私のCEOであるパパ
作者谷田部 崇博
ジャンル御曹司
私のCEOであるパパ
フィオナはグレゴリーの言葉に思わず眉をひそめた。
彼女はグレゴリーの仕事に利用されるのに苛立っていたのだ。 次の後ろ盾が見つからなかったから、グレゴリーを助けるのを出しに別の新しい男に乗り換えようとしていた。
今、目を輝かせたグレゴリーの様子を見ると、彼がまたニコールに対して興味を持つのか、 とフィオナは心配していた。 彼女は自分のほうからグレゴリーを振ってもいいが、グレゴリーに振られてはいけないのだ。
「ニコールがあなたの役に立つか私は気にしないけど、 近づき過ぎないでね」
厳しい表情でグレゴリーへの警告を投げかけると、フィオナは右手を伸ばして人差し指で彼の胸を突っついた。
「心配しなくていい、 君は僕の最愛の人だ」
グレゴリーは優しく言いながら、腰をかがめてフィオナの右の頬に軽いキスをした。
「ニコールは本当にあなたの役に立つの? 私もできるわ…」
そう言いながら、フィオナの目には鋭い細い光が点滅した。 グレゴリーの背後でグーグループのカー社長が、たばこのライターで火をつけている後ろ姿を見た彼女は、 これはチャンスだとグレゴリーを脇に寄せて、ドレスを引き下げてネックラインを出し、豊かなバストを強調してから、カーに向かって気取って歩いて行った。
「グー様。 なぜおひとりで喫煙されておられるのでしょうか?」
カーはその声に振り返った。 ニコールの知人と思われる、フィオナの姿があった。 相変わらずの無表情で彼女を見返しながら、あえてたばこの火を消そうとはしなかった。
「何か?」 冷たい口調で尋ねた。
拒絶されなかったので、カーは自分に対して少しは脈ありなのだとフィオナは感じ取っていた。 そこで、カーの方へと身体を寄せて、彼のことを魅惑的な目で見つめた。
「いえ、何も問題はございませんわ。 グー様」
フィオナの香水が、思わず一歩下がってしまうほどの強烈な悪臭と思えたが、カーはその場を去らずにとどまった。 フィオナはニコールの古い友人だと知っていたので、ジャレドからは報告できなかった情報を得られる可能性があると思ったのだった。
「ニコールの知り合いなのね?」 何気ない質問だった。
カーがニコールに関心を持つのに対して、 フィオナは再び、ニコールへの嫉妬心から苦しみでいっぱいになった。 すると、彼女はどうやってカーを誘惑して、ニコールを一気に倒す方法を頭の中で計算しはじめた。
「そうです! ニコールと私は一緒に育った間柄だから、彼女については詳しいですわ。 ご興味をお持ちになられましたら、一つずつ お話しますわ」
カーの胸にわざとらしく手を触れながら、フィオナはそういった。 誰が見ても彼女はカーを誘惑しようと試みていた。
一方、個室の中ではソグループとグーグループの共同計画に関してジェレミーと話し合っていたニコールは、 なかなか戻らないカーを心配して、言い訳をすると探しに出かけた。 個室を出た瞬間、もっとも彼女が嫌な男が目の前にいた。
「やあ、ニコール。 お久しぶり」
グレゴリーは、フィオナが今、カーを誘惑しようとしていることを知っていたが、離れたり怒ったりはしなかった。 彼にとって、フィオナとニコールのどちらでも、カーにソーグループへ投資するようにそそのかしていたら、ソーグループが救われるといえるからだ。
しかし、彼が予想していなかったのは、 ここ7年間一切連絡なしのニコールにまさか再会できることだった。
伝統的なビジネス用のスーツを着たニコールは、 黒い髪を丁寧にとかして、背中に流れていた。 7年を経て、彼女の大人ならではの魅力が彼女をよりきれいに見えた。
その黒髪を自分の手の指で堪能したいとグレゴリーはそのような衝動を抑えるのに必死だった。 彼はニコールの美しい長い髪が好きだった。今もその趣味は変わっていなかった。
「フィオナとあなたはお似合いだわ。 挨拶まで同じね」と気分が悪そうに、ニコールはため息をついた。
どうも変な目の輝きをしているグレゴリーの表情を見るだけで、何か良くないことを考えているのだということは分かっていた。 すでに7年前のその日から、ニコールはずっとこの男だけは避けようと心に決めた。
7年前に浮気をして自分を裏切ったグレゴリーを見て、 ニコールはもうお互いに話すべきことなど何も残っているはずもないと思った。 この再会は完全に偶然だし、また会うつもりはなかったのだ。
