思ったのだろう?」 と、彼女は疑問に思った。