替え玉の花嫁
作者羽間 里絵子
ジャンル恋愛
替え玉の花嫁
「そんな…」オータムが目を見開き、答えようとした。 彼女はうぶであるように見えた。
しかし、チャールズが彼女の話を遮った。「イボンヌ、俺がお前を妻として迎えたのはお祖父様のためだ。 もしお前が俺との関係を確かにするために俺と寝ようと思っているなら諦めろ。そんな事はお前の夢の中でしか起きない」
彼は千という候補者からイボンヌを選んだのは2つの理由からだ。 一つ目はイボンヌは実家が金持ちだが、 我が儘で無知でバカな女の子だと噂されている。 二つ目は、欲深い彼女の父親であるサイモン・グーは少しだけの餌で満足できる。 さらに、グー氏の会社だけが彼にとって脅威となることはない。
しかし、何が起こった? 帰宅した途端、彼女はその美しさをセミヌードで見せつけ、彼を誘惑しようとした。 彼らが彼女を間抜けだと言っているのが嘘のようだ。
彼女が自分の体を使って人を誘惑しようとしていることを知っているのに。
オータムは契約書についてどうしてもチャールズに話したかったので、落ち着きを取り戻そうとしていた。 チャールズの早とちりで彼女の行動をバカにしている間、彼女は酷く怒っていた。
彼女はベッドから起き上がってしゃがみ込み、チャールズの目を見た。 彼の暗い目が彼は彼女には価値がないものだと言うことを表していた。
オータムの怒りが頂点に達した。
「ルーさん、 あなたには美しいレイチェル・バイがいるわ。 ごく普通の私はあなたには物足りない事は確かよ」オータムは薄ら笑みを浮かべた。
「私は自分をよく解っているわ。だからあなたに愛されようとなんて思っていない。 でも、もしこの僅かなお願いを聞いてこれにサインをしてくれたら、 ありがたいわ」 オータムは片手でしっかりとタオルを持ち、空いている手で鞄からファイルを出し、 チャールズに見せた。
「ルーさん、 私は何者でもないわ。 あなたが私と結婚したがったから、そうした。 そして、あなたがやむを得ずに私と結婚するとわかってる。 だから、私が必要になくなった時は私を解放してくれる? そうしてくれればありがたいよ」と語った。 彼女の口調は戯けてたり、誤魔化したりしている素振りはない。
チャールズは彼女の勇気を見て驚いた。
契約書には2文のみ書かれていた。
項目1:当事者A(チャールズ・ルー)は、グー氏の会社がこの危機を乗り切る事に支援をする。
項目2:いかなる場合でも、当事者AとBはセックスをしてはいけない。
オータムが当事者B欄の下に署名した。 チャールズは、彼女の字がきれいだと気がついた。 そのインクの出かたは雲やタバコの煙のように調和のあるものだ。
彼女は思いやりがあり、しっかりしている女性であるに違いない。
「ルーさん、 早く署名してくださらない?」ペンを渡しながら彼女は言った。
チャールズはまだショック状態だった。 彼女は悪戯をしていると思っていた。
彼はイボンヌを使うことに罪悪感を感じていたので、彼女に真実を伝えたかった。 彼女を愛していないから、何とか別の方法でその埋め合わせをするって。 でも、この契約書については彼を混乱させた。
「何を計画しているの?」
「ルーさん! 」 オータムは声をあげた。 彼はどうしてこんなに傲慢なんだろう? 私は陰謀なんか企んでないし。 実際、彼とは何の関係も望んでないわ。 だから、この契約書 を書いたんだ。
「あなたは人生の中で数え切れない人に会ったと思うわ。 私があなたを騙そうとしてるかどうかくらい簡単に見抜けるだろう? それに、この契約書にサインしてもあなたには損はないよね?」
チャールズは瞬きをする事なくオータムを見ていた。 彼女の無垢な目が騙すつもりはない事を表していた。 すると、彼は契約書に項目を追加した。 「君はこれに異論がなければ、俺が署名する」
オータムは契約書に目を通し、チャールズが書いた項目を見た。 「当事者B イボンヌ・グーは当事者Aが求めるような良い妻としての行動をしなければならない」
チャールズは、オータムが慎重に検討してうなずくまで署名をしなかった。
オータムは彼が署名欄にサインをしたのを見て安心した。 彼女はチャールズの気が変わる前に契約書を取り上げた。 いつかこの契約書を額縁に入れると彼女は決めた。
契約書に気が入っていたので体を覆っていたタオルが床に落ちていることに気がつかなかった。
チャールズは憂鬱で無表情でいながら彼女を見ていた。
彼女の目は星のように明るく、透き通っており、 長いまつげは揺めき、木目細く透き通った肌は薄っすらと赤みを帯びており、唇は薔薇の花びらのように美しかった。
そのため、彼女の体を見たチャールズは一瞬ぼうっとした。
彼女の姿は…なんと素晴らしく魅力的だ!