早く会話を終わらせてカーを探そうと、ニコールはグレゴリーに背を向けた。 何気なく廊下の向こうに目をやると、カーの幅広い背中が見てとれた。 その彼の前には、フィオナが挑発的な表情を見せながら立っていた。
グレゴリーはニコールが離れようとしたのを見て、急いで道をふさいだ。
「せっかくここに居るのだから、話をしようじゃないか。 君は今はカー・グーと一緒にいるってフィオナから聞いたよ。 あの昔の出来事は忘れて、何を言っても、僕たちはかつて楽しい時間を過ごしたね」
「君には随分と世話をしたんだから、今は君が僕にお返しをする番じゃないのかな。 ソーグループに投資するように、カーに働きかけてくれ。 ソーグループには大金が必要だ。 8億円があれば足りる」と、グレゴリーは話した。
その8億円という額が莫大だと解っていたのだが、グレゴリーはカー・グーには大した額ではないことを知っていた。 ニコールはフィオナよりソーグループを救う潜在力を持つことは、なぜ彼は今までわからなくなったの?幸いなことに、ニコールと再会した。
彼女は良い人生を送ってきたようだ。 ここ数年、フィオナはその美貌によってソーグループの利益を上げてくれていたが、焼け石に水だった。
グレゴリーの馬鹿げた話を聞かされ続けている間も、ニコールはずっとカーのことを見続けていた。 フィオナが彼と一緒にいることが心配だったのだ。 7年前のあの夜のことを知っているフィオナが、もし彼に話したら、それはもう終わりだとニコールは思った。
「グレゴリー、恥を知りなさい。 楽しい時間を過ごしたって、 私にはそうは思えないわ。 その反対に、私の青春が無駄に浪費されたとしか思えなかった」
確かに、何年前に、グレゴリーと付き合うのはニコールが選んだことだった。 その時のグレゴリーは、優しくて思いやり溢れた男性だと思っていたし、気配りしてくれたので付き合うことにした。
その決定が自分の人生をつぶすところになるとは、想像もできなかった。 どうしてそうなったのか、誰のせいにもできなかった。 彼女自身が間違えたのだ。
グレゴリーの手を押しのけると、ニコールはカーの元へと行こうとした。しかし、グレゴリーが彼女の手首をしっかりと握りしめた。
「そんな態度はひどすぎるだろう、ニコール。 君がカー・グーに頼っているなら、欲しいものはすべて手に入れられると思わないで。 7年前に君の身におきたことを彼が知ったらどうだろう?それでも、君はカーが守ってくれるとでも思ってるのか? 僕の話を聞いたほうがいいと思うよ。 してくれたら、カー・グーに話さずに内緒にしてやってもいいぜ」と、グレゴリーは欲深そうに笑った。
そして、彼はニコールの手にキスをしようとした。 だが、唇が彼女の手に触れる前に、 彼女に全力で振りきられた。
同じ瞬間に、フィオナが触れようとするのをカーが身を引いて避けた。
何がニコールの身に起きたのか知りたかったが、だからといってフィオナが自分を誘そうとするのは気が乗らなかった。 そもそもフィオナの香水の匂いが嫌いだったので、カーは振り返って立ち去ろうとしていた。その時、ニコールの腕をつかんでいる男、グレゴリーの姿をみた。
それを見て、カーは不快感を覚えた。
「グレゴリー、あなたほど恥知らずな男は見たことがないわ! ソーグループが崩壊するのは時間の問題だ!」
ニコールは、理不尽なことをしたグレゴリーに完全に腹を立てていた。 カーの方を見ると、彼が自分を見ていると気づいた。 彼の目とあって、なんだかニコールは罪悪感を感じた。
カーの鋭い目つきを見て、ニコールは少し動揺した。 フィオナがあの夜のことを彼に話したのではないかと疑った。
そう考えると、思わずグレゴリーを無視して、カーに向かって歩いて行った。
一歩ずつ彼に近づく間、緊張が増した。
フィオナはニコールが近づくのを見て、カーの腕を取ろうと手を伸ばした。
しかし、ニコールが彼女の腕をつかんで押しのけて、それを阻止した。 床に倒れそうになるフィオナを、グレゴリーが助けた。
「グー様は誰でも近づくことができるわけじゃないから、 よく己を知った方がいいわ。 それに、グー様は、 あなたの嘘など信じないから」
ニコールはフィオナが何を言ったとしても、カーはそれを信じないようにと、不安を隠そうと必死だった。