私のCEOであるパパ
作者谷田部 崇博
ジャンル御曹司
私のCEOであるパパ
車を運転しているバーロンはその話を聞いて、ふと笑い出した。そして、ニコールの気持ちを和ませるため、いくつか冗談を言った。 ニコールが就職する会社が彼女のために用意してくれた家に着いたら、 バーロンは荷物を持って階上まで彼らを送っていった。 その上、必要な日常用品を買うために、 スーパーマーケットまで二人を連れて行った。
「覚えてるかい? 僕がファングループにいる限りは、君がファングループで働く事なんて簡単なんだぜって僕が言っただろう。 いったいなぜ、君はグーグループの仕事を選んだのか? カー・グーがどんなに手ごわい男か知らないの?」 買い物をしている途中、バーロンは半分からかいながらも、半分は真剣にニコールに聞いた。
「いやだ! もし本当にファングループで働いたら、またあなたの盾として扱われるだろう」
ニコールも彼をからかうように、笑いながらスーパーの買い物カートを通路に押して話していた。
「それより、いい加減にガールフレンドを作ったらどうなの? もうそろそろ、あなたの偽のガールフレンドとして、私も少し飽きてきてるのよ」と、ニコールはつけ加えた。
「そんなに飽きてきたのならば、本当のガールフレンドになるってのはどうなのだろう… 」
バーロンは心の中で、そう考えていた。 しかし、彼は本当の気持ちをニコールに伝える勇気がまだなかった。 臆病な自分の性格が嫌だったバーロンは、 苦笑いしながら、ニコールに追いつこうと急いだ。
買い物を終わらせて食事も済ませたニコールとジェイはようやく休むことができた。新しい家とはいえ、二人ともぐっすり眠れた。 ニコールは翌朝、ジェイをすでに連絡を取った小学校へと送った。 校長先生とクラス担当の先生は喜んでジェイを学校の正門で迎えてきた。 そのように賢い子どもが入学してくると知って、二人は嬉しそうに笑った。
新しい場所で息子がうまくやっていけるかどうかニコールは少し心配だったが、ジェイは年齢の割には、大人しくしていて、 ニコールのバッグを片付けながら、彼女に言った。
「ママ、自分のことを心配しなよ、僕は大丈夫だから。 初めて仕事に行く日だよ。 仕事はきちんとするんだね。 僕は飢え死にしたくないから!」
「やんちゃな子だね!」
ニコールは幼い息子をみつめながら笑っていた。 ジェイが学校に入ると、ニコールはタクシーでグーグループへと向かった。 到着すると、ニコールはこの会社の伝説の社長は、なかなかセンスがいいと思った。 建物はガラス張りで、シンプルながらもとてもエレガントだったからだ。 ただ、ひとつだけ問題があった…
「この上をどうやって歩けばいいのかしら! ?」
ニコールは履いていた8センチのハイヒールを困ったように見つめた。 飛ぶような速さで歩く目の前の女性たちを見て、彼女は密かに憧れた。 歯を食いしばると、ニコールはしっかりと一歩を踏み出した。 すると、滑らかな床で足を滑らせてしまった。
くそ! 出社初日に私にこんなことが起きるなんて! 恥さらしだわ!
もうどうすることもできなかったと思い込んだニコールは、 しっかりと目を閉じて、受け身をとって転ぶのに耐えようとした。 でも次の瞬間、たくましい両腕で彼女の身体を支える人が現れた。
眼を薄く開けると、そこにはニコールが少し見覚えのある男の姿があった。
頭を上げたとたんに、冷たい深みのある男の顔が見えた。 それはまるでベテランの職人が彫刻でほったのかと思うような完璧な顔。 ニコールはどこかで見覚えのあるその男を思い出そうとしたとき、その男は手を放した。 あまりにもじっくりと見つめられるので、男は眉を上げた。
「何をみとれているんだ?」
「やだ! なんてことをしたんだろう!」 ニコールは恥べき自分をののしった。 そして、しっかりと直立し、服を整えてエレガントな笑顔で言った。
「有難うございます」
ふーん… ずいぶんと素早く立ち直れるものだな。
カーは、眼を細めてみると、どうもこの女性を見たことがあるような気がした。 しかめっ面をして、彼はアシスタントへと振り向いた。
「この女性はいったい誰なんだ?」
声は低かった。
「グー様。 ニコールさんという方です。 彼女は先月、マンハッタン大学を卒業したばかりの博士です。 会社が高額の給料で雇ったディレクターです」とアシスタントは伝えた。
そのセリフは、二人を驚かせた。 カーはわずかに眉を上げたが、ニコールはショックで口をぽかんと開けそうになった。
信じられない。 出社初日に伝説のカー・グーの目の前に現れて、恥ずかしい思いをするなんて!
