私のCEOであるパパ
作者谷田部 崇博
ジャンル御曹司
私のCEOであるパパ
しかし、それは無理だった! 彼女の身体が震え、背筋がぞくぞくしていた。 胸の動機も激しくなった。 カーを見る勇気はなかったが、彼が自分をにらみつけているのが感じられた。
ニコールは絶望的だった。 短い息を吐き、頭の中はぐるぐると猛スピードで回っていた。 どうしよう! カーは、知ってしまったに違いない。あの夜の逃げた女性が自分であったということを。
不意に振られて、転倒しそうになったフィオナは、 ニコールをにらみつけて、 怒りのあまり、息が荒くなっていた。
「ニコール、自分がまだニン家の高貴なお嬢さんのつもりなの? 7年前のことは忘れたの?あなたは完全に恥知らずの尻軽女だったわ。 グー様に知られたら、 困るだろうね?」
「7年前に、あなたが自ら男のベッドに…」
フィオナが昔の話を持ち出そうとしているのを見て、ニコールは反論して彼女がそれ以上話すのを止めた。
「うるさいわね、フィオナ。 グレゴリーとあなた二人はビジネスのために私を利用したことはわかってる。 ここでそれをわざわざ説明しなくてもいい。 あなたたちは目標を達成するためなら、何でもするわね。 本当に恥知らずだわ」
過去の出来事について、ニコールは何の心配はなかった。 7年前に夜を共にした女性が自分だとカーは気づいていなければ、彼女は恐れる必要はなかった。
彼女が裏切られたことをカーに知られたとしても、それは構わなかった。 なぜなら、それは彼女のせいではないのだから、恥ずかしいなんて思う必要はなかった。
グレゴリーはニコールの後をついてくる途中、彼女の皮肉を聞いた。 もともと彼はカーに良い印象を与えたかった。 何を言っても、ソーグループは今、カーに助けて貰わなければならないのだ。だから、彼は慌てて反論した。
「それは違うよ、ニコール。 君の代わりにフィオナを選んだことに怒ったのは分かったが、 君の方がニン家を再興させようと、自分を売ったの。 だから、ソー家は不潔なあなたを受け入れられなかった」
グレゴリーはすぐそばにいるカーの顔を横目で確認しながら、反論していた。 カーはそれらを冷静に見ているだけだった。 彼の意味深いまなざしの奥に何がありそうだった。
彼は、意見することもなければ、その場を離れることもしなかった。
そのため、グレゴリーは真顔で姿勢を正して、自分は間違っていないという素振りをしてみせた。 フィオナと意見を一致させれば、ニコールはどうやっても疑いを晴らすことができないだろう。
ところが、ニコールは怒った顔をせず、皮肉めいた笑みを浮かべただけだ。
ニコールにとって、今ではグレゴリーとフィオナは自分とは一切関係がなかったからだ。 彼女は自分の気にする人のみの話が気になるのだ。
そういうわけで、グレゴリーとフィオナの二人に何を言われようと、どうでもよかったのだ。 彼女はただ、その二人の「芝居」を見ていた。 その表情は冷たかった。
「マンハッタンから帰ってきて、こっちで自分の本来の姿を隠し通せると思ったの? 夢にでも思わないわ、ニコール。 あなたが尻軽女だという事実は、 どれほど隠そうとしても、変わらないわ」
グレゴリーをちらりと見ながら、フィオナは再び勇気を出したかのように、ニコールを罵倒し続けた。 しかも、 カーはニコールをかばおうともしなかった。 ニコールにはもう完全にカーは関心がないのだとフィオナが確信していた。
「お二人の演技のうまさには脱帽だわ。 ソーグループはもう損失を埋められないのは、ソーさんが演技力を磨くことにすべての時間を費やしたので、 ソーグループを管理する時間がなくなるからだろう」
ニコールは冷笑して、グレゴリーの最大の弱点を突いた。 屈辱的な一撃を食わせた。
「パンッ!」
大きな平手打ちの音がした。ニコールはその平手打ちにより頭が横に傾いた。 思わず打たれた方の頬に手をあてると、 腫れあがり熱くなった頬を感じていた。
グレゴリーは手を挙げたまま、唖然とした。 ニコールに平手打ちをしたのは完全に無意識な行動だった。 今のソーグループに対して、彼に確かに責任があった。だから、ニコールの話を聞いて、思わずキレちゃった。
