CEOの彼の罠に落ちた
作者繁昌 空
ジャンル御曹司
CEOの彼の罠に落ちた
ローラの部屋の温度が急に上がっていく。
それとともに、ロマンチックな雰囲気がベッドの上の2人を包む。
待って! この人、本気なの?! ローラの身体が小刻みに震えていたが、冷水シャワーを浴びたためではなかった。
今になって初めて、ハリーに逆らってはいけないと知った。
ハリーは唇を重ねた。
ローラはもはや何も言葉を発することができなかった。 ハリーはその大きな手の片方でローラの両手首を掴むと、グイッと彼女の頭の上に手首を押さえつけた。 顔を左右にそむけるしかできずに焦るローラ。身体は上にのるハリーの重みで何もできない。
顔をそむけるなんて、抵抗にすらならなかった。 ローラはおそろしさのあまり、これからは大人しくすると心に誓った。
しかし、今更もう遅いかな…
前回は何らかの薬の影響で、無意識で訳が分からないままハリーとセックスをしてしまった。 しかし、今はワインを飲んだだけ、しかも冷水シャワーを浴びたおかげで酔いも覚め、意識も理性もハッキリしている。 どうしよう? どうしたらいいの? ローラが焦りと混乱に陥っているなか、ハリーはローラを愛撫しはじめた。
すると突然、ローラは裂けるような激しい痛みを感じた。
痛みの条件反射で、ハリーの唇を噛んでしまった。 ハリーの唇に血がにじむ。
しかしハリーはローラへのキスを止めない。互いの鼻には血の匂いが、互いの口には血の味が広がった。
「この前はお前が俺を誘惑したよな? 俺は怒ったぞ。 あぁ、そうそう、俺のことを ”ホスト君”と言ってたな…。 そして5,000円をくれたんだったけ? おまけに、俺に平手打ちまでしてくれたよな? ローラ、お前は俺に借りがあるだ。 今…その借りを返す時が来たんだ…」
ハリーは滲み出る血のことなどきにもせず、ローラの耳元でそう囁いた。
ハリーは本当に簡単に女性を抱くような人間なのだろうか?
ハリーはいわゆる”軽い男”だろうか?
「そうね…全部、ワタシのしたことよね… …あの時のことは、たとえ薬のせいだったとしても謝るわ…。 おねがい、離して!」 借りを作ったら、 いつかは返さなければならない。
ローラもよくわかっていた。 しかし、あの時は本当にハリーをホストだと思い、彼を叩いたのも仕方無かったこと。
「…もう、遅い」
ローラははじめのうちは荒々しい怒りの声をあげていた。
しかし徐々に柔らかな喘ぎ声とハリーを求める声に変わっていた...
ハリーとローラは何度結ばれたのだろうか。
「このケダモノ!」
ローラがハリーに向かってそう言い放ったのは、肌を重ねた夜が終わろうとした頃だった。
ハリーはクスッと笑ってみせたが、その言葉はとても印象的で「忘れられないな」と思う心に残るひと晩の余韻を楽しんでいた。
翌朝、ハリーとローラは婚姻届を提出用する予定になっていた。
けれど、ローラが隣にハリーがいないことに気づいたのが午後2時だったため、 計画は変更を余儀なくされた。
疲れていたローラは風呂に入るためにベッドから立ち上がった。 バスルームの鏡に映った自分の身体をみてローラは啞然とした。身体のいたるところにつけられたキスマークの嵐。入籍する予定の男性が性欲の塊であるとローラが確信するには十分だった。
ローラは婚姻届を出すことを躊躇していた。 しかし、今、この瞬間までのことを振り返ると、婚姻届を正式に提出したほうが良いかもしれないと考えを改めていた。 少なくとも、結婚はハリーとの関係を公的に証明することができる。 結婚許可証なしで彼に経済的に支えてもらっている愛人のように見えるより、 ハリーの言う通り、結婚という公的な関係でいるほうが賢明であろう。
「…愛…人」 ローラは鏡の自分につぶやいた。
孫娘が愛人になったと知ったら、祖母は間違いなくローラを叱り飛ばすだろう。 「おばあちゃま…パパ…ママ…みんないなくなって…ワタシ…とても寂しいわ」
ローラは鏡にむかってそう言うと、急いでシャワーを浴び、パパっと身支度を整え、ミズ・デュが温めなおしてくれた食事を急いで食べ終えた。 それからローラは書斎で仕事をしていたハリーを強引に連れて市役所へ向かった。
「ど、どうしたんだ?急に…」 ハリーは驚きとともに、何がローラの心をここまで急に変えたのだろうと考えていた。
「急がなくちゃダメ! 終業時間になってしまったら大変だわ!」 ローラは適当な言い訳を言った。
ハリーは、昨夜、ローラの首もとに目立たようにつけたキスマークを横目でチラリと確認すると、ローラが彼の喉を切り裂いて海に放り込んでサメの餌にしたくなるようなことを言ってみた。
「昨夜が気持ちよすぎて、毎日したいということかい?」
―毎日!?― ―このケダモノ!絶対に成仏なんてできないんだから!―
ローラは拳を握りしめながら黒いマイバッハに座り、隣にいる図々しいケダモノを無視していた。
「返事がないなら、イエスということだな。」
ハリーは、明らかに力が加わった強く握られているローラの拳をチラリと見て、フッと鼻先で笑った。
無視を決めこんだローラが顔を背けるためにふと車の外に目を向けると、見慣れた風景が目に飛び込んできた。
市役所に行く前に、ハリーはローラの元の自宅に寄るつもりらしい。 車がローラのかつての自宅前で止まった。
車を降りたハリーは門に貼られていたテープを剝がし、ズボンのポケットから鍵を取り出すと門を開け、スタスタと入っていった。その姿を見て、ローラは車の前に呆然と立ちつくしてしまっていた。
「な、なんで… ど…どうして... なんであなたがワタシの自宅の鍵を持っているの?」 ローラの自宅は競売で売り払われる予定になっていた。 だから鍵を手に入れるのは容易ではない。 ハリーはどうして鍵を開けてズカズカと邸宅に入っていけるのだろうか?