優雅な顔立ちで チャールズ好みの大きな胸と尻で完璧な体の曲線を表していた。 そして、彼女の肌は柔らかく瑞々しいそうだ。
チャールズは彼女をじっと見つめていた。
オータムが彼の前で全裸でいたことに気づいたのはかなり経ってからだった。 気まずい静けさだった。 彼女は頭を上げ、チャールズを見たが、 彼にじっと見られていると気づいた時、恥ずかしさのあまり赤面し、慌ててバスタオルを拾い上げて体を覆った。 恥ずかしかった。
わざとバスタオルを落として誘惑しようとしていたと思われたかしら?
彼女は恥ずかしそうに隣に立っていたチャールズを見た。 彼は落ち着いているように見えた。 それに、彼の表情は何も起こらなかったかのように見えた。
そんな冷静なチャールズを見て、オータムは明らかにがっかりしていた。
自分が完璧なスタイルでも素敵なお尻でもないと思っていたから、 自分の体付きに満足していなかった。 そして今、チャールズの反応にはさらに失望させられた。
残念なことに、チャールズがどれだけ感情を堪えていたのか彼女は知るはずもなかった。 彼はこの少女の前で面目を失いたくなかったため、自分の表情を一生懸命コントロールしてきた。
しかし、彼は彼女の失望した目を見逃さなかった。
チャールズはレイチェルとのこの2年間、肉体関係はなかった。 例え同じベッドで寝ても、彼は紳士的に振る舞った。 もちろん、彼らが一緒に過ごした夜は多くなかった。
レイチェルはそういう彼をよく知っている。 チャールズが言うには、レイチェルが一番思いやりのある彼女だ。 彼は結婚前に彼女と肉体関係を持ちたくなかった。
彼は彼女を尊敬し、お互いの愛を尊重したからだ。
チャールズはオータムを見つめ続けたが、頭の中はレイチェルの事で一杯だった。
オータムは彼の視線に耐え切れずに、 「ルーさん、もう遅いわ。 もう寝に行った方がいいと思うわ」と言った。
チャールズと同じ部屋で寝たくなかったので、「行く」という言葉を強く言った。
彼に出ていって欲しかったことに、 あからさま態度をとった。
チャールズは気が付ついた。 オータムにわかったと言い、慌てて書斎に戻った。 彼女にキスし、抱きしめたい衝動をかろうじて抑えられた。 この思いを断ち切るため、三十分も冷たいシャワーを浴びた。 火が付いてしまった欲望を抑える方法が他になかった。 この何年間、レイチェルを腕に抱いて寝ていても、欲望をコントロール出来なかったことは無かった。
翌朝、オータムは目覚ましの音で目が覚めた。 結婚をしてミセス・ルーになったと言う 現実感が出てきた。 しかし、それは一時的なもので、いつかそれがガールフレンドのレイチェルに取って変わられるだろうということを彼女は知っていた。
結婚式のために3日間の休暇をとっていたので、仕事に戻らなければいけない。
気を取り直して部屋を出て行き、ダイニングルームに座っているチャールズを見かけた。
昨日は結婚式で忙しかった。 それに、昨夜は薄暗い部屋の中では彼の顔をはっきり見ていなかった。 そして今となって、こっそりと彼の顔を見た機会があった。
彼女は息を呑むほどハンサムな男性と実際に結婚したと言う事を認めざるを得なかった。