自分がソーグループの失敗を導いたと言われるのは、グレゴリーにとって許さないことだった。 尊厳を傷つけられると感じたのだからだ。
「よくも俺の部下に手を出したものだね!」
カーは、まだあがったままのグレゴリーの手首をつかんだ。 彼に冷たいまなざしを投げかけた。 それまでは穏やかに見えたカーの視線には、相手を脅かす血のような殺意が感じられた。
「グー様 ぼ、僕は…」
グレゴリーは、恐怖のあまりそれ以上口出しができなかった。 カーはまるで地獄から来たかのように、目つきも顔も怖かった。 彼はまさしく世界を支配しているようだった。 あまりの不気味さに、グレゴリーは恐ろしくて何も考える事などできなくなっていた。
そして、言葉を最後まで言おうとする前に、グレゴリーは骨の折れる音をきいた。 汗がどっとあふれ出した彼は、 痛みで大声を出した。
「ああ!」
腕を抱いて、グレゴリーは痛みに苦しみながら、床に倒れこんだ。 腕の痛みは矢が刺さったようだった。彼の身体が震えた。
恐ろしい表情をしたグレゴリーを見ながら一歩後退したフィオナは、驚きのあまりよろめき、とても愚かに見えた。
カーは倒れたグレゴリーを無視すると、大急ぎでニコールの方へとかけよった。 そして彼女の小さな顔をそっと手にして、気を付けながら横に傾けた。 赤く腫れあがったニコールの頬を彼はじっと見つめた。 胸がわずかに痛んだカーは、 より不機嫌になった。
「ついて来なさい」
カーはニコールの返事を待たず、 彼女の手首をつかみ、すぐに外へと連れだした。
ほんの少しの瞬間、ニコールはぼんやりしていた。 自分の手をカーが握っていると気づき、 彼女は本当に驚いたのだ。 あまりの速さで物事は進んだからだ。カーが自分のためにグレゴリーをやっつけてくれるとは思ってもみなかった。
ニコールを後部座席に座らせてから、カーは自分も乗り込んだ。 彼はずっと腫れあがったニコールの頬を見つめていた。 グレゴリーは明らかに力いっぱいに彼女をひっぱたいた。
そのため、ニコールは、半分がひどく腫れあがった顔をしていた。
「痛むか?」
車に乗ってから、ようやくニコールは我に返った。 そして、優しいカーの声に、思わず顔を赤らめた。 そっと頭を動かして、カーから目線をそらした。
「いいえ」
ニコールはつぶやいた。 顔は少しだけ熱っぽかったが、触れないと痛みはないのだ。
カーは驚いた表情をしていたニコールを見つめていた。 もしもほかの女だったら、自分の同情を得るために泣き叫んでいたに違いない。
しかし、今彼の隣に座っている女性は痛みを感じないか、暴力を受けていないかのように冷静だった。
「行こう」
カーは運転手にこう言いながら、姿勢を伸ばし、座席に座り直した。
その一方、ニコールはずっと フィオナが何かをカーに話したのではないかと心配していた。でなければ、彼がこのように自分を助けたりはしなかったのではないかと。 考えれば考えるほど、ニコールは不安になっていった。
「何、何でしょうか?」
ニコールはカーが何かを言ったと思い、どもりながら返事をした。 彼女は手が震えていた。
しかし、話し始めた瞬間に、カーは運転手へ指示を出したことに気づいた。
そして、彼女はすぐに窓の外へと目をやって、何事もなかったかのようにふるまおうとしたが、ひどく恥ずかしかった。
普段の彼女はいつも誰かに対して失礼だったことはなかったが、さっきは頭の中がいっぱいだから、勘違いしていただけだ。
カーはいつもよりも変な彼女の反応に、眉を少しひそめた。 ただ、それに対して何も言わなかった。
カーはニコールのことを謎めいた存在だと感じていたのだ。
二人ともお互いに穏やかに黙って、互いに何かを考えながら座っていた。 そして、すぐに車はコミュニティの入り口の目の前まで到着した。 ニコールは薬局を見つけたので、 運転手に車を止めてもらった。
「すみません、ここで止まってください」
そのまま家に帰るわけにはいかない。 なぜなら、ジェイが自分の顔を見て、とても心配になるからだった。
車を止めてもらい、ニコールはカーの方へと向き直り、丁寧に別れを告げた。