私のCEOであるパパ
作者谷田部 崇博
ジャンル御曹司
私のCEOであるパパ
「ご心配なさらずに、 ソ様。 用意済みですので」
ソグループは決して無視できないとクラブのマネージャーは心得ていた。 すぐさま彼はドアの脇に立たせていた人に入ってくるようにと合図をした。
ニコールはドアの脇に立つ人へと視線をうつした瞬間、ショックで目を丸くした。
フィオナはストラップレスのピンク色のドレスを着ていた。ウェストのくびれたデザインは彼女のスタイル良さを際立たせた。
フィオナを見た瞬間、ニコールは人知れず思わず笑ってしまった。 7年を経て、フィオナは相変わらず若かったが、目からその後の人生での浮き沈みが見て取れた。
一方で、ニコールがカーのそばに座っているのを見て、フィオナの顔からは笑顔が一瞬にして消えた。 ところが、彼女はすぐに気を取り戻してまっすぐと歩いて、ジェレミーの左側の席に座った。
ジェレミーのそばに近づくと、彼に軽く会釈した。
「今晩は、 ソ様。 フィオナと呼んでください」
カーは、その一方でニコールの目を見て、彼女の目の奥にある嘲笑にすぐさま気がついた。
「知り合いなのか?」
ニコールは首を横に軽く振った。
彼女は決して嘘をついているわけではない。 この今のフィオナのことは本当に知らないのだ。 子どもだった頃のフィオナなら知っていたが、彼女がグレゴリーと企てて、自分を他の男のベッドに送り込んだ瞬間から、彼ら二人のことを完全に忘れることにしたのだ。
ニコールがカーと親しく話しているのを見て、フィオナの嫉妬心は再び高まった。 この個室において、カーが誰よりも重要な人物であるということは明らかだったからだ。
フィオナはカーが誰なのか知らないが、ジェレミーが彼に対して相当な敬意を払っているのを見て、大物なのだろうと思った。
どうして何においてもニコールより自分が劣っているの?今の夕食会もな! 彼女が一緒にいる男性が自分の隣にいる男性よりも優れていた。しかし、外見から見ても、スタイルから見ても、自分の方が彼女よりも優れていたのに」とフィオナは心の中で不平を抱いていた。
「どうも、ニコール。 お久しぶりね、元気?」
フィオナはニコールに向けて、微笑みながらグラスを向けた。
フィオナの言葉を聞いたカーは、無表情のままだったが、 とても面白いことが始まるのに気がついていた。
「久しぶりとは? 何を言っているの? どこかで会ったかしら?」
ニコールはフィオナが偽善者ぶった表情を浮かべているのを見て、この狭い世界を呪いたい気分だった。
フィオナはグラスを持った手をやや震わせて、笑顔も凍りついた。
「あなたが去った後、私ずいぶん心配したわ。 何を言っても、あなたは…」
「元彼とあなたに裏切られたばかりだろう。 しかし、今さら何を? あなたの愛している男を譲ってあげたのに。 今、なぜここにいるの?」
古い事実をフィオナが蒸し返そうとしたが、ニコールはフィオナに自分のことを金輪際傷つけさせないと決心していた。
ジェレミーは二人の女性のやり取りを興味深く見ていて、邪魔しないことにした。 なぜなら、カーの無関心な様子から、彼はニコールを放任することがわかったからだ。だからこそ、彼はその二人を邪魔して、カーを不愉快にしてはいけない。
「あなたは勘違いしているようね。 自分の体を売ったのはあなた自身、そしてグレゴリーを捨てたのもあなたよ。 彼が完全に落ち込んでいたから、私たちは…」
ジェレミーとカーの面前でフィオナは無謀な真似はできなかった。 ソーグループの存続は今自分の隣にいる、ジェレミーに完全に依存しているのを忘れなかったからだ。
「だから二人がセックスをしたのね。 だとしたら、ここで何をなさってるの?ソー夫人」
隣にカーが座っているので、彼が疑惑をもたないように、ニコールは十分に注意をして、7年前のあの夜のことを持ち出したくなかった。
「私は…」