息子の言っていたことを思い出し、あまりに悲しくなったニコールは思わず叫びそうになっていた。 ジェイの言う通り、自分はお仕事をたった1分で失うことになったみたい!
予想したとおり、カーは嘲るような表情で彼女を上から下までしらべた。
「ディレクターだって? 関心なさそうに、カーはあざ笑った。
その彼の言葉にあった軽蔑の痕跡に怒り出したニコールは、 歯を食いしばて言った。
「仕事の方はしっかりとやれることを証明いたします。 グー様。 誰にでも長所があれば短所もあるものです。 私は確かに不器用でしたが、そして第一印象を悪くしてしまったに違いないですが。 グー様は事の是非をはっきり区別できる人だと確信しており、 今日起こったことだけでは、私が能力不足だと簡単に判断する人ではないと信じております」
この女はなかなか雄弁だった! カーは肩をすくめた。
「ニコールさん、お言葉通りにぜひ仕事してみせてほしいものだな」
そう言い残して、彼は振り返らずに会社へと入っていった。 ニコールは驚いていたが、 気をつけて足を踏み出し、すべることなく会社へ入った。
なぜなのか分からないのだったが、カーを見た時に心臓が急にドキドキしていた。 何か懐かしいような気持ちが心に感じられたのだった。 だけれども、ディレクターとしての役目は忙しく、報告や契約などさまざまな業務に専念するので、ニコールは手がいっぱいだった。 あまり何もほかに考える暇は今はなさそうだ。
ニコールは大それた性格をしていたが、物事についてはしっかり成し遂げるという自己流のやり方があった。 その朝だけで、彼女は責任者として運営するマーケット部門のすべての業務を明確に理解することができていた。 スタッフ全員との会議を終えると、彼らはニコールに対して深い印象を抱いていた。 すぐに、グーグループ全体にその美しく粘り強さを備えたマーケティング部門のディレクターの評判が広まった。
そのようにして、ニコールはグーグループの社内で確固たる立場を築き上げた。 幸運にも、彼女が就任して間もなく、大規模な提携計画が舞い込んだ。 決定力があり、初月で相当な成功を収めたので、ニコールのビジネス力には誰もが憧れるようになっていた。 カーですら、彼女を評価していた。 それに、ニコールの成功を祝うため、彼は初めてホテルを予約して、パーティーを開催することにした。
贅沢と成功の言葉を受けながらも、ニコールは少し気が落ち込んでいた。
ずっと前に父親がまだ生きていたころには、彼女の一家の会社も順調に発展していた。 当時はニン家の長女として、ニコールはにこやかに社交界で今のようにたくさんの人たちと交流をしていた。 しかし、今そばにいるのは父親ではなく、上司のカーだった。
夕食後、ホテルで音楽をバンドが演奏する中、ダンスフロアでは会社の管理職たちが踊っていた。 それを見て、ニコールは手でこめかみをこすりながら、ため息をついた。
誰もが楽しそうにパーティーに参加しているから、 ニコールも自分の気持ちを高揚させる必要があると思った。なぜなら、このパーティーは彼女のために開かれたものだったから。 彼女だけではなく、社長のカーも、みんなをがっかりさせないため、高い気力を維持しなければならなかった。 ニコールは気づかれないように、横目でそばにいる暗い顔をしているカーをみた。 大きく深呼吸をすると、彼女は自ら率先して手を差し出した。 「踊りませんか?」