「ほら。戸籍謄本を取りに行け。 早く!」 何もかもすべてが突然に起きたので、ローラは自宅に多くのものを残したままだった。
ローラはゆっくりと元の自宅へ入っていく。 賑やかだった自宅が今や空家なのだ。 必死に涙を堪えつつ、ローラは2階へ上がり、父親の書斎のドアを開け、引き出しの中から戸籍謄本を見つけた。 それから自宅を出る前に、父の部屋、祖母の部屋、そして自分の部屋に足を運んだ。 どの部屋も出てきた時とまったく変わっていなかった。 唯一変わったものがあるとすれば、もうそこに誰もいないということだった。
ローラは目尻をつたう涙を拭きながら階段を降りた。 玄関に立つ背の高い男性に、ローラは感謝以外の言葉も気持ちもなかった。 ハリーのおかげで、ローラは再び元の自宅に入ることができた。
「ワタシ、この家を買い戻すわ!お金を貯めて…」 ローラは決心した。
2人が市役所に着いた時、職員たちは仕事を終えようとしているところだった。 ハリーは海外から帰ってきたばかりで、まだ会社を正式に引き継いだわけでもなかったため、市の職員たちはハリーのことを知らなかった。 二人は婚姻届を提出し、無事に受理され、騒がれることもなく市役所をあとにした。
レストランで夕食を食べたあと、ハリーはローラに新しいスマートフォンを買い、車でブルーアイランドモールの地下2階駐車場に向かった。 2人は車から降りると、エレベーターで直接8階のVIPエリアへと向かった。
ブルーアイランドは近代的なショッピングモールだ。各階にはそれぞれの専門有名ブランドが出店しており、各店舗、数100平方メートルというゆったりとした造りだった。
ちなみに、地下1階にはスーパーマーケット、1階にはジュエリー、2階にはスキンケア用品や化粧品、3階には婦人服やバッグ、4階は紳士服、5階は生活用品、6階にはアウトドア用品、7階には酒類が、そして8階はVIPエリアとなっていた。
制服を着たショッピングガイドらも皆教養があり、きちんと訓練された従業員が配置されていた。 ブルーアイランドはかつてのローラのお気に入りの高級ショッピングモールの1つだった。
かつて、8階のVIPフロアで友達へのプレゼントや自分のジュエリーを買っていた。
ハリーの来店に、ダイヤモンド製品を売るショッピングガイドたちがとても驚いた。 なんとイケメンな男性!と。 彼が着ているものを見ただけで、大金持ちであることを察知していた。 それゆえに、絶対に表情には出さないが、多くのショッピングガイドがハリーを顧客にしようと躍起になっている空気は伝わってきた。
ローラは、なぜハリーが8階のVIPフロアのジュエリーコーナーに自分を連れてきたのか、まだ理解できずに不思議に思っていた。 ワタシに指輪を買うつもりなのか? それはない。 なぜなら、婚姻届を提出はしたが、お互い、それが愛し愛され行ったことではないとローラはわかっていたからだ。 二人共この婚姻に意味があるとは思ってはいたが、ローラは未だにハリーが何を求めているのかがわからなかった。
ハリーが言ったように、お互いが初めての相手だったからだろうか? 彼女はバカではなかった。 彼が理由を教えてくれなければ、彼女も聞かないだろう。 今のローラには失うものは何もない。 彼の恩をお返しできるのは体だけ...
だが、ハリーは誰とでも付き合えるほどのルックスと資産を持っていて、なぜローラを自分のもとに置いておくのか。その理由がまったく見つからなかった。 確かにローラは可愛い。自身もそれを自覚していた。 しかし、彼女よりももっと可愛く、優雅で、リッチで、おしとやかな女性は、星の数ほどいるはずだ。
「おい!こっちに来い! これなんてどうだろうか?」 ハリーの言葉は、ローラを現実世界に引き戻した。 ローラは、あるカウンターの前に立つ彼のところに向かった。