フィオナはジェレミーの方に目をやると、何を言うかと彼は聞きたがっている様子を見た。 顔を赤らめ、恥ずかしそうに彼女は下を向いた。
「私たちは別れたの」
もちろん、本当のことなど言う気はなかった。 実は、彼女はソーグループのために、ソグループとの協力計画を取りつけたくて来ていたのだった。
ニコールは嘲笑って、フィオナを無視しつづけた。
フィオナと元彼のグレゴリーの関係はどうなったか今どうしているかについて、ニコールはちっとも気にしていなかった。
カーは自分の隣に座ったニコールは、このように気勢鋭く人に迫る一面を持っていることに驚いていたが、相変わらず無表情のままだった。 代わりに、ジェレミーの方に向いてこういった。
「時に女はとても面倒だね」
その言葉にジェレミーはグラスを上げて、カーに乾杯しようと提案した。
「仰る通りだ。 グーさん。 乾杯しよう」
ジェレミーの持ち上げたグラスのワインをしっかりと見つめて、カーもグラスを持ち上げて、急いで飲み干す代わりにゆっくりと話をした。
「グーグループとソグループの協力計画いついては、我が社の方からはディレクターのニコール・ニンを責任者と決めた。 両社の協力計画が成功を収めることを楽しみにしている」
話し終えると、カーはジェレミーとグラスを鳴らして乾杯をした。 短い言葉でカーは、ニコールが誰なのかを慎重に紹介しながら、彼女がどれほど社内で重要性があるかを示したのだった。 その言葉はジェレミーとフィオナの二人を恐れさせるためだった。
予想通りだったが、フィオナはカーの台詞に真っ青になっていた。
てっきりニコールは、その場にホステスとして座っているのだと彼女は勘違いしていた。 まさかニコールがそれほど重要な地位を持ったとは思わなったのだ。
フィオナの驚いた表情にニコールは全く気にもせずに、飲み物を先に口をつけて、ジェレミーに向かって笑顔をしてみせた。
「ご指導ご鞭撻をよろしくお願いします。 ソ様」
ジェレミーは軽く会釈を返した。 ニコールは特別な女性だったのだということが良く分かった。
「化粧室へ行きますので、失礼します」
フィオナは今聞いた言葉にショックを受けていたが、 心底ニコールを罵る以外成す術がなかった。
部屋を出た瞬間、フィオナは手首をつかまれて、強く引っ張られた。
「どうなんだ? ジェレミーはソーグループとの協力には合意する意図はありそうか?」
グレゴリーだった。彼は、どうしてもソグループとの協力計画を進める必要があった。それを取り付けられなければ、ソーグループは存続することもできない状態だったのだ。
「そのつもりはもちろんなさそうよ」
グレゴリーの手を大急ぎで振り払うと、今どれほどニコールが傲慢だったかを思い出したフィオナは、再び激怒していた。
「今、私が誰にあったと思う? あの尻軽女のニコールだわ。 あの女にそんな強力な後ろ盾があるとは思わなかったわ。 完全にキレちゃったわ」
グレゴリーは明らかにフィオナの言葉にショックを受けていた。 ニコールは7年前に去ってから、一切連絡をしてこなかった。
7年前に、彼らが部屋番号を間違えたので、 ニコールを利用した計画は泡になっただけでは済まず、約束した部屋で待っていたその人まで怒らせた。そのため、ソーグループ全体が巻き込まれた。
いまや、ソーグループに倒産が差し迫っていた。
「強力な後ろ盾って? 誰のこと?」
フィオナは何かをいおうとしたが、その時、カーがそばの個室から出るのが見えた。 電話を手にしたカーは、誰と話しているようだった。 彼女はグレゴリーに目配せをした。
「彼のことよ。誰かわからなかったが、ジェレミーさえ彼に敬意を払ったのよ」
フィオナの目線の先にいる人を見て、グレゴリーは目が輝いた。 それはグーグループの社長であるカー・グーじゃないか。
「ニコールが彼と一緒にいたの? まあ、今回は彼女をうまく利用しないと」と、グレゴリーはいった。